ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

視点C:瀬谷マリナの場合 -伍-

「フォービデン・アップル……とはなんでしょうね」

 めぐみさんが言ったひとつの単語は確かに私にも気になった。
 フォービデン・アップル。英語ではForbidden appleと書くが、歴史上ではForbidden fluitと書いたほうが正しいものだとされている。
 日本語訳すれば、『禁断の果実』――即ち、エデンの園でアダムとイブが口にした木の実である。
 もともとアダムとイブはエデンの園にある果樹のうち、この果実だけは食べることを禁じられるが、イブはヘビにそそのかされてこの実を食べ、アダムにも分け与える。この果実を口にした結果、アダムとイブの無垢は失われ、裸を恥ずかしいと感じるようになり局部をイチジクの葉で隠すようになる。これを知った神は、アダムとイブを楽園から追放した。彼らは死すべき定めを負って、生きるには厳しすぎる環境の中で苦役をしなければならなくなる――というのが旧約聖書の創世記に書かれている場面である。

「ふむ。……つまり、ヒトがカミに為るパーツということでしょうか……」

 めぐみさんにそのことを話すとそう言って黙りこくった。

「フォービデン・アップルは何をするつもりなんでしょうか」

 そう言ってめぐみさんは更に画面をスクロールしていく。

 ――フォービデン・アップルへの引継ぎを完了し、まず翠名博士のタイムマシン理論を基にタイムマシンを造るところから始める。タイムマシンを造る上で欠かせないものは、ヒッグス-エスメラルダの析出である。
 ――ヒッグス-エスメラルダを析出するには難しくはない。問題はそのあとだ。どのようにして“メソンフィールズ”へと船を導くか。

「……メソンフィールズ」
「メソン、中間子でしょう。湯川秀樹によって理論的に予言されそれによってノーベル物理学賞を受賞した……亜原子粒子ですから亜空間がそれによって造り上げられてもおかしくないでしょう」
「さすがは旧帝大出てるだけありますね」
「ぐぐったんですけどね」
「えっ」

 なんでめぐみさん驚いているの……ああ、確かめぐみさんは神学を専門として学んでいたから、こういう系が解らなくて当たり前か……。

「……ということは、メソンフィールズを仲介として時間移動を行っている、ということですかね」
「えーと……ああ、そうですね」

 めぐみさんは画面をスクロールさせて――その文を見つけたらしく――なんども頷いていた。

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