桜舞う丘の上で

りょう

第42話 まだ小さかった頃

             第42話 まだ小さかった頃

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バーベキュー終了後。
「それでゆり、話って何?」
和樹と桜が部室に戻り、ゆりと二人きりになった。彼女が話を切り出そうとしないので、僕から切り出す。
「あ、えっとですね…」
それに対して、ゆりはちょっとら恥ずかしそうに話を始めた。
「わ、私が最近知った話なんですが…」
「うん」
「ゆ、ゆーちゃんと私って、ほ、本当は…その…」
「ああ、縁談の話?」
すっかり忘れていたけど、帰省 した際に父親から、僕とゆりは許婚の関係だったんだっけ。
「え? ゆーちゃんも知っていたんですか?」
「この前帰省した時に聞いた。まあ、親とは縁切っちゃったから別に関係ない話だけど」
「あ、そうでしたよね…」
「うん」
それ以上にゆりが、何かを言いたそうにしているので僕はあえて言葉を口に出さない。
「あの、ゆーちゃんは覚えているでしょうか?」
「ん? 何を?」
「まだ小さい頃に、私達がした約束を」
「約束?」
そんなのした覚えがない。そもそも僕とゆりは、高校生になって初めて会ったはずじゃ…。
『昔から縁のあった相沢家のお嬢さんとの縁談』
ふと、父親の言葉を思い出す。昔から縁のあったって…。
『わ、私はあ、あいざわゆりです』
『ぼ、僕は、な、なかむら、ゆ、ゆしん…』
そういえば小学二年生ぐらいの頃に、僕は相沢ゆりという少女に会った事がある。もう昔の話だから、記憶が断片的だけど確かに同じ名前の子と会っている。
「ゆーちゃん?」
そしてその少女と目の前の一人の少女と顔が重なる。
「ま、まさかゆりって…、あの時の?」
「今更思い出したんですか? 私はずっと知っていましたよ」
僕の質問に笑顔で答える彼女。そうか、やっぱりゆりってあの時の少女だ…。
あ、でもちょっと待って。あの時した約束ってまさか…。
「思い出してくれましたか? 約束」
そう、僕は彼女と約束していた。
『またいつか会えたら、その時は…』
所詮小学生の約束かもしれない。でも何でだろうか? 今彼女がこの事を出すのには、何か意味があるような気がする。
「私はあの時から気持ちは何一つ変わっていないんですよ。ゆーちゃんにとっては、冗談の様に思えるかもしれませんが、私はあの約束は本気でした」
「それってつまり…」
「私はあなたの事が初めて会った時から好きなんです。縁談とか全く関係なく、純粋に私はゆーちゃんが好きです。付き合ってください」
あの時僕達は約束したんだ。
『またいつか会えたら結婚しようね』
って。そして僕達は、再会した。だから彼女は自分の気持ちを伝えてきたんだ。でも僕は…。
「ごめん…ゆり」
約束も守れないし、気持ちにも答える事ができない。
「え…?」     
                    第43話 守れない約束と涙 へ続く

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