ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

人間とカミサマの仲介役(後編)


「カミサマというのはそう簡単に出来るもんじゃありませんが、それでも成り方は定まっていません。例えば新興宗教のカミサマが長い間信仰されてしまってカミサマになってしまうケースだってあるんですから」

 めぐみさんの話はすこし聞いたことがある。
 だが、それではすこしおかしいのではないだろうか?

「どうしてですか?」
「カミサマに昇華出来るって解っているでしょう。なら、そういう方法を用いると思いますけど」
「……リトくんと言いましたか。彼らは正直なところ『一般』ではありませんが『異端』でもありません。ですが、正確にいえば『異端に首を突っ込んだ一般』と言ったところ。明確に定義は出来ない存在なのです」
「……『人工進化研究所』の人間はそれを解っていて?」
「でしょうね。解っていて、するのでしょう。そういう人間の考えは私にも解りませんから」

 それはごもっともである。

「……しかし、彼らはソドム・ゴモラとは全くの別物でしょう」
「めぐみさん、何故そうと言えるんですか?」
「形態が違います。ソドム・ゴモラは『ヒトとカミの融合』を目指してますが、人工進化研究所は『ヒトからカミへの昇華』を目指している。目的が違うなら、存在も違うでしょう」

 ところで、人工進化研究所はそこまですごい存在なのだろうか、と思えてきた。めぐみさんの話を聞いた限りでは『ヒトがヒトの上の概念に昇華させる』と言う。それはどういうことなのか、俺の頭の中ではうまく浮かんでこない。処理能力が遅いのかもしれないが。

「……調べてみたらスケープゴートになってる怪しい施設が一つだけあった。ドイツの南アウクスブルクにある『岩塩総合研究所』だ」

 また研究分野が絞られそうな名前だな、とアドルフさんからの報告を聞いて俺は思った。

「そこの資金源も解らんし何を研究しているか報告もされてない。裏を返せば『何をしていてもおかしくない』。例えば……人体実験をしていたり、とかな」

 アドルフさんの言葉には俺も頷くしかなかった。岩塩を研究することも素晴らしいことだが、研究の報告もされていないなら訝しむのも道理である。
 まぁ、とはいえ調べなくてはならないだろう。調べずに突入など馬鹿のやることだ。仮にそこが本拠地として、どれほどの戦力があるか? 気になるところだ。そこで包囲されてしまえばいくら神憑きとはいえ適わないだろう。

「岩塩総合研究所について調べておいた。そこまでデータがなかったのであまり詳しくはないが……。まあ参考程度にでも」

 アドルフさんはそう言って情報を述べていった。

「所長はパルソ・エンポール。イタリアの人間らしい。ミラノ大学で薬学を専攻していたとのことだ。他のメンバーは不明だが、設立当時は十二名で登録している。恐らくこれ前後の人間がいることは間違いない。研究分野は……言わずもがな岩塩だ。ウユニ塩原に月一回調査をおこなっているらしいが……これは建前と考えていいだろう」
「ウユニ塩原?」
「ボリビアにある塩の大地だ。アンデス山脈が隆起したときに残った塩分が流れることもないまま結晶化したことで一万二千平方キロメートルの面積をもつ世界最大の塩原が作られてしまったんだ。自然ってすげえよな」
「……たしかに岩塩を研究分野とするなら行きそうな場所だな」
「……まあともかくだ。奴らは確実に何かを知っている」

 となると俺達はアウクスブルクへ向かわないといけないのか。

「勿論そのつもりだ」

 いままで喋らなかった姉ちゃんが何を言っているんだ。というかもともと『猿の手』を探すためのものだったんよね? なんでそんな場所に向かおうと思うわけ?

「あのなぁ」

 どうやら俺の気持ちを汲んでくれたらしい。

「あんたどこ所属だ」
「神事警察」

 まあ強引に入れさせられたようなもんだけど。

「神事警察。カミと霊体にかんする事件について行動するのがうちらだ。カミにかんする事件が起きているのに、何故向かわない?」
「いや。だから、もともとは『猿の手』を探しに……」
「そりゃそうだ。だが、ELOのアドルフさんがこれを言ったってことは猿の手に関係があるんじゃないか?」
「そう……なのか?」

 本当にそうなのか、と思って俺はアドルフさんの方を見たがアドルフさんはただ歯を見せて笑っているだけだった。おい、怪しいぞ。
 ……まぁ、可能性ってこともあるし。行かなくちゃいけないんだろう。
 ――十二時を報せるチャイムが鳴ったのはそんなときだった。

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