ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

ゲームの機内は案外快適(後編)


 はじめに彼女から聞いたこの世界についてまとめておくことにする。
 この世界は『マグナカルタ』と呼ばれ、一つの大地と幾つかの島々で構成されている。首都はトロングラッシュ。ちょうど俺達の転送された場所は偶然にもこのトロングラッシュの外れの森だったわけだ。
 トロングラッシュにはこのゲーム内にいるプレイヤーの実に六割が定住しており、あるものは商売を始めたり、またあるものは狩人になったりと様々な暮らしをしていた、とのこと。
 トロングラッシュには王宮が存在し、王に認められれば王宮戦士にもなれるのだという。王宮戦士は階級が一般市民よりも上に設定されており、個別に制定されている法律も一般市民と比べれば十二分に軽いものであった。さらに給料も一般市民の数倍であり、市民と戦士の間に大きな格差が生じているのは火を見るより明らかであった。

「……王宮戦士が十数人しか居ないのに、その発言力は五十倍はいると試算されている一般市民よりも上なんだよ。だから法律も彼らが優位に立つのに直されちゃう。王様も、戦士に裏切られたら自分の命が危ないってことを解っているんだろうね……」
「王様はNPCじゃないのか?」
「NPC……あぁ、違うよ。王様は確か『ゲームIDクジ』で決められた、って言ってたっけかな。ゲームIDは一万くらいあるからその中からコンピュータが無作為に選び取った……って」

 その言葉に信楽さんは、何処か引っかかったのだろう、彼女に質問を投げ掛けた。

「つまり、コンピュータに細工をすれば選べる人間を操ることも可能、ということかな」
「それは無理だと思うよ」ヒトミが直ぐに言葉を返した。「だって、コンピュータのある中央区は絶対に破れないロックが十二層続いて、仮にそれが破れたとしてもマシン語で書かれて居るんだから普通の人間には読み解けないと思うよ」

 何故か、すらすらと言った。
 カンペか何かが彼女の目の前に浮かんでいるように。

「……ふむ、まぁとりあえず王に会うのが先決かな」

 信楽さんは何故かこの状況を楽しんでいた。無表情を気取っておきながら、口元は緩んでいたからだ。
 でも、信楽さんの言っていることは現時点で最も正しい――そう思えるし、俺もその通りだと思ったので、ただ頷きを返すだけに止まらせた。


 ◇◇◇


 トロングラッシュ城下にようやく俺達が辿り着いた頃にはもう日が暮れかけて――ちょうど、黄昏時だった。

「流石にこの時間になっちゃ城も開いてないだろうなぁ……。仕方ない、明日行くとしようか?」
「信楽さん、そんなゆっくりで大丈夫なんですか?」
「逃げないだろうよ、まだ解っていないと御託を連ねて虚構の玉座に鎮座しているに過ぎない」
「……そんなもんですかね」

 以上が俺と信楽さんの会話だ。特に間違いも見られないし違和感もない。
 そういうことだ。
 俺達は至極すんなりと――ここで一晩過ごすことになった。その原因となった会話だ。理由は何故か、そんなことは解らない。
 ただし。

「……しかしまぁ、腹が減ったな。でもこういうゲーム内の食事って食べても腹が膨れるんだろうか?」

 その信楽さんの一言にヒトミは怒りを覚え――「だったら奢ってやんよ!」――その一言で今日の夕食はヒトミの奢りということが決定した次第だ。

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