桜舞う丘の上で

りょう

第60話 たった一つの物語

      第60話 たった一つの物語

1
同日の午後、僕は凛々と愛華と共に港へやって来ていた。
「本当あんたは人騒がせなんだから」
「私もお姉ちゃんもすごく心配したんですよ」
「ごめんってば」
理由は勿論、今日帰る二人を見送るため。 船は既に到着していて、後は出港を待つばかりなので、あまり話せる時間はない。
「でも無事でよかった。桜がすごく心配していたから、こっちも心配してたのよ」
あ、今桜って呼んだ。
僕は思わずニヤけてしまう。
「って何ニヤけてるのよ、気持ち悪いわね」
「別にぃ」
「あ、そうやって隠すなんてずるい~」
理由は分からないけど、三人は僕が知らない所で仲良くなったのかもしれない。肝心の桜は疲れて寝てしまったので、見送りに来れてないけど、何かしらメッセージは伝えただろうし、心配はないだろう。
そしてタイミングを見計らったかのように、船の汽笛が鳴る。どうやら話せるのはここまでらしい。
「私達そろそろ行かなきゃ」
「また冬休みにでも遊びに来てね。いつでも歓迎だから」
「うん。じゃあね結心」
「じゃあね結心お兄ちゃん」
「じゃあね二人とも」
こうして凛々と愛華は、地元へと帰っていったのであった。
2
一週間後。
「ねえゆーちゃん、お願いだから手伝って」
「丁重にお断りします。予めやってない桜が悪い」
「そんな言い方しなくてもぉ」
「駄目ったら駄目」
「ふぇ~ん」
桜は夏休みの宿題との格闘。
僕は小説の執筆をしていた。
「というか何でいきなり小説の執筆なんか始めたの?」
「それはねぇ」
「それは?」
「宿題終わったら教えてあげるよ」
「そんなぁ」
まあ、特にこれと言った理由はないんだけどね。
本当突然小説が書きたくなったのだ。僕と桜のこの夏までの物語を。正直量は足りないかもしれないが、それに関しては問題ない。だって書く内容はこれから決まっていくのだから。まだ夏は終わったばかりだし、これから文化祭や修学旅行だってある。その中で僕は、沢山の出来事に巡り会うだろう。それをこれに記していけばいい。ただそれだけの事。
「ゆーちゃん、これ分からないから教えてぇ」
「仕方ないなぁ」
これは僕一人だけでは決して成り立たない物語。周りの皆が、僕を支えてくれる仲間が居るからこそ成立するたった一つの物語。
「ってゆーちゃん、原稿用紙が真っ黒になっちゃってるよ」
「あー、醤油がこぼれた。自分の部屋で書けばよかったぁぁ」
僕と桜の世界で一つしかない物語。
                                          桜舞う丘の上で 完
                桜舞う丘の上で2nd Season へ続く

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