桜舞う丘の上で

りょう

第25話 何よりも大切な事

                第25話 何よりも大切な事

1
「でもゆーちゃん、このままだと家に帰る羽目になるんだよね?」
「うん」
とりあえず話は、今の問題に戻る。
「何とかならないの?」
「うーん、無理やりでも連れだすって言っていたから、ほぼ不可能に近いよ」
「そ、それじゃあ…」
僕の答えに落胆する桜。不可能に近いとは言ったけど…。
「だからと言って、諦めたとは一言も言ってないよ」
僕自身は諦めていない。絶対に何とかしてみせる。だから…。
「よし」
「ん? どうしたの、ゆーちゃん?」
「桜、僕は夏休み始まったら二、三日家に帰ってこないかも」
「え? どうして?」
「一度家に帰って、みんなに迷惑をかける前に、僕が決着をつけてくる」
一度家に帰って、全ての決着を着けようと思う。家出とかじゃなくて、縁を切って桜島で生活をする。僕はこの島でお金や権威よりも大切な事を学んだ。もうあの時のように大切な物を絶対に失いたくない。
後悔は二度としたくないんだ。
2
それから一週間後、僕は夏休みの突入と共に、ある程度のお金と他に必要な物を持って、桜島を出た。
『ゆーちゃん、必ず帰って来てよ。私やみんなが待ってるから』
本島に向かう船の中で朝の桜の言葉を思い出した。
(みんなが待ってる…か)
こんな言葉、一度も聞いた事がなかった。僕には待ってくれている人が居る。だったらもう迷いはない。あの家と正面から向き合って、そして全てを終わらす。
僕は…実の親との縁を切るんだ…
(そんな事考える日が来るなんて…)
普通はあり得ない話。だけど僕にはあの家に居場所があるはずがない。あんな所に居たって、大切な物を失うだけ。だったら、完全に関係を断つしかない。
(はぁ…)
僕は海を見ながら大きなため息をついた。
3
朝桜島を出発してから船と新幹線での旅を終え、夕方ごろにあの場所に戻ってきた。
「相変わらずでかいな、この家…」
まだ小さい頃はこんな大きくなくて、平凡な家庭だったのに、会社が成功したかなんかである日、大金持ちになったとか…。でもそのせいで、僕の人生は狂ったんだ。金があるというだけで、どんな目にあったか…。
(駄目だ駄目だ、余計な事を考えている暇ない)
今はそんな事考えている暇はない。さっさとこの馬鹿でかい門をくぐって、全ての決着をつけるんだ。
「よし、入ろう」
僕は三ヶ月振りに、この家の門の中に足を踏み入れた。
                                                         第5章 完
                  第26話 何も変わってない へ続く

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