桜舞う丘の上で

りょう

第22話 電話

                       第22話 電話

1
その事件は夏休みまで残り一週間を切った休日に起きた。
「ふわぁ、眠い」
「私だって眠いんだから、文句言わないでよ」
今日は朝から店番。その為、二人ともあくびをしながら、客が来ないパン屋の店番をしていた。
いつも通りの、何も変わらない日常。今日も何事もなく一日が過ぎていくと思っていた。
ブー ブー
「ゆーちゃん、携帯鳴ってるよ」
「あ、本当だ」
こんな朝から電話だ。誰だろう…。着信先の電話番号を確認する。
……え?
「どうしたのゆーちゃん?」
「ごめん、ちょっと電話に出てくる」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
僕は家に入り、再び番号を確認する。
どうして…、こんな時に電話をかけてくるんだよ。どうして…。
表示された番号、それは僕の実家の電話番号だった。
2
「ただいま」
「あ、おかえり。誰からだったの?」
十分後、再び店番に戻る。
……。
「ゆーちゃん?」
「ご、ごめん。何か言った?」
「いや、誰からの電話だったか聞いただけなんだけど。どうしたの?ボーッとしちゃって」
「いや、ちょっと…」
抑えろ、抑えるんだ僕。こんな所でぶつけたって、何も起こらない。何にも…。
「ちょっとゆーちゃん、本当にどうしたの?さっきから体が震えてるよ」
「あ、あ、あれ。どうしたんだろう僕。何でこんなに震えてるのかな」
「分からないわよ。とりあえず何があったか話して…」
僕は何故か走り出していた。理由は分からない。この場に居たくないから?そんなのは分からない。
「ちょっとゆーちゃん、どこに行くのーー」
でも一つハッキリしている事、それは…。
僕が今すごく怒っていることだ。
3
「はぁ…はぁ」
息が上がった所でようやく足が止まる。どの位走ったんだろう僕…。
「店番すっぽかしたけど、仕方ないよね…」
今は店番よりこっちの方が大切だ。
「何なんだよもう…」
電話を思い出して、また苛立ちが湧いてくる。
「何が今更戻ってこいだよ…」
イライラする。とにかくイライラする。誰にもぶつけられない怒りが、余計僕をイライラさせる。
「絶対戻らないって決めてるのに…」
さっきかかってきた電話、それは僕にとって一番嫌な事だった。
「散々人を放置したくせに…」
帰りたくない。帰りたくないよ…。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だーー!
「はぁ…」
何なんだよ、急に必要になったから、無理やり帰ってこさせるって…、
「でも、あいつがここに来たら…」
僕は実家に帰らなければならないのかもしれない。
                  第23話  帰りたくない場所 へ続く

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