桜舞う丘の上で

りょう

第10話 車イスの少女

                 第10話  車イスの少女

1
6月に入り、体育祭の練習が本格的に始まったので、僕は夜の練習を始めた。桜島はそんなに広い所ではないので、桜の家から少し歩くと海岸に着くので、そこで練習をする事に決めたんだけど・・。
(練習するって言っても走るだけでいいのかな・・。)
正直何をするか決めていなかった。
(とりあえず走るだけでいいかな。)
桜島にやって来てから、これと言った運動はしていなかったので、相当衰えているに違いない。だったら、やらなければ。
(よし、頑張るか。)
僕は波の音しか聞こえない夜の海岸を1人、走り始めた。最初は10分ぐらいを目安に・・。
2
「はぁ・・はぁ・・。」
5分でばてました。まさか、こんなに衰えているなんて・・。
(これはリレーどころじゃなくなってきた。)
リレーは短距離な上にスピードと体力が必要だけど、今の僕にはそれが皆無だ。どうしよう・・。
(少し歩いたら再開しよう。)
息を整えるために、少し歩いていると・・。
(ん?誰だろう?)
前方に車イスに座って、海を眺めている1人の少女を見かけた。
(こんな時間に珍しいな・・。)
という事で、試しに近寄って、少女に話しかけて見る事にした。
「あの。」
「はい。」
僕の声に反応して、こちらを向く少女。あれ?小学生ぐらいと思ったけど、違うかな。
「こんな所でなにしているの?」
「私ですか?」
「うん。」
「私は今海を眺めているの。」
「それは分かるけど、何でこんな時間に?」
「この時間は星が綺麗で、月明かりが海を照らしているから、海がすごく綺麗に見えるの。」
「あ、本当だ。」
彼女に言われて海の方に目をやると、昼間とは全く違う光景が目の前に広がっていた。空には星が、海は月明かりに照らされていて、それはロマンチックだった。その光景につい僕は見とれてしまう。
「それであなたは何をしていたの?」
「僕は体育祭が近いから、走ってたんだけどすぐにばてちゃって・・。」
「いいなぁ・・。」
「え?何がいいの。」
「私歩く事もできないから・・。」
「あ・・。」
そうだった。この子は車イス、つまり歩けない。それを忘れていた。
「私もいつかは歩けるようになって、あなたの様に走ってみたいな・・。」
「・・・・。」
海を眺めながらそう呟くその少女の目は、どこか悲しみに満ち溢れていた。
                             第11話  誰かの為に へ続く

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