東方魔人黙示録

怠惰のあるま

愛は時に非情だった


俺は目の前の女 アフェクトゥルを睨んでいる。ただ、収まらない怒りを八つ当たりのようにぶつけてる気分だ。
けれど、そんなこと気にはしない。俺の怒りの源はこいつでもあるのだから。

「ふぅ...相変わらずこの世界は平和過ぎて息苦しい...」
「な、なんだこの力は...!?」
「レベル的には外なる神に近いわ。その事もだけど。なぜアルマと似ているの...?」

想起がアフェクトゥルの力に気圧される中、霊奈は俺とこの女が似ていることに疑問を抱いていた。

「博麗霊奈。最強の生物 博麗霊斗の娘。質問に答えてあげましょう。それは彼と私は鏡だからです」
「鏡...?」
「彼が悪魔の王であり、感情を弄ぶ男。私は天使の女王であり、感情と戯れる女」
「つまり...相反する存在ってこと...?」

アフェクトゥルの言う通り、俺とこいつは鏡だ。神と魔王はどうゆう理屈か片方が女性であればもう片方は男性。そして、何故か能力は拮抗するように持って生まれる。
まるで二人の間で決着がつかないようにインプットされてるようだ。だが...!

「今はそんな話はどうだっていいんだよ! てめぇのような精神異常者はお呼びじゃねえんだ!」
「酷い言われようですね。私は私で大変なんですよ?」
「知るかよ。元はといえばお前が親父との条約を無下にしたのが悪いんだろうが」
「あんな条約のせいでこの世界は平和になった。全くもってつまらない...怒り、悲しみ、喜び、憂い、怨み...様々な感情渦巻く戦争が無い世界などつまらない!」

両手を広げ自分の意思を主張するアフェクトゥルから怒りを感じられた。
正直、こいつがあの親父と仲良くしていたって聞いた時は耳を疑った。平和主義の親父と戦闘狂のアフェクトゥル。まるっきり正反対の二人が仲良くできるか? 
こいつが一体何を考えているかよく分からない。

「しかし、あの男はもう死んだ」
「殺したんだろ?」
「何を言っている? 殺したのは貴様の叔父であるグースだろう」
「てめぇがグースの感情を弄び傀儡にしたんだろうが!!」
「ふふふ...勘が鋭い。そうさ! 私が全ての始まりだ! 貴様の運命はあの時、あの一瞬に決まっていた!」

悪趣味な女だ...!
俺の半人生が狂った原因は全てこいつのせいだったということになる。
胸糞悪りぃ...ずっと俺はこいつの手のひらの上で踊ってたってことか。グースを傀儡と言ったが俺もある意味では人の事を言えないな。

「封印の中から見ていたが大いに楽しませてもらったよ」

満面の笑みを浮かべ、恍惚な表情を見せる。
だが、なぜか笑みはすぐに消えた。その理由はある一つのことだった。

「しかし、一つだけ私の思惑通りにいかないことがあった。それはあの橋姫だ」
「......パルスィがなんだってんだ!」
「貴様はあの時、心が壊れる直前まで追い込まれていたはず。なのに壊れていないのはなぜだ? 簡単だ。橋姫がいたからだ」

確かにそうだ。俺の目の前で親父が死んだ時、パルスィがいたおかげで壊れずに済んだ。だが、それがなんだって言うんだ。

「まさか...てめぇパルスィに手を出す気か!?」
「そのつもりはなかったが...それもいいかもしれんな」
「てめぇ...!!」
「アルマ、挑発に乗るな...!」
「分かってる...!!」

挑発だってわかっていても腹が立つ。パルスィに手を出すだと? そんなことしてみろ。死すら生温い地獄を味合わせてやる...!
アフェクトゥルに怒りを抱いていると彼女の陰に隠れていたルシファーが興奮した声で喋りだした。

「アフェクトゥル。お目にかかれて光栄です...!」
「あなたは確かルシファー・ドルイギア。アザトースを崇める狂信者だったか?」
「はい。私の願いを叶えて欲しく思い復活させてもらいました」
「察しが付いてる。いいですよ。あなたがやろうとしていることは私も興味がある」

その答えにルシファーはニヤリと笑った。

「有難き幸せ...!」
「口ではなんとでも言えるなルシファーさんよぉ?」
「黙れ感情の魔王。君にはまた退場願うよ」
「悪いけど。私達がいること忘れないでくれる?」
「そう何度もお前の好きにはさせん...!」

アルマを守るようにルシファーと対峙する霊奈と想起。煩わしそうに二人を彼女は睨んだ。アルマもアフェクトゥルを睨み、彼女もアルマを睨む。双方が戦いを始めそうになった時だった。
アルマ達の背後の空間に次元の狭間が生まれた。その中から彼らは現れた。

「終始終作ここに見参! って雰囲気じゃないな」
「めずらしく空気を読んだな。お前らしくもない」
「酷くない? 終作君泣くわ〜!」

泣くと言いながら大爆笑する終作と呆れて溜息を吐く磔。状況を把握した火御利が口を開く。

「ふざけてる場合じゃなさそうよ。目の前に元凶がいるわ」
「ルシファーと...誰だあのアルマ似の女のーーーーー」
「アルマ...!!」

幻真の話を遮り、パルスィは愛する者の声を呼ぶ。目の前で無事なのを見て安堵の表情を見せた。それを見て火御利はパルスィの肩に手を置いた。

「次から次に邪魔者が来るね」
「そうですね。おや...? 橋姫もいるじゃないか。これは好都合」

アフェクトゥルは微笑みながらパルスィを見つめた。まさかこいつ...! パルスィに何かする気か!?

「霊奈! 想起! お前らはルシファーを頼む!」
「わかったわ」
「任された...」
「君が相手じゃないのか。これはつまらないな」
「なら吾輩も混ぜるがよい」

その声が聞こえると共にルシファーの右方向から高熱の炎が吐き出された。いや、炎というよりもレーザービームという表現の方があっているかもしれない。
危機迫る光景だが、余裕の表情を見せる彼女は自身の周りに緑色のバリアを張った。レーザーが直撃すると貫通せずバリアの上を滑るように弾かれた。
小さく笑いながら自身に向けて攻撃を仕掛けた蛇のような龍 ファラクを見据えた。

「まさか防がれるとは...!」
「嫉妬は全てを拒絶する。如何なる攻撃も嫉妬の前では無力さ。例え君が世界を支える程の龍だとしてもね」
「ならこれでも切れぬか? 切断」

背後から迫っていたアマオは憤魔剣を振りかぶり、ルシファーを空間毎切断した。だが、切れたのは空間だけであった。

「くっ!」
「無駄だって言ってるだろ。私の嫉妬に勝てるものはいないよ」
「はぁぁ...その傲慢さが妬ましい...」
「へぇ...君もいたのか。橋姫さん?」
「ええ、あなたを消すのは私よ。感情解放 嫉妬...!」

緑色の炎に身を包んだパルスィは弾幕を放った。ルシファーのバリアに触れるとバチバチと音を立て貫通した。
それには驚くルシファーは暴食の力によって弾幕を喰らった。

「やるじゃないか。私の嫉妬を上回るなんてね」
「私の嫉妬はアルマを上回る。アルマ以下の貴女に敵うわけないでしょ?」
「君の発言は私をイラつかせるね...! いいだろう相手になってやる」
「余裕そうに言ってるけど、この人数を相手に勝てると思ってるの?」

霊奈の言うことにルシファーは立ちはだかる面々をゆっくりと観察し、小さなため息をこぼした。

「確かに...ここまでの強者が揃い踏みとなると私も骨が折れるね。仕方がない...少々本気を出そうーーーーー熾天外堕 ルシファー」

ルシファーの周りが闇に包まれた。脈打つように動くそれは生きているようであった。
今の内に仕留めるのが吉と感じた霊奈はその手に霊力を溜め、闇の殻に向けて放った。しかし、その攻撃は闇に触れた途端に掻き消された。
もう一度試そうと霊力を溜めたその時、闇の殻にヒビが入る。そして、その間から手が出てくると殻を破って現れた。
その姿は神々しくも禍々しい闇の鎧をその身に纏い、先程とは違い底知れぬ魔力を宿していた。

「我が名はルシファー。熾天使であり、堕天の王なり...」
「何この魔力の量...!?」
「この姿で敗北の二文字はない。絶望を与えてやろう」
「傲慢は身を滅ぼすのよ! 妬符 グリーン・アイド・モンスター!」

パルスィが緑色のレーザーを放つと同時に霊奈やファラク、アマオに想起も一斉に攻撃を仕掛けた。
その一斉射撃に焦りを微塵も感じていないルシファー。ゆっくりと手を振るうと攻撃が全て空間ごと消された。

「な、なんだ今のは...!?」
「暴食の力...とはまた違うわね...」
「じゃあ、今のはあやつの純粋な力で空間ごと抉ったというのか?」
「そうとしか思えない」
「妬ましいわ...」

無感情のままルシファーはゆらりと向きを変えた。その手に魔力を溜めると漆黒の槍を作り出し、投げる構えをとった。
その方向にいる者に向けて狙いを定め風を切る音を立て投擲した。
投げた先にはアフェクトゥルと対峙して無防備に背を向けるアルマの姿があった。そのことに最初に気付いたのはパルスィだった。

「アルマ!!」

そう叫んだ時には彼女は走り出していた。愛する者を守るために。







△▼△







アフェクトゥルと睨み合っているとすぐ横から次元の狭間を通って終作達が現れた。

「大丈夫かアルマ!」
「ああ、大丈夫だ。そっちは全員確保したのか?」
「もちろんよ。それよりもこいつは何...?」
「お初にお目にかかります。異世界の強者達よ。私の名はアフェクトゥル。感情の神とも呼ばれています」

磔や幻真たちに向けて自己紹介を始めるアフェクトゥルにアルマは魔剣・大百足を振り下ろした。
魔力を流し込んだ大百足はチェーンソーのように刃を動かした。ギャリギャリと音を立てアフェクトゥルに迫る。
それを彼女は何処からか取り出した剣で受け止めた。火花を散らして大百足がアフェクトゥルの剣を叩っ斬ろうとするが欠けるどころか削れる気配もない。
埒があかず一旦距離を取るとクスクスとアフェクトゥルが笑っていた。

「相変わらず悪趣味な武器ですね」
「黙れ。異法:硬化 黒鉄の拳ブラック・ガントレット!」

大百足を異空間にしまうと両腕に魔力を込める。すると、肘あたりまで黒く染まり金属特有の光沢を放っていた。拳を合わせると金属を合わせるような音が鳴った。

「幻真、磔。悪いが手伝ってくれ。桜と終作は狭間から援護を」
「アルマからお願いなんて珍しいな」
「それほどの相手ってことか...」
「そうゆうことね。補助は任せなさい」
「....俺いらなくないかな?」

終作の冗談に誰も耳を傾けず、四人が行動を開始した。
桜は全員に魔術で攻撃上昇、防御力上昇のバフをかけ、終作も面倒くさがりながらも次元の狭間からこれでもかと重火器を構える。

「千変万化の術師に始祖神か...少々本気を出そうか。我は欲する...命を...魔を...力を...」

アフェクトゥルが両手を合わせると青い輝きを放った。それを意に介さず終作は一斉放射を開始した。
だが、アフェクトゥルに銃弾が当たることはなく見えない何かに引き寄せられるように一箇所に向かい固まるように一塊となった。

「強欲は全てを手中に収める...」
「なら...これならどうだ! 乱符 スピンシュート!」

磔が放ったのは螺旋状のレーザー。螺旋状にする事によって威力と貫通力を上げている。それを連射した。

「絆を力へと変える者...か。我は喰らう...力を...魔を...空間を...概念を...!」

磔の攻撃に右手だけ構えると手のひらに横線が入り、パックリと大きな口が現れた。それがすべての攻撃を飲み込み消化する。

「暴食は全てを喰らい尽くす...」
「喰えるものなら喰ってみな!! 斬符 サンダーフリーズ!」

雷と氷の属性を纏わせた真神剣で切り掛かる。それを防ごうと剣を上げたところでアフェクトゥルは動きを止めた。

「我を崇め...畏怖し...ひれ伏せ!」

腕を組み堂々たる雰囲気を醸し出し仁王立ちをした。謎の気迫に気圧された幻真は動きを止め地面に跪いた。
抵抗を図ったが謎の力によって幻真はその場から立ち上がることはできなかった。

「傲慢の前では万物全てがひれ伏す...」
「俺には効かねえよ!」
「ええ、知ってますよ。ただ一つ言えるとしたら...私に夢中になり過ぎだということです」
「ああ? 意味がわからーーーーー」
「アルマ!!」

パルスィの叫ぶ声が聞こえた。後ろを振り向くと漆黒の槍が俺に目掛け飛んできていた。
完全に油断していた俺は避けることも叶わず、況してや突然の攻撃だったため防ぐこともできず俺は死を覚悟し目を閉じた。
そして、漆黒の槍が胸を貫いた。














はずだった。
槍の先端は俺の胸元ギリギリで止まっていた。なぜ止まったのか。俺には分からない。しかし、確かに刺さったはずだ。感触も痛みもないが音が聞こえた。深々と何かを貫く音が。
俺はゆっくりと目を開いた。眼前に入った光景にさらに見開いた。

「パル......スィ...?」

そこには俺を庇うように両手を広げ立ち尽くすパルスィがいた。
彼女の胸元には無情にも漆黒の槍が深々と突き刺さっている。槍を伝って血が地面に滴り落ちた。
その光景にアフェクトゥルは満足そうに笑い指を鳴らした。すると槍は霧散し、胸元に大きな穴を開けた。苦しそうに血を吐きながら前のめりに倒れ込むパルスィを抱き寄せ震えながらも声を振り絞り俺は声をかけた。

「おい...おい...! 何でだよ...! 何で俺を庇ったんだよ!!」

ヒューヒューと胸元から空気が漏れる音が聞こえた。どうやら気道がやられてしまったようだ。それでもパルスィは力の限り声を振り絞った。

「もう...失いたく.......なか....た......もう見た....くな....か....た」
「え......?」
「あな....が...苦しむ.....がたは......もう見た......ないの...!」
「なんて健気な心意気でしょうか。素晴らしい! けれど、目障りだ」

アフェクトゥルが背後からゆっくりと迫り、自身の持つ剣を振り下ろそうと構えた。だが、それは間に割り込んだ幻真によって阻まれる。

「邪魔ですよ」
「黙れ!!」
「幻真ぁぁぁ! そのまま抑えてろ!! 

次元の狭間から飛び出し、始強を発動させた終作が何処からか取り出した大鎌で切り掛かった。存在を消そうと能力を乗せた攻撃であったにも関わらず平然と攻撃を防いでいた。

「なんで消えねえ!?」
「始祖神。あなたの能力は知ってますよ。けれど嫉妬は全てを拒絶する。それがどれだけ規格外の能力でもね」
「クソガァぁぁ!!」

声を荒げながらも攻撃を続ける終作。しかし、全てを防がれ大鎌を受け止められると大鎌ごと投げ飛ばされた。
また、パルスィに近づこうとするが磔と幻真がそれを阻む。

「全く邪魔ばかりしますね。そんな事をしても無駄だと言うのに」
「まだ分からねえだろ!」
「そう思うなら橋姫の体を見てみなさい」

アフェクトゥルの発言と同時にパルスィに異変が起きた。
パルスィの体に空いた穴から黒い霧のようなものが立ち込み、彼女の体をゆっくりと包み始めていた。

「パルスィ...! 体が...!!」
「あなたといれた....時間は....幸せだ.....た」
「もう喋るな! 桜! パルスィをなんとかしてくれ!!」

桜に治療を頼むがパルスィの手が俺の手を弱々しく掴んだ。彼女を見ると首をゆっくりと横に動かした。来てくれた桜にも同じように首を横に動かした。
苦しいはずなのにパルスィは力強く笑い、また言葉を振り絞ってしゃべり続けた。

「わた...し.....あなたの....つ...まで....よか....た......」
「そんな....そんなこと言うんじゃねえよ! 今にも死にそうな...こと......いうなよ...!!」

俺の頬を涙が一筋流れた。そして、止めどなく涙は流れてきた。止めることなど無理だった。

「アルマ.....わたしね.....? あなたを......あいしーーーーー」

そう言いかけてパルスィは完全に黒い靄に包まれ俺の腕の中から消えていた。

「パ......るス...ィ.....?」

ポツリと愛する者の名を呼ぶが何も反応は返ってこない。
パルスィは完全にこの世界からいなくなった。
アルマは頭を強く抱え込みガクガクと震える。パルスィがいなくなった事を否定するように何度も首を横に振った。

「貴様の愛する者は次元の深淵へと沈んだ。橋姫はもう二度と戻る事はない。感情の魔王よ。貴様はもう.....一人だ」

小さく低いその言葉はアルマの感情に響いた。





『ひとり』





その言葉だけが強く何度もアルマの中で繰り返され、彼の中で何かが音を立てて崩れ去った。
ガクン...と何かが事切れたように首が垂れる。そして、小さい笑いがこぼれる。

「あ....あはは......あはははは......あは! あはははひゃははははヒャははははははははははははははハハはははははははははははハハハははははははは!!!!」

アルマの虚しい笑い声が静かに木霊する。まるでトチ狂ったように笑うその姿から分かるようにアルマはもう完全に...










壊れていた







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