東方魔人黙示録

怠惰のあるま

憤怒の心と潜む声



ツァトゥグァに背負われること数分。
連れてこられた場所は驚いたことに俺が夢に見た灰色の地底湖だった。
それだけでも驚きだが、気のせいでなければ地底湖が目の前で自分から這い出ている何か異形の者を捕らえて喰らってる。
どうゆう状況なのこれ?

「主よ。感情の魔王を連れてきました...」

どこかビクビクした様子のツァトゥグァは灰色の地底湖に向けて話しかけた。
その声に反応するように触手のようなものが伸び何かを払うような動きをした。ツァトゥグァは小さく頷くと静かに俺を下ろし、元来た道を戻って行った。どうやら「下がれ」的なことを言われたようだ。
で...だ。俺はどうすればいいの? 用件があるらしいから来てみたのですが...さっきから声を発しないけど...喋れないのかな。

《一応喋れはするぞ》

うぉっ!? こいつ直接脳内に!! 

《すまない。この距離で我が声を出すとお主の耳が潰れてしまうのでな。念話をさせてもらった》

別にいいですよ。ただノックぐらいはしてほしいな。びっくりしちゃったからさ。

《お主の脳が潰れてもいいのならノックできるぞ?》

ならいいです。ノックをされたと思いきや次の瞬間には死亡とか嫌。てか、脳が潰れるってなに!? どうゆうノックの仕方をすればそうなるの!?

《物理的に頭をコンコンと...》

うわー攻撃力が高いんですねーあはは。
いや待て! なんで物理!? そこはこう...心に向けて何かを飛ばすとかじゃないの!?

《あ、そうゆうの苦手》

苦手!! まさかの返答だよ!!
...落ち着こう。一旦落ち着こう。これ以上何かを追求すると終わりそうにない。
話を戻そうか。どうしてあんたは俺を呼んだんだ。そこまで有名でもない。強くもない。何もない怠惰の俺をなぜ呼んだ?

《気に入った》

は? 気に入った? それだけ? いやもっとなんかあるだろう? こう...お前には隠された力が...! とか。

《いや。普通に見ていたら気に入っただけ》

......OKOK。俺はいつでもクレイジー・アンド・クレイジーだ。とりあえず、俺を気に入ったと言っているがまるでずっと見ていたような言い方だな。

《ここからお主を監視してた。最初は気まぐれだったが、見ているうちに気に入った》

うん。わかった。もうそれでいいよ。
とりあえず...あれですね。俺の人生にはどうやら覗き魔が沢山いるみたいだね。
さとり様とか映姫とか...もうやんなっちゃうぜ。

《まあお主の力に魅入られたのもある。感情で全てを支配する魔王よ》

自分、能力は凄いらしいですが何ぶん人を弄ぶ事にしか使ってない。なので過大評価です。今は奪われてますしね。

《メッセンジャーにだろう? 知っている》

ニャルラトホテプを知ってるのか。まあ、俺のことを見てたんだ。そりゃあ分かるか。

《それもあるがそれ以前から我はあやつを知っている》

そういえば...あんたは何者だ。そもそも俺はあんたについて教えてもらってない。

《我はアブホース。外なる神の一柱だ》

へぇ...外なる神ですか。それはそれはお凄い方ですこと。
え? マジで? 外なる神って...アザトースとかヨグ=ソトースと同じ存在だよな。なんでそんな凄い存在がこんなところで異形なものをポリポリしてんの? 引きこもりなの? 天照なの?

《うるさいぞ。全くお主は人を煽るのが好きだな》

それが取り柄ですから。

《要らぬ取り柄だ。さて、そろそろ本題に入ろうか。我はある者からお主を助けるように頼まれている》

え? 助けてくれんの? というかそのある者って誰ですか? 

《それは追々わかるだろう。それよりも...お主に問おう。力が欲しいか?》

......いらん。

《......は?》

いらないよそんなもん。だって、あんたから力貰えば無駄に強くなるんでしょ〜? 嫌だよそんなの。

《い、いやいやいや! お主、今の状況わかっているのか!? 能力を奪われているのだぞ!》

いや〜あれって〜戦い向けじゃないんよ〜どちらかというと〜遊び用?
別に能力奪われていても俺には戦う手段がまだ残ってる。だからね? 君の力貰いたくない。

《......いいから受け取れ! このバカ魔王が!!》

唐突にアブホースの体から生えている触手が俺の体を拘束すると電撃が触手を伝わり俺の体へと走った。

「ぎゃあああぁあぁぁぁぁ!?」

そして、数分ほど悲鳴が続いた。






△▼△






アルマが無理矢理アブホースから力を与えられている頃。
ここは夥しい数の武器がそこら中に突き刺さる戦場。その中心では一人の鬼である女とまだ年端もいかない妖魔の少年が戦っていた。
その側で一人の魔人と巨大な龍が少年を補助していた。

「イラ! あまり無理をするんじゃない!」

だが、妖魔の少年桐月イラは相当疲弊していた。無理もない。自分よりも格上である鬼神と小一時間は戦い続けていたのだ。子供の身でありながらよく戦った方である。

「ぼ、僕は...まだ戦える...よ...!」

疲れて動かない体に喝を入れるように地面を踏み締め、目の前にいる鬼神に突撃した。

「蛮勇は命を削るだけだ!」
「無駄だアマオ。感情に支配されて聞く耳を持っておらん」

龍の言う通り、魔人アマオの声はイラの耳には届いていない。先ほどからずっと同じように鬼神に突撃を繰り返し跳ね除けられている。
それでも意地を張った子供のようにイラは突撃し続けていた。
このループに飽きた鬼神破月は突撃してくるイラに向けて拳を振るった。
金属のぶつかり合う音が周りに響き渡るとアマオとファラクの間を何かがもの凄い速度で通り過ぎて行った。振り向く視線の先にいたのは苦しそうに血を吐いて悶えるイラであった。

「無茶をしおって...! ファラク! イラを頼むぞ!」

アマオは柄頭に怒と黒い字で書かれた銀色に輝く刃を持ち、魔神の力と大罪である憤怒の力が篭る憤魔剣を強く握り、破月に斬りかかった。
なかなかの速度で振り下ろされた攻撃をいとも容易く破月は白刃取りの要領で受け止めた。しかも片手。

「なっ!?」
「そんな遅い剣がオレに当たるかよぉ!!」

残った片方の手で破月は無防備になったアマオに拳を振り抜く。迫る拳を防ぐようにアマオはもう一つの武器である巨大な斧 欲望斧を出現させ攻撃を防いだ。
それでも衝撃を受け流すことはできずアマオの全身に衝撃が走った。ビリビリと伝わる振動にアマオは顔を苦痛に歪める。直撃を防いだにせよ想像以上の衝撃にアマオは体が動かせずにいた。
その隙を狙い、破月は蹴りを放つ。今度は防ぐことはできず体をくの字に曲げ蹴り飛ばされてしまった。

「ほらほらァ!! こんなもんかぁ!?」
「ぐっ...くそっ! 思ったよりもダメージがでかい...!」
「アマオ大丈夫か?」
「なんとか回復できるレベルだ...。しかし強いぞ...」
「そのようだな。どれ...こけ脅しでもしようかの」

ファラクはそう言うと何かを溜めるように口を膨らませた。

「炎の吐息」

吐息と言いながらファラクの放ったのはもはや炎のレーザー。光速を超えるブレスは破月の横を掠めた。
ファラクの炎の吐息は岩や土をまるでチーズのように容易く溶かし、今もマグマが煮え滾るようにグツグツと溶解している。

「ふむ...こけ脅しどころではないな」
「し、死ぬかと思ったぞ...!」
「すまぬの。ちょっと力加減が苦手でな。はっはっは!」

そう言って笑うファラク。
彼の攻撃を間近で受けた破月は怯えていると思いきや、逆に闘争心が上がっていた。

「いいぜェ...! ソウコナクチャナァ!!」

怒りに満ちた破月はまるで獣のようにファラクへと襲いかかった。それを意に介さないファラクは自身の体を震わせた。

「アマオ。イラを背負って離れておれ」
「わ、わかった...!」

壁沿いに寝かせていたイラを背負いファラクから距離をとるアマオ。それを確認したファラクはブツブツと小さく呟きより一層体を震わせるとあたりに風が舞い始めた。

「風の後光」

風は次第に強くなり、周りにいるもの全てを吹き飛ばすほどの強風となった。
離れていたアマオでさえ、吹きとびかけるほどの強風。そんな風の防壁を無理矢理突き進む破月。それにはファラクも少々驚きを隠せずにいた。

「ふむ。なかなかやるのう。なら...」

ファラクは聞いたことも無い言葉で詠唱を始めた。詠唱を始めた途端にファラクを覆う風の防壁は消え去った。そのチャンスを破月は見逃すわけがない。
無防備のファラクに破月は殴りかかった。だが、それをアマオが防ぐ。

「悪いが邪魔はさせんぞ」
「邪魔だァ!!」
「貴様がな! 切断!!」

アマオが憤魔剣を横薙ぎに振るおうと構えた。それを見た破月は何か嫌な気配を感じ咄嗟にしゃがみ込んだ。
スパッ! という斬れる音が彼女の頭のすぐ上で聞こえた。顔を上げると空間が斬り裂かれ、パックリと小さな空間が生まれていた。どうやらアマオは破月の上にあった空間を斬ったようだ。
もし咄嗟にかわしていなければ破月はただではすまなかっただろう。

「よくかわしたな。褒めてやろう」
「あんなトロい攻撃がオレに当たるかヨォ!!」
「なら...これはどうだ? 憤怒 噴火斬!」

地面を砕くように踏むとクレーターが出来上がった。クレーターの中心に熱が帯びていき地面を突き破って巨大な火柱が吹き上がった。アマオは火柱を憤魔剣に纏わせて破月に斬りかかる。しかし、破月は避けずに拳を振り抜いて憤魔剣を殴った。
金属同士のぶつかり合う音が鳴り響いた。ジリジリと憤魔剣を纏っている炎が破月の拳を焼いていくが一歩も引かず、もう片方の拳で空間を殴る。すると、振動が伝わるように空気が波打った。
振動はアマオの体内を揺らした。流石の魔人と言えど内臓を揺らされれば応えるようだ。

「ぐふぁっ!」
「あはははハハ!! 効いてるみたいだナァ!」
「はぁ...はぁ...そろそろいいか...ファラク...?」
「ああ、充分だ。降り注げ...天変の兆し」

ポツポツと空に赤い点が現れた。
徐々に大きくなるとそれは巨大な隕石であり、破月に向け降り注いだ。
そんな天変地異にも恐れず破月は全身から強い魔力のようなものが放出し、彼女の額から生えるツノに赤い炎が纏った。まるで太陽の如く燃え上がるそれはどこから見ても感情の炎であった。

「こんな隕石ィ...! 全部破壊してやるゼェ!!」

迫り来る隕石に向けて空気を揺らした。空気が振動すると同時に揺れた空気は爆発。振動は隕石を破壊しながら空気を揺らしていく。
そして、すべての隕石を破壊し尽くし破月は高らかに笑った。

「これで終わりかァ!? オレはまだ生きてるぜェ!!」
「ああ、終わりだな。この戦いのな」

アマオの言葉の意味を知る前に背後から感じる殺気に破月は後ろを振り向く。

「武装《憤激の鉄槌》!」

そこにいたのは先ほど吹き飛ばされたはずのイラであった。両手には禍々しいフォルムの赤と黒を基調とした巨大な金槌を持っている。

「吹っ飛んじゃえぇぇぇ!!」

防御をとろうとした破月だったが間に合わずイラの渾身の一撃を喰らった。近くの壁に全身がめり込み少々呻き声を上げて気絶した。
勝利を掴んだイラはぴょんぴょんと跳ねるが二、三回ほど跳ねたとこで目を回して気絶した。地面に倒れこむ前にアマオがイラを支えた。

「フゥ...全く落ち着きのない子だ...」
「子供は元気な方がいいじゃろう?」
「そうだな。一先ず、この戦いは我らの勝ちだ」

勝利を手にしたことにアマオとファラクは顔を合わせて笑いあった。









△▼△







「破壊と殺戮の象徴...憤怒の封印が解けた...ふむ。あと六つ......」




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