桜舞う丘の上で

りょう

第57話 当然じゃない事

            第57話  当然ではない事

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そんなこんなで、あっという間に夏祭りは終わってしまい、残すは凛々と愛華が買ってきた花火で遊ぶ事ぐらいだ。
「熱っち。こっちに花火向けるなよ」
「え? 花火って人に向けてやるもんでしょ?」
「お前の花火に対しての概念は、かなり間違ってるだろ?」
まあ、凛々が一方的に和樹に花火を向けているような気もするけど。それなりに皆楽しめてるからいいか。
「ゆーちゃん、これやろうよ」
そんな様子を見ながら、一人花火をやっていると、桜が線香花火を持ってきた。
「線香花火?」
「うん。やろう?」
「分かった」
桜から線香花火を受け取り、火を付ける。ああ、線香花火って儚い感じがするけど、小さな小さな光から発せられる独特の華麗さがいいんだよね…。
「ねえゆーちゃん、一つ聞いていいかな?」
「ん? 何?」
「ゆーちゃんが桜島にやって来て四ヶ月が経つけど、自分は何か変わった事とかある?」
「何か変わった事か…」
この四ヶ月を振り返ってみる。桜島にやって来たばかりの頃は、自分を変えたいが一心で皆と接していたけど、今はどうだろうか?純粋に人と触れ合う事を楽しみ、恋をして、誰かの為に何かをしたいと思えるようになった。それだけでも僕は、充分変われているのかもしれない。それもこれも、桜や皆のおかげなんだけど。
「変われたのかもしれないけど、それは自分の力じゃないよ」
次の線香花火に火を付けながら僕は言う。桜は何も答えない。僕の言葉を待っているようだ。
「皆が僕を支えてくれたから、僕は今ここに居られるわけだし、桜が居たから僕は過去の過ちを乗り越える事が出来た。だから、僕の力ではないんだ」
「皆が居たから…ねぇ」
桜は既に線香花火が終わってるのにも関わらず、ずっとそれを眺めている。どうしたのかな。
「私も乗り越えられるかな?」
「え?」
「私も越えなきゃいけない過ちがあるの」
初耳だった。桜も僕と同じように、何かを抱えているなんて…。
常に笑顔で僕の側にいてくれる彼女でさえも、僕の知らない何かを抱えている。僕が知っているのでも二つなのに、彼女はそれ以上に何かを抱えている。僕は何かしてあげられるのだろうか?
「ゆーちゃん、一つだけお願いがあるんだけど」
「願い?」
「うん…」
僕の線香花火が落ち暗くなる。桜は何かを決意したかのように、こちらを見てこう言った。
「九月にある文化祭が終わったらさ…」
「終わったら?」
「私と一緒に桜島を出てくれないかな」
「……え?」
それは僕が予想もしていなかった願い。
桜島を出る? どうして?
僕の頭の中は謎めいた事ばかりが渦巻いていた。
「私…桜島を出てある人に会いに行こうと思うの。そこでもう一度やり直したいの」
「会いたい人?」
「私の本当のお父さんとお母さんの事」
「本当の…って、まさか!」
「うん…」
何で今になって会いたがるんだ桜。しかも一からやり直したいって…。
「じゃあ過去の過ちって」
「うん。本当のお父さんとお母さんと一緒に暮らせなかった事」
「そんなの…」
そんなの僕は…。
「賛成出来ないよ」
「どうして! 私もゆーちゃんの様に前に進みたいもん。それを手伝ってくれるのが当然でしょ?」
当然って…。
僕の怒りはどんどん上がっていく。
「秋久さんや夏美さんの気持ちを考えてそんな事言ってるの?」
「当たり前じゃない!」
当たり前…。
それを聞いて僕は、秋久さん達の気持ちを考えた。どう考えても、当たり前とは思えない。
僕の怒りは有頂天に達した。
「おいおい、二人ともどうしたんだよ、いきなり喧嘩なんか始めて…」
ここで和樹が止めに入る。
でも僕の怒りは収まらない。
「馬鹿だよ」
「何が馬鹿なのよ」
「それが人の気持ちを考えてるなんて、普通は言わないよ! 人に助けてもらうのが当然だなんて…。馬鹿だとし思えない!」
怒りが抑えられなくなった僕は、桜に手を出そうとしてしまった。
「馬鹿、結心手を出すのだけは…」
和樹の声で何とか留まるが、それでも抑えられない僕は…。
「もう知らない! 桜なんて!」
走り出していた。皆が僕を呼ぶ声がするけど、僕は全部無視して、走っていた。
                                                    第11章    完
                               第58話 一途な想い へ続く

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