ルームメイトが幽霊で、座敷童。
代償と回収と一同集結(後編)
作業は恐ろしく思える程早く進んだ。あっという間の出来事だったかのように錯覚してしまう程だった。
「そういえばヴォギーニャ、君はどうするんだ?」
「どうするも何も組織に戻る。手に入れるべきものは手に入れたからな」
「そうか」
これで終わりだ。
俺とヴォギーニャは敵同士で、今までは休戦条約を結んでいたに過ぎない。
つまりは、これからは戦う相手だということだ。
「……次会った時は捕まえる」
「へぇ……覚えておくよ。どうせ、無理だとは思うけど」
ヴォギーニャはそう言って部屋の奥へと向かった。そっちに扉などあっただろうか?
「そっちから行って他の神事警察に捕まったら色々面倒な事になるからね。此方から行ってなるべく会わないようにするさ」
独り言のようにヴォギーニャは言って、奥にあるという扉へと歩いていった。
「さて、と……。あとは姉ちゃん達を探すだけか……」
そう言って俺は机から『猿の手』を取り出し、元入ってきた扉へと向かった。
ちょうど。
ちょうど、その時だった。
扉が、俺達が入った後(恐らく)翠名創理によって閉められた扉が、ゆっくりと開き始めた。
「……まさかまだ残党が……っ!」
俺は扉に向かって封霊銃を構えた。碧さんも何処と無く臨戦態勢となっている。
しかし。
しかし違ったんだ。 それがどんな人間かということへ、気付けなかっただけだったんだ。
「ヘェ……コンナ奴ガ、翠名創理ノ計画ヲトンザサセタノカ……」
テープから出る声をそのまま引き伸ばしたような、奇怪な声。
俺はその声に思わず自らの死を暗示した。カミサマとともにいるというアブノーマルな世界であるにも関わらず、この存在はアブノーマルすぎた。いや、一周過ぎてただのノーマルな存在にも思えてしまう。
「《神憑き》カ……。実物ヲココデ見ルコトニナルトハナ……」
そして。
そしてその姿が、扉からこの部屋に入ってきた。
見知らぬ存在だ。ヒト……なのだろうか。それすらも解らない。せめて何か怪物らしい……いや、動物らしい何かが残っていればいいのに、それすらもなかった。
「知ラナイノモ無理ハナイ……。コレハ、《カミサマ》カラツクリアゲラレタカラナ」
「……カミサマから作られた? どういうことだ?」
ここにヴォギーニャさえ居れば何となく知ってそうな気もしたが、悲しいかな、今は彼女は居ない。既にここを脱出したことだろう。その方法は知らないけれど。
「《偉大なる巨人》計画ハ、知ッテイルカナ?」
それはケタケタと笑いながら、言った。こいつにまともな精神は持ち合わせていないのだろう。つまりは、狂った人間だ。クルッテルんだ。それは間違ってないし、正しくないとも言える。なんというのだろう……難しいことで俺の頭はキャパオーバーしてしまいそうだ。
「知ラナイナラ、イイ。惨メニ、ハイツクバッテ生キテイケバ、イイサ」
そしてそいつは消えた。……いや、そもそも存在していたのかも怪しい。本当にそいつはここに居たんだろうか? そんなことを口にしたんだろうか?
それを知る人間は俺しか居ないし、俺自体が混乱しているから、結局はそれを証明出来る人間なんてものは居ないのだ。
「……あれ、リトじゃないか」
その言葉に俺は思わず驚いた。しかし、直ぐにその声は祐希だと言うことが解り、その事実は俺を安堵させた。
◇◇◇
「……つまりは、その最後に出てきたやつはそう言っていたんだな?」
人工進化研究所から出て、ELOへと向かう車中の事である。唐突に姉ちゃんがあの部屋であったことを訊ねてきたので今まで俺は話していたまでだ。
猿の手も回収出来、怪しい研究所の代名詞と揶揄される程だった人工進化研究所を踏破、そのボスも死んだということは作戦としては一度捕まったことになっていても結果オーライだと取れる。
しかし、最後に登場した“それ”は俺達に確実な不確実要素を残していった。
偉大なる巨人計画。
その名前に関して、少なくとも今いるメンバーは知らなかった。アドルフさんがさっき「ELOのサーバで検索をかけて調べてみる」と言ってくれたから、そちらに任せてもいいのかもしれない。
ともかく。
ひとつの戦いが終わったことは確実だった。そして、新たな戦いが待っていることも……自明となった。
「……なんだかしみじみとしちゃってモノローグに何浸ってる訳なのかね」
「あんたこそ何勝手にずけずけと入って来てるんだコラ」
碧さんが最後の最後で台無しにしてしまった。まぁ……今回ドイツでは色々と頑張ってくれたのでもしかしたら日本で新しいゲームを買ってやらないこともない。
「それじゃ私ホープダイヤモンド・ゲームな!」
「あれ曰く付きのゲームで販売停止してなかったっけ? なんか色んなバグというか問題が判明して」
「私は曰く付きのゲームが好きなのよ」
幽霊だからってか。
「……まぁ、ELOに戻って確認するしかないね。ホープダイヤモンド・ゲームが日本で流通してるかどうか。最悪通販でもいいかなあ」
「そのゲームが呪われていなきゃいいんだがな」
「私もやりたいですねえ」
「美夏さん最近話さないと思ったら! 一言目がそれかよ!」
「こういうところで話さないとダメなんですよ。タイミング悪いともう十二部分くらい登場出来なくなっちゃうですし」
「メタい!」
美夏さんのキャラが結局ぶれまくってることには変わりがないけれど。
さて。
俺達が乗っている車も、もうすぐELOに着く。
さて、もうこれ以上問題とか無い、ある程度平和な日常を臨みたいものだが。
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