ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

ゲームの職業と趣旨説明(後編)


 さらに、このゲームの目的までも彼女は知っていたとのことだ。どうして知っているのだろう……?
 信楽さんが書いたメモを見ると、次のような会話があったことがある程度推測出来る。

「……このゲームをやっているプレーヤーなら誰だって知っている事実ですよ。この世界の中心には火山があります。その奥地には伝説の金属――オリハルコンが眠っています」
「……それだけ?」
「えぇ、まぁ、厳密に言えば正しい事実じゃないんだよね。今までそこに辿り着いて帰ってきたプレーヤーがいないから、それ以上のデータは無いってことになる。……もしかしたら魔界の入口があるかもしれないし、現実的に考えてみるとそういう貴重なものって強いモンスターが守っている気がするでしょう?」
「確かに、そうだな。しかし流石に今まで一人も火山に挑戦しなかった訳ではないだろう? 誰もが現実への帰還を願っているようにも思えるが……」
「そう、思っているのはほんの一握りですよ、後はここで一生を終えるか、何も考えちゃいないか……」

 どういうことだ?
 メモを見て俺は疑問に思った。何故殆どの人間が帰ろうとしないのか? メモには、『帰ろうとする人間は幾ばくもなく、その人間達により解放軍が創られた』と書かれているからだ。

「――今、ここに居る人間は推測で一万人。そのうちの五百人余りが解放軍のメンバーまたは支持者となっています」
「一万人のうちの五百……何て事だ、二パーセントしか居ないってことじゃないか」
「普通に考えれば簡単な話です。誰も、望んで命は棄てません。みんな、何らかのリターンを望んでいるからです。だからこそ、人間は命を惜しむ。そうでしょう?」
「それは間違っていないが、つまり、『ホープダイヤモンド・ゲーム』の世界が現実よりも良いと考えている連中も居る……ということか」
「えぇ、考えてみてください。大抵ネットゲームに嵌まる人間は現実に何らかの劣等感を抱いています。そういう人間はネットゲームに……勿論普通のゲームでも、ですがエクスタシーを感じます。そして、現実を忘れようとして最終的には『この世界』を現実として認識してしまうのです」
「……馬鹿な、そんなわけが」
「話すつもりは更々ないですが、私もリザも現実では何らかの劣等感を感じていました。恐らく、あなた方も感じた……いや、今も感じることがあるのではないですか? 現実に対する劣等感を、『あぁ、いやだな』と思う心を」
「……感じたことは、」
「ない、わけはない、と思うのですがね。誰にだってその心は……いや、言い過ぎましたね。殆どの人間には闇があります。その闇に漬け込み、怠惰を貪り、現実世界とは確実に異なる世界がネットゲームであって、私たちがプレイしているゲーム、ホープダイヤモンド・ゲームなのですよ」

 メモを一通り読み終わり、俺は深く息を吸った。
 俺にも――彼女が言う『闇』はあった。それを自分からさらけ出すつもりなど更々ないし、言われることがなければ永遠に放置できる事項である。
 だが、『闇』は永遠にそのままに出来るものではない。いつかは全てを、さらけ出される日が来るのだ。
 それを一番知っているのは――他でもない、俺自身だ。


コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品