東方魔人黙示録

怠惰のあるま

最強の大罪 怠惰と感情の神



「SHOW TIME!」

そう高らかに叫ぶのは這い寄る混沌 ニャルラトホテプ。
目は黒い輝きを放ち、目の前の敵を面倒くさそうに睨んだ。
それを睨み返すのは異世界からの訪問者 想起。その姿からは少し余裕が見られる。

「さて...様子見をしたいところだが...」
「そんな余裕なんてないでしょ。仮にも外なる神に近い存在...最初っから本気を出しなさい」

叱りつけるように言葉を投げるのは最強の娘である博麗霊奈。

「わかっている...」

想起は気持ちを引き締め、それぞれが自分の得物を手にする。それを見てニャルラトホテプは高らかに笑い、指を鳴らした。すると現れたのは身の丈をゆうに超える大鎌。
三日月のように淡く輝く刃は血を求めているようであった。

「さぁてと...我から行くぞ」

大鎌を振りかぶると風を切る音ともに霊奈達を横薙ぎに切り裂いた。ように見えたがニャルラトホテプが持っていた大鎌はグニャリと折れ曲り使い物になっていない。

「おりょりょ? 折れちゃったぜ」
「ふざけるのも大概にしろ...見た目だけの張りぼてで俺たちを倒せると思ったのか...?」
「ちょっとした冗談だよ〜! はい拍手!」

パァン! という破裂音が鳴った。猫騙しでも狙ったのか想起の目と鼻の先に両手を合わせたまま固まっているニャルラトホテプと猫騙しに動じずただ目の前の敵を見据える想起。
その反応がつまらないのか親指を下に向けブーイングを発する。
それが気に食わなかった想起は能力を発動させた。
途端に景色は一変し真っ暗な空間に星々の輝き、重力が数十倍にもかかる環境へと変わった。

「お、おっもい〜...! なぁんだこれ?」
「俺の能力だ...お前は鬱陶しいからそのままでいろ...」
「ちょっと想起。ここまで重力かけなくてもいいんじゃないの? 正直動きにくい」
「そうは言ってもな...」
「ふむ...拒絶 相反する心」

ニャルラトホテプがスペルを発動させると何食わぬ顔で立ち上がった。

「なっ..!?」
「なるほどなるほど! さっすがアルマ君の力だぁ! 感情をそのまま力に変えれるのか〜すんばらしい!!」
「どうやら無効化されたようね」
「くそ! 一旦解除だ...!」

想起が指を鳴らすと景色と環境が元に戻った。悔しがる想起を嘲笑うようにニャルラトホテプは口に手をあてて笑っていた。
火に油を注ぐ行為に想起は幻夢剣を振り下ろした。しかし、それをいとも簡単に受け止めたニャルラトホテプはそのまま幻夢剣を握って想起を地面に叩きつける。
地面にめり込むほど強く叩きつけられた想起は血を吐き出した。

「うっひっひっひ! 痛い? 痛い?」
「この...!」
「霊符 夢想霊砲」

小馬鹿にするように想起を見下ろしていたニャルラトホテプに霊力によって撃たれたレーザーが直撃した。
軽く吹き飛ばされたニャルラトホテプは首をブルブルと横に振ると小さくため息をし呟いた。

「めんどくさ...」
「大丈夫?」
「あ、ああ...これぐらいなら大丈夫だ...」
「今のは効いたよん? 流石この次元最強の娘。ちょっと本気を出そうか」

ニャルラトホテプが目を閉じる。すると彼の周りから黒い霧が出現した。
霧が完全に辺り一面に広がるとニャルラトホテプは目を開いた。その目は黒き輝きを放っており何故だろうか生気を感じなかった。
霊奈は嫌な予感を感じ霊力を込めようとするが体に上手く力が入らない。想起も同様に体に力が入らなかった。

「な、なんだ...? この感じは...!」
「力が...抜ける...?」
「うっひっひっひ......人は誰しも怠惰欲を持っている。それを増幅させただけだよん!」

得物を持っていた手にさえ力が上手く入らず、立つ力さえも抜けかけていた。なんとか立ち上がろうとする二人であったが無駄に終わっていた。

「くひひひ! どれだけ強くても感情には逆らえないよね〜? それじゃあ...死んじゃおっか!」

ニャルラトが指を鳴らすと二人を囲うように色とりどりの弾幕が現れた。その数はもはや数えきれない。

「う、動け...!!」
「無理無理〜! 僕ちんでさえ支配される感情に勝てるわけないだろ〜? さぁ...チェックメイトだ」

高々と振り上げた手をニャルラトが下ろそうとしたその時、地面を突き破って何かが飛び出した。
ニャルラトは予想外の出来事に目を丸くし、意識がそれて霊奈と想起の虚脱感が消えた。その隙を逃さず囲っていた弾幕を全て相殺した。
そして、二人の視線は地面から飛び出したものに移った。それは人の形をしており何かを叫びながら霊奈と想起の前に着地した。
その正体がわかると二人は驚くと同時に安堵した。なぜならそこに立っていたのはーーーーーー

「イッテェ......あんの野郎...投げて地上に飛ばすか普通...!!」

何かに向けて怒りを零すアルマであった。

「アルマ...!」
「ん? 想起じゃん。それに霊奈もいるし。もしかして邪魔した感じかな?」
「全然、寧ろ助かったわ」
「おやおや〜ん...? アルマ君じゃ〜ないか。なぜここにいる?」

おふざけモードは突然終わり真剣な眼差しとなったニャルラト。それを意に介さずアルマは小馬鹿にするように笑った。

「ギヒッ! さぁ? なぜだと思う?」
《思わせ振りな態度だな》
「うるせえ!」

地鳴りのような声に想起は戸惑い、霊奈は聞き覚えのある声なのか目を見開いた。一方、ニャルラトホテプ...トリックスターが珍しく汗をかいていた。

「い、今のはまさか...!」
「アルマ。今の声は...?」

想起は不思議そうに声の主のことを聞いた。その質問に対しアルマは苦笑しながら答える。

「俺のストーカーの声さ。まあ...霊奈とニャルラトに説明は不要そうだな」
「ええ...なぜストーカー呼ばわりされてるかはわからないけどね...」
「いろいろとあったんですよ〜」

アルマはパチン! と指を鳴らすと彼の足元に灰色の水溜りが生まれた。そこから灰色の触手がウニョウニョと伸び、数十本もの触手がアルマの周りに現れた。

「ほら働け! アブホース!」
《神使いの荒い男だ...!》

灰色の触手が一斉にニャルラトホテプに襲いかかった。
触手は形状がそれぞれ違い、一つは剣のように鋭利であり、もう一本は槍のように尖り、さらにもう一本は斧のような刃。全てがバラバラな武器の形状を持っていた。
ニャルラトホテプはそれらをアルマの能力で感情を具現化させた武器で応戦する。しかし、それでも数の暴力には敵わず押され始めていた。

「くっ...!」
「おやおや〜ん。苦戦してるのかい? ニャルラトホテプ君?」
「こ...の...メンドクセェ......めんどくせぇ!!」

怠惰の感情が溢れてしまったのかニャルラトホテプの全身が黒い炎に包まれた。その光景にアルマは目を見開いた。

「あれは感情解放か...?」
「当然よね。アルマの能力が使えるんだもの。けど、こっちにはアルマがいる。なんとかできるでしょ?」

霊奈がアルマにそう問いかけるが、ブツブツと一人で何かを呟き考え事をしているのか彼の耳には届いていなかった。

「まさか...いやそんな...ありえない...いやでも...」
「アルマ!」
「ん...? どうした?」
「何を一人でブツクサ言ってるか知らないけど今はあれの対処が先でしょう。ちゃっちゃとやるわよ」
「ああ...そうだな」

そう言うとアルマは左手で右肩を握ると右腕を引きちぎった。その光景にも驚きだが引きちぎった右腕が形状を変えていき身の丈をも超える巨大な金槌となった。
その金槌の名は全てを打ちラース・砕く怒涛の右ザ・ライト。憤怒を込めた鉄槌で全てを打ち砕く。

「行くわよ」
「あい...よ!!」

アルマはラース・ザ・ライトを思いっきり振りかぶると霊奈・・に向けて振り下ろした。しかし、それを想起が防ぐ。それでも衝撃は受け流せず後ろに霊奈共々吹き飛ばされた。
ヨロヨロと立ち上がり、アルマを睨んだ。

「何のつもりだアルマ...!」
「悪いな。状況が変わった。ニャルラトを倒させるわけにはいかない」
「理由を教えてちょうだい」
「秘密だ」
「そう...なら私はあなたを倒してでもニャルラトホテプを仕留めさせてもらうわ」
「悪く思うなよ...」

二人はアルマに自分の得物を構える。小さくため息を吐くと、怠惰に飲み込まれかけているニャルラトホテプの耳元で指を鳴らした。すると、全身を包み込んでいた感情の炎が消え去りニャルラトホテプは理性を取り戻した。

「大丈夫かニャルラト」
「...どうゆうつもりだ? 君が意味もなく敵を救うわけがない」
「六つの大罪の封印が解かれた。あとはお前に掛けられた怠惰の封印だけだ。意味はわかるな?」

アルマの言葉にニャルラトホテプの顔は強張り、その言葉の真意を知ってか頭を抱え込んだ。

「なるほど...どうやら僕ちんはまんまと嵌められたわけだ」
「そうゆうことだ。とりあえず俺に能力を返せ」
「了解了解」

指を鳴らすとニャルラトホテプの手にはアルマの体から抜き取られた能力が形となった白い宝玉が握られていた。
それを受け取り、アルマは自分の心臓に埋め込んだ。
カチリ...。アルマの中でそんな音が鳴った。

「ふぅ...なんか落ち着く。さて...ニャルラト。手を貸せ」
「いいよ〜ん? 君と僕ちんの利害は一致してるしねん! けどいいのかい?」
「今は一刻を争う。いちいちそんなこと気にしてらんねえよ。ほら行くぞ」

グシャリ...
後ろで何かが潰れる音が聞こえた。
アルマは嫌な予感を抱きながら後ろを振り向く。そして、予感は的中した。
頭を踏み砕かれ地面に横たわっているニャルラトホテプとその上に跨るように座っているルシファーがいた。

「やぁ...感情の魔王。元気そうで何よりさ」
「ルシファー...!!」
「その様子だと...私の目的に気づいたようだね」
「お前...分かっててやろうとしてんのか!?」
「正直な話。この封印を解いた後の世界がどうなろうと知ったことじゃない。私は...あの歪な世界を正当化させるだけだ...!」

微笑む笑顔には狂気が混じっていた。アルマは異法によって心臓を取り出し大鎌に変えるとルシファーに切りかかった。だが、地の底から響くような声が辺りに木霊するとアルマの動きが止まった。

『全ての生物を堕落させる最強の大罪。怠惰の封印が解かれた...』

その声の主の正体にいち早く気付いたのはルシファーとアルマであった。
ルシファーは狂喜に満ちた笑みを浮かべ、アルマは怒りにより感情の炎がツノから漏れ出していた。

「な、何が起ころうとしてるの?」
「お前らの所にニャルラトが来たように他の奴らにも刺客が送られていた...俺の感情が込められたな...」
「それがなんだって言うんだ...?」
「必要以上に昂った感情を破壊することで鍵は解かれる」
「ーーーーッ!! 感情解放のことか!」
「そうゆうことだ...七つの大罪がその鍵。そして今、ルシファーが殺したニャルラトで七人目だ...!!」

止められなかった自分自身に怒りが込み上がる。八つ当たりするようにアルマはルシファーを睨み付ける。

「そんな憤怒に満ちた目で見ないでくれよ...興奮してしまうだろ...?」

高揚しきっている彼女は頬を赤く染め微笑んでいた。憤怒の炎に油が注がれるとアルマは右手に魔力を溜めようとしたが、目の前で起ころうとしていることに目を奪われた。
それはどんよりと雲に覆われた空から光が差し込んだ。それはちょうどアルマとルシファーの間に割り込むような形で。神々しい輝きに見えるが想起と霊奈は背中がざわつくものを感じた。まるで嫌悪する何かを見るかのような、そんな感情。
ルシファーは母なる神を崇めるかのように差し込む光に向け祈りを捧げていた。
アルマは空から差し込む光の中から舞い降りてくる者を怒りに満ちた瞳で睨んでいた。
その者が地上に降り立った。
肩まで伸びた長く赤と青の混合する異色の髪。ゆっくりと開かれた双眸は髪と同じく赤と青の混合した異色の瞳。ゆったりとした白いローブに全身を包んだどこかアルマと似ている神々しい女性がアルマを見つめた。

「初めまして...いや...久方ぶりでしょうか? 感情の魔王 桐月アルマ」
「初めましてだろうがよ...! 感情の神 アフェクトゥル!!」

今ここに感情の神と感情の魔王が対峙した。


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