Cat's World

りょう

第32匹 十五年前のプレゼント

          第32匹 十五年前のプレゼント

1
「じゃあそろそろ話をするか」
「うん」
家を出て少し歩いた所で、俺は話を始める事にした。後ろではクポがトコトコついて来ている。
「お兄ちゃんお姉ちゃん、今から何するの?」
「大切なお話よクポ」
「え? じゃあ私ついて来なきゃ良かった?」
「いや、お前にも話しておきたい事があるから、居てもらいたい」
「うん、分かった」
笑顔で答えるクポ。俺は少し胸が痛くなった。このあと話す事は、クポにとってもこの先、とても大切な話だから。彼女は笑顔でいられるだろうか?それだけが不安だ。
「それでミケ、さっきのペンダントの話の事、ちゃんと話して」
「ああ、分かった」
俺はゆっくりとチルに説明を始めた。
2
「この星型のペンダントは、今から十五年前、まだ人間の頃に俺の父親が、皆へのプレゼントとして渡したものなんだよ」
「ミケの父親が?」
「ああ。俺はその時、何故か恥ずかしがって受け取らなかったが、他の三人には渡していた」
「他の三人?」
「ああ。優紀と俺のもう一人の親友である拓也に」
俺の両親は元々そういうのを作る仕事についていた。だから、何かできる度に俺達にプレゼントしていたのを覚えている。それが嫌になった俺は、受け取らなかったんだと思われる。だがもう一人だけ受け取れてない人物がいた。
「あれ? あともう一人は?」
「もう一人は俺の妹だった。丁度その頃に誕生日だったから、その日に渡す予定だった。勿論その事は俺も知っていた。ただ…」
「ただ?」
「渡すことができなかったんだよ。誕生日目前に殺人事件にあって親子もろとも、死んじゃったからな…俺だけを残して」
「え…、それってまさか…」
ここまで説明して、ようやくチルは理解したらしい。
「ここまで来ればもう分かるよな。この世界に何故このペンダントが存在するのか」
「分かるよ。私の両親が元々人間だったんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ私がこれを持っているのは、一緒に死んじゃって渡せなかった妹さんの分?」
「いや、違う」
「え? どうしてよ。」
「まだ分からねえのか? 殺人事件で俺を除いて三人が同時に死んだんだぞ。二人だけこの世界にやって来るのは変だろ?俺の妹も一緒に来たはずだ」
「でも私は、この世界で生まれたはず…」
「お前はまだ赤ちゃんだったから、人間の記憶を持たないまま転生したんだよ。多分お前の両親は、お前が人間だったことを隠していたんじゃないかな」
ここまで考えると、チルを何故国から追い出したのかも分かるような気がする。恐らく、彼女が少しでも人間だった頃の記憶を取り戻して欲しくないから、自分達の側から離す事にした。そう考えるのが妥当なのかもしれない。
「私が…人間だった?」
「そうだ。そして俺の人間だった頃の両親は…ニャンタ王国の国王と王女。その子供に値するお前は…」
「私が人間だったなんて嘘よ! そんな事信じられないし、こんなに好きな人が私の兄だなんてそんなのおかしいよ!」
「チル…」
「私お父さんとお母さんの所に行って、確かめてくる! こんな話は嘘だって証明してみせる!」
そう言うと、チルは走り出してしまった。
「お、おいチル!」
それを追いかけたいが、クポを置いていくわけにはいかないので、一旦踏みとどまる。
「クポ、頼みがある」
「頼み?」
「家に帰って、ムムとユキにこう伝えてくれ。家を守っておいてくれって」
「うん、分かった」
俺はクポにそれだけを伝えて、チルをすぐに追った。
(話すのはやっぱり早かったのか)
チルにこれを話した事を、後悔をしなが…。
                              第33匹 本当の家族 へ続く

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