桜舞う丘の上で

りょう

第8話 嬉し泣き

                       第8話 嬉し泣き
1
その日の晩、荷物を全て2階の部屋へ移し(桜の家は2階建てで、1階はパン屋で2階が住居になっている)、夕飯と風呂を済ませた後、桜が部屋にやってきた。
「ゆーちゃん、どう?私の家。」
「お父さんとお母さんさんは少し変だけど、いい所だよ。」
「そう言ってくれると嬉しい。」
笑顔で答える桜。まさか、嬉しいなんて言われるなんて、思わなかったな。でも・・。
「ねえ桜。1つ聞いていいかな。」
「何?」
「本当に良かったの?こんな僕がしばらくお世話になっちゃって。」
「何回も言わせないでよ。私のお父さんとお母さん、何にも言っていなかったでしょ。」
「そうだけどさ・・。」
「それにこんな僕って、どういう意味よ。」
「いや・・。それは・・。」
前の所では僕はいる価値がなかった。居場所がどこにもなくて、ずっと1人で・・。
「ちょ、ちょっとどうしたの?急に泣き出して。」
「ごめん・・。急に涙が止まらなくなっ・・て。」
だけど、桜や友人部のみんなはこんな僕を認めてくれた。それが本当に嬉しくて・・。
この涙は嬉し泣きなのかしれない。
2
「もう、いきなり泣き出すからビックリしちゃったじゃない。」
「ごめんごめん。」
数分後、何とか泣き止み、普段通りの会話に戻った。
「あ、そういえばゆーちゃんって運動とか得意?」
「得意って程じゃないけど、どうして?」
「6月に学校で体育祭があるんだけど、ゆーちゃん運動とか得意なのかなって。」
「体育祭?そういえば行事予定にそんなの書いてあったね。」
確か6月中旬ぐらいだったはず。
「うちの学校は毎年、学年対抗で全員リレーやってるんだけど、走るのとか大丈夫?」
「り、リレー?」
そ、それはちょっと・・。
「どうしたの?そんなに驚く事じゃないでしょ?」
「そ、そうだよね。」
困った・・。僕走るのだけは、中学生より遅いレベルなんだよね・・。特にリレーときたら、バトンを落とすわ、走りが遅いわでクラスにかなり迷惑をかけた気がする。
「何か様子が変だけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ。気にしないで。」
「ふ~ん。」
どうしよう、桜が怪しげな視線をこちらに向けている。うっ・・。
「まあ、練習の時に分かるからいいか。」
そう言うと桜は立ち上がり、扉に向かって歩き出した。
「じゃあ私、眠くなってきたから部屋に戻るね。ふわぁ。」
扉の前で振り返ると桜はあくびしながらそう言った。
「うん、分かった。おやすみ、桜。」
「おやすみ、ゆーちゃん。」
桜が部屋を出ていき、僕は1人になった。
「はぁ。」
体育祭か・・。僕嫌いなんだよな・・。
・・・・・。
明日から毎晩走ろうかな。
 第9話 パン屋「チェリーブロッサム」 へ続く



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