Cat's World

りょう

第10匹 光の玉と俺の記憶

                第10匹 光の玉と俺の記憶

1
この世界に来て一ヶ月と少し経ちました。
あむ迷い猫の提案により、俺には他に三匹の家族が出来ました。
ああ、この世界に来て良かった…
「って、良い訳あるかぁぁ」
夜の草原に俺の声が響き渡る。ああ、もう一回叫んでやろうかな!
「やめなさいよ、恥ずかしいから」
チルに止められました。
「叫びたい気持ちは分かるけど、流石に近所迷惑になるわよ」
いや、お前の家の周り草原ですから!
近所がありませんから!
「い、いちいちうるさいわよ」
やっぱこいつ、俺の心を読んでやがる。
「てか、何でこんな時間まで起きてるんだよ」
理由は分かるが、あえて尋ねる。
「ちょっと調べ事をしてて、寝てなかったのよ」
「調べ事って、例の紙きれの事か?」
「うん」
最近色々あってすっかり忘れていたが、この世界に来て間もない頃、慌てん坊猫とぶつかって、例の紙を拾ったんだっけ。
「光の玉とか書いてあったけど、何か意味があるのか?」
「うん。まあちょっとね…」
「ちょっとねじゃねえよ。お前がここまで無理して調べるって事は、絶対何かあるんだろ?」
「私別に無理してないわよ」
「嘘つくなよ。お前が毎晩夜ふかししているの、俺は知ってるぞ」
「え? あんた寝てなかったの?」
「現に今起きてるんだから、気づけよ」
「あ…」
相変わらず寝つけずにいた俺は、こいつがどれだけ無理しているのかは分かっていた。毎晩部屋の明かりは付いてたし、それが朝まで消えていなかったのは知っている。だから俺はこうして聞いたんだ。
「ま、そんな訳だから少しぐらい話してくれたっていいんじゃねえのか?」
「まあ、そうだけど…」
チルは少しだけ考えた後、こう言った。
「分かったわ。話してあげる。その代わり…」
「その代わり?」
「あなたが取り戻し始めてるその記憶の事、話してくれない?」
「やっぱりそうなるか…」
「当たり前でしょ」
「ったく、いつから分かってた?」
「ムムが家に居候し始めた頃から」
「早いなおい」
「あなたの様子を見ればそんなの分かるわよ」
でも彼女の言っている事は事実だ。俺は最近人間だった頃の記憶を取り戻している。
「でもそれって、普通はあり得ないのよ。ムムを見れば分かるでしょ?」
チルが言うからには俺は特例らしい。でも正直、俺は記憶を取り戻したくなかった。あまりに残酷な人生を思い出したくなかった。
いつの間にか俺は、記憶を取り戻す事を恐れていたんだ。
「分かった、俺も話すよ」
俺とチルはこの晩、お互い隠していた事を話した。全てとは言えないが、一つ分かったことがある。
それは俺と例の光の玉には、何ならかの関係があるという事だった。
                              第11匹 チルの秘密 へ続く

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