桜舞う丘の上で

りょう

第26話 何も変わってない

                 第26話  何も変わってない

1
「まさかお前が自ら帰ってくるとは思っていなかったな」
「そんなの僕の勝手でしょ」
家に入るなり、この家に仕えている沢山の人々に騒がれ、そのまま父親の部屋に招かれた。自分の子供が帰ってきたのにこの態度、本当に何も変わってないな…。
「あなた結心が帰ってきたって本当…」
僕が入ってすぐに母が入ってきた。そして僕を見つけるなり、そのまま抱きついてきた。
「結心! おかえりなさい」
「ただいま」
感情のこもってない挨拶をする。お母さんは表面だけいい母親を演じているが、実際は全く愛情はこもっていないのが分かる。だから嫌なんだ。
「とりあえず話は夕飯の後にする。お前も食べてないだろうからな」
「まあそうだけど」
「どうしたの? いらないの?」
「お腹減ってないしいいや」
本当は昼飯も食べていないので、空腹の状態だった。でも、それでいいんだ。僕はこの家の料理より、夏美さんが作ってくれるご飯の方が断然にうまい。この家の料理には、料理人が作っている為、全然おいしくない。だから、これでいいんだ…。
2
一時間後、僕は再び父の部屋に呼ばれてやって来た。
「わざわざお前を家に呼び戻した理由は、母さんから聞いてるよな?」
「必要になったとしか聞いてないけど」
「そうだ。お前の家出ごっこに付き合っている暇がなくなった」
「家出ごっこって…」
僕は遊びで家を出たんじゃない。もう居るのが嫌になったから、家を出た。ただそれだけの話。僕は真剣だった。決して生半可な気持ちで家を出たんじゃない。
「今回お前を呼び戻したのは、お前に縁談の話が来たからだ」
「縁談?」
「そうだ。昔から縁のあった相沢鉄道のお嬢さんも、お前と同じ年頃で丁度いいらしい。これを気に、我が会社の規模を広げていくつもりだ。それにお前は協力してもらう」
「ははっ、相変わらず使えるものはとにかく使う性格は変わってないね」
「私はただ当たり前の事をしているだけだ」
「当たり前ねぇ…」
自分の子供を、まさか自分の会社の為に婿に出す。こちらの断りを入れないで。あまりにも勝手すぎないか?それに昔から縁があった相沢家だ?そんなの僕は知らな…。え?相沢家?
「一つ聞いていい?」
「何だ?」
嫌な予感しかしない。でも、聞くしかない。場合によっては…。
「その相沢家のお嬢様さんの名前って?」
「確か相沢ゆりって名前だぞ。それがどうしたんだ?」
「いや…」
その名前に覚えがあった。というか、顔も知っている。
相沢ゆり
桜島友人部の一員、僕の友達。そして、島唯一の資産家の家のお嬢様だ。
「そんな事って…」
桜、僕今桜島戻ったら大変な事になるかもしれない。
                    第27話 どちらを選んでも へ続く

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