桜舞う丘の上で

りょう

第30話 少しずつ開いた距離

              第30話 少しずつ開いた距離

1
このまま帰ると、どうしても心残りになってしまうので、今日は矢作家に泊まる事にした(両親は忙しくて、帰ってこないらしい)。
「結心、風呂入っていいよ」
「あ、うん」
時間は過ぎて行き、もうすっかり夜。一番最初に風呂に入った愛華は先程眠ってしまった。凛々も出たので、後は僕だけ。
「あ、そうだ凛々」
「ん? どうしたの?」
「僕が風呂出るまで起きててくれない?」
「別に構わないけど、どうして?」
「ちゃんと凛々と話がしたいと思う。あの時の続きを」
「え?」
僕は二人が風呂に入っている間に、沢山の事を考えた。四年前にあやふやにしてしまった答え、僕にはその答えをしっかり出さなければならない義務がある。二人の気持ちに対しての答えを…。
『結心、どうして…、どうしてよ!』
あの時の答えを。
2
僕と二人が出会ったのは今から十四年前、まだ幼稚園に入ったばかりの頃だった。
「矢作凛々です」
「矢作愛華です」
矢作一家は僕の家の隣に引っ越してきて、すぐに仲良くなる事が出来た。
「結心君、あーそーぼ。」
「いーいよ」
「あ、ずるい。私も~」
毎日のように日が暮れるまで遊び、近所でも有名な仲良し三人組だった。
「もう、こんなにボロボロになるまで遊んじゃってぇ」
たまに母さんに怒られたりすることもあったけど、とにかく毎日が楽しくて幸せな日々が続いていた。
けど、小学校に上がって少し経った頃、父さんが起こした会社が大成功を収め、僕の家は急速に資産家の家に変わった。その頃からだろう、僕と彼女達の間に少しずつ隙間が開き始めたのは。
3
「もう凛々ちゃんの家に行くのはやめなさい」
「え? どうして?」
「あの家と私達が住む世界はもう違うのよ。だから、なるべく関わるのはやめなさい」
「うん…」
小学三年生の時、母さんにそんな事が言われた。まだ小さい僕は、その言葉をそのまま受け止め、二人から少し距離を置くようになった。それを知らない彼女達は、毎日家に来ては追い出され、僕はそれを部屋の窓から眺める事しか出来なかった。でも学校では会えるので、それなりの会話は出来たけど少しずつ少しずつ距離が開いていった。
「こんなんでいいのかな…」
小学校高学年になり僕自身もそれに疑問を持ち始めたが、どうしようも出来なかった。というより、僕自身にそんな余裕が無かったからだ。この頃から僕が金持ちだからという理由で、イジメが始まっていた。お金を奪われたり、意味もなく殴られたり…。そんな苦痛な日々が毎日続くようになり、それが嫌になった僕は小学校六年生の夏、不登校になった。
「もう学校なんか嫌だよ」
完全に閉ざしてしまった心。もう誰も信じたくない。そう考えていた。
でもそれを救ってくれたのが、ずっと距離を置いていて、もう忘れられていると思っていた二人だった。
                                 第31話  大切な人 へ続く

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