東方魔人黙示録

怠惰のあるま

集められし強者達


カイルの挨拶により、今日《魔王の集会》が開かれた。毎回、この集会は決して何かが決まることはなく討論の末に現状維持で終了する。
だが...今回の集会は何かが決まる予感を全員が感じ取っていた。それは善意あるものなのか、悪意あるものなのか。誰にも知る由はない。
彼らがわかることは一つ。魔王の集会中はこの部屋から出ることは叶わず、全次元が結合し自分の次元が危機に陥ろうとも助けにはいけないのだ。それを理解した上で彼らはここに集う。なぜなら、この集会で決まったことはアザトースの力により絶対となる。
故に簡単に決定することはできずにいるため、毎回何も決まらずに終わっている。

「さてと...それではいつものように各自何かあるか?」
「俺はいつものようにない...と言いたいところだが、一つある」

あまり集会で意見することのないアルマの行動に皆の奇妙な視線が集まる。カイルは司会として発言するように促す。

「なら感情の魔王。述べてくれ」
「全次元の壁が消える仕様を無くす」
『....はぁぁ!?』

アルマの意見にカイルを除く全員が驚きの声を隠せなかった。何故このように驚いているのか...簡単だ。自分の次元を広げることができなくなるからだ。
次元の壁が消える時、それはすべての次元が一つとなる。こう聞けば、そうでもないように聞こえるが実際は違う。次元の壁が消える時、全次元の魔王による領土争奪戦が始まる、だ。これがアルマが危惧していたことでもある。
魔王の集会とは名ばかりの集会である。本当は領土争奪戦のために始められたと言っても過言ではない。そして、忘れてならないのはこの集会はニャルラトホテプが主催者ということだ。
彼は混沌を呼ぶと共に主であるアザトースを楽しませる役目も担っている。そして、生まれたのが全次元による領土争奪戦。
これがニャルラトホテプの思惑だと知っていたアルマは集会に参加せず、次元の壁を消えないようにしていたがそれも長く続かず彼なしで集会を進める方針となりかけたためしょうがなく集会に参加をしていた。
まあ、アルマのように平和主義者兼面倒くさがりな魔王はそうそういない。
それこそ傍若無人の言葉が似合う者だっているのだ。アルマの意見に賛同する者はほとんどいないだろう。

「感情の魔王よ...戯言はやめろ...」

ギャバンはアルマを睨むが気にすることなく言葉を返す。

「俺がここで戯言を言ったことあるか?」
「そういう意味じゃないっつーの! あんたが今言ってることが戯言だってことよ!!」

レヴィもギャバン同様、睨みつけ怒りが露わになっている。だが、今度はアルマも怒りを見せる。

「次元の壁をいちいち消すから戦いが起こるんだろ!? ならこの制度を消せばいいだろうが!! 何故それがわからねえんだよ!!」
「僕だってそれが一番だと思うよ〜? けど、それはそれで問題も生まれるんだ〜」
「落ち着いてください。アルマの言うことも一理ありますがベルナの言う通り、問題もあります」

アルマと共にやってきた男。全能の魔王ガリウスは皆を落ち着かせ、二人の意見を聞いた上で話を始める。

「次元の壁が消えるという事は戦争が始まることを意味する。それをアルマは止めたい。だがそれを行うと領土争奪戦のために用意した兵士達から反感を買う。ベルナはそう言いたいんですよね?」

弁解してくれたガリウスの話した内容に納得するベルナ。

「そうそう〜感情の魔王だって困るでしょう〜?」
「おまえらと違って俺は自分の次元を守ることしか頭にねえよ」
「君っていっつも領土広げないよね〜?」
「広げる意味がねえよ」

面白くなさそうにテーブルに肘をつくアルマに機嫌が悪そうなギャバンが彼の行動を否定する。

「おまえは異端の魔王だ。なぜ魔王と言う役職に就きながら...平和を保とうとする?」
「逆に聞くぞ。なぜそんなにも領土を広げたがる?本当にそれはおまえらの意思か?」
「何を言いたい...?」
「おまえらは自分の感情で動けているかって意味だ」

傍観を決めていたルシファーが興味ありげにアルマを見つめる。それに気づいたアルマだが、絡むと面倒くさいと悟り気づいていないふりをする。

「全く意味がわからないな...」
「まあ...それは後でじっくり話すとして...ギャバン。一つ聞いていいか?」
「なんだ...?」
「おまえ...いつから俺って言うようになった?」

その言葉にギャバンは目を見開いた。
ルシファーもアルマの言葉に眉をピクリと動かし、他の魔王達は首を傾げる。

「ギャバンは少なくとも自分を《俺様》っていう。威張り散らす野郎で生と死のギリギリを生きる。そして、平和主義者だ」
「......何が言いたい?」
「下手な芝居すんなってことだ。トリックスター」

トリックスターという名が出ると全員の視線がギャバンに集まった。
自分への不信感が抱かれた時、ギャバンは狂った笑い声を上げた。その顔は歪んでおり、口元は頬まで裂けている。
笑い声が、突然止むとギャバンの体が黒く染まった。外膜が黒い液体として床に垂れていくと中からマスクをつけた白いタキシードに身を包み、白いシルクハットを被った男が拍手をしながら椅子に座っていた。

「アヒャヒャヒャ!! よく気づいたね〜さっすがアルマくん!」
「ニャルラトホテプ...!」
「お〜っとっと! そんな顔しないでよ〜レヴィちゃぁん? 君と僕の中じゃないか〜!」
「黙って下さい」
「あれれ〜? 歓迎されてない? ガックシ!!」

わざとらしく項垂れるとアルマは表情を変えることなく冷たい目線でニャルラトホテプを見ると、いつもと全く違う低い声で質問を飛ばす。

「何が目的だ?」
「もう〜アルマくんはせっかちだな〜! まあいいや! 説明しようじゃないか!」

パチン! と指を鳴らすと部屋の中が揺れ始めた。大きな地震が起こり、ベルナとレヴィはギャーギャーと騒いでいる。
だが他の四人は冷静にニャルラトホテプを見つめた。

「とりあえず...全次元の壁を消してからじっくりね!」
「まさかと思うが...この次元も含まれるのか?」
「全次元!! だよ? そ・れ・に! 僕ちんの計画を進めるには必要なことだし〜?」
「計画ってなんだ? 一言で言え...消すぞ?」
「お〜怖い怖い! でもまあ簡単だよ〜! 私が全次元の魔王となる」

ニャルラトホテプの不気味で頭の奥に響き渡る笑い声が部屋の中に響き渡った。
そして、唐突に笑い声が止むとアルマを指差し低い声で言った。

「それにはね...君が邪魔なのだよアルマくん」
「あっそ。なりたきゃなればいいだろ? なんで俺が邪魔になんだよ」
「そうなると君の次元...僕が奪うよ...? 君の大切な...金髪緑眼の女の子も...傷つけちゃうよ〜?」

煽りに煽るニャルラトホテプからパルスィの情報が聞こえるとアルマは心臓から大鎌を取り出し、ニャルラトホテプの首元へ斬りかかった。だが、寸でのところでカイルに止められてしまう。

「邪魔だ...こいつを殺す...!」
「落ち着け!! こいつの思う壺だろう!?」
「アヒャヒャヒャ!! もう手遅れダヨォん!! 集会中の争いはペナルティ...だよ?」

パチン! と指を鳴らすとアルマの足元に魔法陣が出現し、十字架が召喚された。十字架から伸びた触手のようなものがアルマを拘束し、十字架に張り付けた。さらには後ろに巨大なルーレットが出現した。

「うっひっひ......君は何を奪われるのかな...?」

拘束されたアルマは恐れる様子はなく。むしろ笑いが溢れていた。

「何笑ってるんだい?」
「いや...この状態でも安心してる自分がいることが面白くてよ」
「ふ〜ん。カンに触るね! じゃあ...ルーレットスタート!!」

ルーレットが回りだし他のメンバーが不安そうに見つめる中、アルマは不敵に笑い続けた。まるで希望があるかのように......






△▼△








時間は少し遡りアルマが魔王の集会に向かったすぐ後の地霊殿。
そこにはパルスィといつもの終作が立っていた。

「パルスィちゃ〜ん! 元気〜?」
「うわぁ...」
「何その反応!? 終作ちゃんショーック!!」

大声で笑いながら仰け反る終作にパルスィは呆れて溜息をする。

「それで何の用かしら?」
「いやいや。そろそろアルマに頼まれた時間だから召喚しに来たんですよ」
「召喚...?」
「出でよ! この次元の強者達!!」

両手をパンッ! と合わせ、地面に付けると終作とパルスィの間に次元の大穴が開いた。何が起こるか悟ったパルスィは穴から距離をとる。
そして、穴から降ってきたのは...白い鱗に覆われた巨大な何か。数カ所に炎のように赤く燃え上がる剣か斧のような鋭い特殊な鱗が生えていた。生える腕は鉤爪も鋭く、大きいが、体全体と比べると小さく見える。後脚もあるようだが前足よりも小さい。
なんとなく蛇のようにも見えるその巨大な何かはキョロキョロと首を横に動かし、あたりを観察していた。

「な、何こいつ...?」
「あっれれ〜? なんか変なの出てきたぞ?」
「あなたが連れてきたんじゃないのね...」
「こんな蛇のようなドラゴンのような何かと面識を持った記憶はございませ〜ん!」
「......先ほどから吾輩の近くで喚いておるのは貴殿らか?」

二人の存在に気づいた巨大な何かが語りかけた。敵意は感じないが用心をすることに越したことはない。
珍しくパルスィが自分から自己紹介を始める。

「私は水橋パルスィ。この地底にある橋を守っている橋姫よ。あなたは?」
「吾輩はファラク。貴殿らで言うドラゴンという存在...それでなぜ吾輩はこのような場所におるのだ?」
「それは! この終始終作君が説明しよう!」
「何となく貴殿が原因な気がするが気のせいか?」
「気のせいじゃないわよ」

事の顛末をファラクに説明すると興味気に聞いていた。
説明を聞き終えて何かを納得したファラクは一つ提案を出した。

「始祖神。吾輩も貴殿たちの力となって良いか?」
「いいけど。なぜまた急に?」
「ただの気まぐれだと思うてくれ」
「まあ戦力はあるに越したことはない。さて、気を取り直して...出でよ! 強者たち!!」

今度は指を鳴らすと、またもや巨大な穴が空間に開いた。そして、次々と大量の人たちが穴から落ちてきたのだ。しかも、全員が見知った顔ぶれ。
十数名もの小さな人間の山が出来上がり、終作は大いに笑い、ファラクは唖然とし、パルスィは同情をしていた。
一番最初に穴から落ちて押しつぶされていた男が途切れ途切れになりながら怒鳴った。

「また...お前か...終作...!」
「おやおや〜ん? 幻真くん何してるの?」
「お前のせいだろ!!」

山から抜け出たジーパンに青い半袖を着た別世界の住人、幻真。何度かアルマとも面識を持っている。

「まあまあ落ち着いて幻真」
「言い返すだけ無駄だ...」

幻真を宥める二人は同じ世界の住人である赤色の薄シャツの上に、黒いジャケットを羽織り、ジーパンを履いているのが火御利。インディゴブルーのデニムシャツに、ジーパンを履いているのが想起だ。
終作の後ろにいるパルスィに気がついた火御利は彼女に駆け寄った。

「久しぶりねパルスィ!」
「ええ、そうね」
「ちょっと雰囲気変わったみたいだけど...」
「いろいろあったから」

仲良く話す二人に近づく怪しい二つの影。片方は幻真と同じ世界の住人である黒色の薄シャツにジーパンを着た男、時龍。もう片方はまた違う世界の住人、相沢絢斗。どちらも変態である。
この二人は彼女達にセクハラをしようと構えているようだ。まったくもって命知らずである。

「うひひ...どうする時龍?」
「もう少し待とう...きっといいシャッターチャンスがあるはずだ...!」
「へぇ? 例えば?」
「そりゃあもちろん!彼女たちの夢と希望が詰まったスカートの中!! って...」

時龍は話しかけてきた相手の顔をよぉく確認した。そこにいたのは霊夢のような巫女服を着用し、桜の髪飾りを付けている女性。少々、お顔がお怒りのようである。

「や、やあ桜ちゃん...元気かぁい?」
「ええ、あなたたちがいなければね。覚悟はいいかしら?」
「ご主人様私がやっても良いですか!」

幼い見た目の少女がテンション高めに言った。
はだけた和服を着て、帯に花火玉のようなものが何個か括り付けられ、自分の身長よりもやや大きい花火筒を背負い、桜の花びら型の帯留めを付けている。この幼い少女の名は鍵野 玉木。桜の式神の一人である。

「いいわよ。遠慮なくやっちゃいなさい」
「ちょ、ちょっと落ち着こう!?」
「いいえ、ダメよ」
『ひぃぃぃぃぃ!!』

今にも弾幕を放とうとしている桜を、右腕に小さな弓のついた籠手をはめ、はだけた枯草色と若草色のグラデの着物をきた少女と青いジャケットを羽織り赤いネクタイと黒いYシャツ、白いズボンに黒いブーツを履き、腕時計をしている青年に止められた。

「少し落ち着きましょう?」
「そうだぞ桜。この世界で暴れたらアルマが怒るぞ?」
「うっ...それもそうね...」
『た、助かった...』

少女の名は宇上 祭。桜が巫女をしている神社に祀られている二柱の神の一人。
青年の名は白谷 磔。絢斗と同じ世界の住人であり、たまに世界渡航をする際にこっちの世界に訪れることがある。
磔の後ろを付いてくるように一人の少女が現れる。半袖・襟の広いシャツのようなものの上に、左肩側だけ肩紐のある、青いサロペットスカートだろうか? 白い帽子を被り、靴はブーツを履いている。

「お父さん! 変態がいます!」
「うん知ってるけど分解しちゃダメだぞ。この世界の友人に怒られるからな」
「友人って...どなたです?」
「今はいないようだ。後で説明するよ」
「磔さん...ここどこですか...?」

少々おどおどしているベージュのスボンに、黒のタンクトップ、その上に青のパーカーを来ている男。磔と同じ世界の住人、佐藤 快は聞いた。

「アルマって奴がいる世界さ。途轍もなくダラケきった男でさ〜」
「それが良いところでもあるだろう?」
「おお! 幻真」
「それで? 俺らを呼んだ理由はなんだ終作」

幻真の質問にその場にいた者たちの視線が終作に集まった。
それを困ったような表情すると終作は今回の行動を説明する。

「君たち何か勘違いをしているが、今回君たちを呼んだのはアルマからの頼みだ!」
「アルマが? なんでまた」
「それはこれを使って説明しよう!」

ポケットからゴソゴソとある札を取り出すとパルスィに手渡した。

「じゃあお願いね〜」
「なんで私が...ってこれってアルマの記憶の札...」
「アルマがパルスィちゃんなら使い方知ってると言ってたんでね〜!」
「......アルマ」

小さくアルマの名を呟くと記憶の札を全員の目に入るように上にかざした。すると、札が淡い輝きを放ち、全員の視線が札に向けられると頭の中にたくさんの記憶が送り込まれた。その量は途轍もなく全員に頭痛が走った。

「ぐぅっ!? あ、あたまが...!」
「な、なんだこの記憶の量は...!」
「あ、頭が...割れそう...!」

全員が頭痛に苦しむ中、終作は苦しみはせず何故か発狂している。
全員の頭の中に魔王の集会についての情報。自分達を呼んだ理由。これから起こるであろうアルマの予測。そして、最後に流れた記憶は...

《突然呼んで悪いな...俺がいない間この世界を頼む。それと俺に何があろうと絶対に助けに来んな.........いいな?》

アルマからのメッセージであった。

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