Cat's World

りょう

第14匹 今を生きる

                   第14匹 今を生きる

1
正直名前が分かった後の事は、まだ記憶があやふやになっている。今日見た夢は先程の事をただ繰り返すだけだった。
(優紀…拓也…)
俺達はその後どの位友達だったのだろうか?本当は死ぬ前までずっと親友だったのかもしれない。
(何で俺は二人を置いて…)
彼らも家族がいなかったのに…。
(でも…今更後悔なんてしてる場合じゃないよな…)
再び目を開くと、いつもの風景が広がる。そうだよな、今俺はキャッツワールドに居るんだ。チルやムム、クポ達とこの家で仮の家族として生活しているんだ。優斗という名前じゃない。ミケという猫として…。
2
チルがまだ起きそうにないので、俺は音を出さないように部屋を出た。
「あ、ミケさん…」
部屋を出るなり、ムムがこちらにやって来た。
「まだ起きてたのか?」
「どうしても気になったんで…」
時計はとっくに日付を越えており、普通ならムムは寝ている時間。そんな時間まで起きてるという事は、よほどチルの事が心配なんだろう。
「クポは?」
「さっきまで頑張って起きていたのですが、寝ちゃいました」
「そうか…」
椅子に腰掛けながら会話をする。
「それで…あの…チルさんは?」
「ゆっくり寝てるよ」
「そうですか…」
ムムはずっと下を向いている。ったく、聞きたい事があるなら、自分で切り出せよ…。
「他に聞きたい事があるから起きてたんだろ?」
「あ、はい」
少しだけ顔をあげるが、声のトーンは低い。
「あの…今日朝から居ませんでしたけど、何かあったんですか?」
「まあ、あったな。かなり大きな出来事が」
「もし良かったら、教えてくれませんか?」
「勿論話すつもりだ。ただ一つ約束してくれ」
「約束?」
「俺が話した事は絶対にチルに話すなよ。あいつはいつか、自分の口で話すと思うから」
3
それから数日が経ち、いつも通りの日々に戻った頃、チルの家に一人のお客が来ていた。
「あのここにクポという子猫が居ると聞いたんですが」
「居るけどどうして?」
「私は彼女の母親の友達のユキと言います。友人の子猫を引き取りに来たんですけど」
「ああ、そういう事ね」
チルが玄関で応答する。
サクラ姉妹より薄めのピンクの毛をしたユキという猫が、クポを引き取りに来たらしい。
俺達は引き取ってくれる猫が来た事で嬉しい事なんだが、その話を聞いた当の本人は…。
「嫌だぁ、チルお姉ちゃん達ともっと居たいよぉ」
と泣き出す始末。
「でもクポ。ユキさんは折角お前を引き取りにくれたんだぞ。わがまま言うなよ」
「嫌だ! 絶対に嫌だぁぁ」
これは色々面倒くさい事になったぞ。
               第15匹 クポとの別れ そして へ続く

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