桜舞う丘の上で

りょう

第29話 取り戻せない時間

                 第29話 取り戻せない時間

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「え? あんたお父さんとお母さんとの縁を切ってきたの?」
僕の目の前に麦茶を置きながら、凛々は聞いてきた。
「うん…」
「どうして…って、聞くのも野暮だよね」
「まあね」
彼女達とは一応長い付き合いなので、ある程度の事は理解してくれている。まあ、この二人との事件も、ほぼ両親の原因だったりする。
「でも結心お兄ちゃんのお父さんとお母さんって、昔はすごく優しかったよね」
「確かにそうだけど、今は全然変わっちゃったよ」
今日の二人は少し違ってたけど。それが優しさだって気づいた時には、もう遅かったんだ…。
「でもそれは、あなた自身が決めた事なんでしょ?だったら、ちゃんと貫き通してみせなさいよ」
「それは分かっているよ。ただ…」
「ただ?」
「やっぱり不安がっ…」
全部を言い終わる前に凛々に殴られました。
「い、いきなり何すんの?」
「何すんの? じゃないわよ! 久々に会ったから、少しは変わってるかなって思ったけど、全然変わってない、結局肝心な所でしっかり出来ないのが、結心の癖。あの時から全く成長してないじゃない」
「それは…」
「どうしてなの? どうしてまたそうやって…」
ついには凛々は泣き出してしまった。
「そうやって…また逃げるの? ちゃんと答えを聞いてないんだよ私達」
「そうだけど、でもそれは」
「中学生だったから、仕方がないと。じゃあ今答え出してよ、あの時の答えを!」
「お、お姉ちゃん。いくらなんでもそれは…」
「愛華はそのままでいいと思ってるの? あんたも好きなんでしょ?」
「そうだけど、今結心お兄ちゃん答えられそうにないよ?」
「え?」
僕は今、また同じ過ちを繰り返そうとしている。また二人を傷つける。親の事を理由に逃げ出したあの頃と同じ自分が、今ここに居る。
「あ…」
「ごめん…、二人とも。ごめん…」
それが悔しくて悔しくて、ずっと溜め込んでいた涙が溢れ出していた。また泣いて逃げ出すのか僕は…。
「な、泣かないでよ。私もキツく言い過ぎたから…」
「でも僕が悪いのは事実だから…、ごめん。」
「どうして謝るのよ?」
「それは…僕が…」
僕が全て悪いから…。
折角の再会も結局こういう羽目になってしまう。あの事件さえなければ、僕達はずっと仲が良い幼馴染だった。でも今はどうだ、喧嘩して、悲しませて、泣いて。どこが幸せなのだろう?これは全部僕のせいなんだ。僕の…。
もうあの幸せだった頃の時間は取り戻せないんだ…。
               第30話 少しずつ開いた距離 へ続く

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