Cat's World

りょう

第37匹 Change the World

              第37匹 Change the World


「貴様、何故意識を取り戻せた?」
「そんなの決まってるだろう…」
刺された腹部が強烈に痛む。それでも俺は、立ち上がる。
「俺には守りたいやつがいる。そんな奴を放っておいて、元の世界に戻れれかよ」
「何を言っている? 元の世界だと? まさか貴様…」
「ああ。俺は人間としてまだ生きている。現に俺は、一度人間に戻った」
「馬鹿な! そんな話があるわけない」
「あるから言ってんだっよ!」
再び剣を握り、エルーシャに向かって剣を振りかざす。反応が遅れたエルーシャは避けきれず、剣がエルーシャの体に深い傷をつける。
「ぎゃぁぁ」
「俺は十五年前にできなったことを、この世界でしてみせる」
家族を失った俺は、絶望の淵にいた。こんな世界はいらないから、誰もが平和で暮らせる世界を望んだ。世界を変えたかったが、そんな事は出来やしなかったんだ。小さい存在でしかない俺なんかには…。
でも今は違う。俺は世界を変えられるチャンスをこの手に握っている。だから…。
「これでラストぉぉ!」
こんな所で諦めやしない!
俺は最後の力を振り絞って、一撃を拳でエルーシャにかます。
「うぉぉぉ」
俺はこの世界が好きだ。最初はふざけた世界だと思っていた。でもムム、クポ、チル、ユキ、その他沢山の猫と出会った。この出会いがなければ、ここまで俺を動かすことができなかった。この世界から憎しみや悲しみが無くなれば、皆が笑顔で暮らせる世界が出来上がる。完璧とまでは言えないけど、小さな誰かが望めば、きっと変えられるはず。今の俺のように動き出せばきっと。
「ぐうぁぁ」
俺の一撃を食らったエルーシャはそのまま吹っ飛び、壁に衝突。そしてそのまま、気を失っていた。
「はぁ、はぁ」
一瞬空気が静まった後、その場にいた誰かが高らかに宣言する。
「女王エルーシャが倒れたぞぉぉ」
すると、辺りが一斉に歓声に湧いた。
「ミケぇぇ」
そして、チルが抱きついてくる。
「うわ、馬鹿! そんか勢いよくきたら…」
彼女を支えられず倒れてしまう。
立ち上がる為にチルをどかそうとするが、どかない。俺に抱きついたまま、彼女は泣いていた…。
「馬鹿はどっちよ…。私どれだけ心配したかと思ってるのよ」
「チル…」
「私ほんの少しだけ思い出したのよ。人間だった頃の記憶」
「え?」
「私にはお兄ちゃんが居た。いつも優しくて、ずっと側に居てくれたお兄ちゃんが…」
「奈穂…」
思わず妹の名前を呼んでしまう。これは彼女、チルの人間だった頃の名前。
「お兄ちゃん…」
それに反応してチルがそう言う。ああ、この響き。十五年振りだな…。
「私の側にずっと居て…」
  「ああ。俺はお前の側に出来る限り居るよ…」
「ありがとう…」
でもその願いを叶える事は出来ない。俺は…元の世界に帰らなければならない。もう一人の大切な人と一緒に…。
                       第38匹 残り少ない時間 へ続く

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く