ルームメイトが幽霊で、座敷童。
十年前の父親の研究報告(後編)
「エゼキエル……の鍵?」
「あぁ、尤もトリスメギストスの鍵は現在大事に保管されていてな。私達が“抉じ開けろ”と言われているのはエゼキエルの方だ」
いきなり突拍子もないことを言われ、ヴォギーニャは狼狽えてしまった。先程の覇気は何処へ行ったんだろう。
それとは対称的に翠名創理はずっと薄ら笑いを浮かべたままだった。若干気味悪くも感じる。
「カミの世界に行くには二つの次元壁を超える必要がある。そして、その壁にある扉の鍵こそが……トリスメギストスの鍵とエゼキエルの鍵だと言われている。私もあくまでも上からもらった資料の受け売りだがね」
「カミに……カミサマになったとして……奴らは何をする気なんだ……!?」
「それは私達下端の人間は知る由もございませーん」
翠名創理はそう言って高らかに笑った。しかしまぁ、よく笑う人間だ。
「……所詮は、駒だ。カミが作り出した巨大な双六の中で踊る駒に過ぎないんだよ我々は。だから……それをぶち壊し、駒に意志を宿らせる。これは私の勝手な想像ではあるが……どうだね? 少しイメージが湧かないか?」
それに似た考えで、カルヴァン派の予定説ってものがある。今現在の資本主義精神の根幹にあるもので、確か『来る終末の時に備えて、天国に行かせるか否か試練を通してチェックする』と言ったものだった……と思う。それを聞けば、若干似ている気もするのも頷ける。
しかし、だからと言ってカミサマが自分の世界だからって、その世界の人間を駒として扱う……のだろうか。
「例えばだ、人生ゲームを友人とやっているとしよう。君は人生ゲームの駒が一億円の借金を背負った時も、その駒と同じように悲しむかね?」
それを言われてしまっては何も言い返せない。
「……どうだ。特に何も思わなかったり、精々『やっちまったな』的な感じにしか思わないだろう。それがカミサマにも言えるわけだ。胎児はカミ、人間は神堕ちだからな」
「それは、論文上の話じゃなかったのか?」
「そうではない。……実体化したカミの構成物質と人間の構成物質がほぼ一致した。さらに、人間とカミを繋ぐ扉は閉ざされているが、カミ側から向かうには、即ち一方通行にはなってしまうんだが、通路が存在する。これを鑑みると、やはり人間は神堕ちだということが解る。それを書いている古い文献にある名前が書かれてある。そう、『エデンの園』と呼ばれる場所だ」
楽園だとか知恵の木の実だか出てきたが今度は何だろうね。まさかアダムとイヴがカミサマだったとかなんて言わないよな。
「……その通りよ」
どうやら俺は思っていたことをブツブツと話していたらしい。薄ら笑いを浮かべながら翠名創理は頷いた。
「アダムとイヴは生命の実をその身体に宿していた。そして蛇に諭され知恵の実をも食べてしまった。……何が言いたいのかは、解るでしょう。つまり、アダムとイヴはカミサマとなった。僅かではあるが、アダムとイヴはカミサマとしてカミサマの世界に居た、ということだ」
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