東方魔人黙示録

怠惰のあるま

怠惰欲の消失

勇儀さんの拳がいつも以上に遅く見えた。
そのためか普通に受け止められた。自分でもびっくり。
何が起こってるかは大体想像可能。
たぶん俺の体から赤眼の怪物が完璧に抜け出て怠惰という感情が消えてしまったからだろう。
俺の力のセーフティロックは怠惰のう感情が原因でかかってる。たぶん無意識に体が動きたくない一心でかけた。
根本的にだらけきってるねぇ...
まあ、何が言いたいのかというと今の俺は本気を出し切れるってわけだ。
疲れるけどさ。

「本気で来なよ。勇儀さん?」
「......あーハッハハハハ!!いいよ!久しぶりにゾクゾクするよ!!」

拳を鳴らし、完璧な戦闘態勢に入った。
流石に生身で勝てるわけがない。武器を使うけど戦いだ。卑怯とは言わせないぞ。
まあ...あの武器取るのは気持ち悪いから嫌なんですが、勇儀さんレベルの戦いで折れないと保証できるのはあれしかない。
心臓あたりに手を置き胸を貫いた。

「あ〜...気持ちワリィ...」
「じ、自分の心臓を刺した!?」
「あれ使うんだ。珍しい」
「パル姉知ってるの?」
「まあ見てなさい。あなたのお兄ちゃんの悪趣味なところ」

何を言いたいのかわからないまま正邪は自分の兄の異常とも言える行動に目を移した。
ずっと見ていたいものではない光景に目を逸らしそうになるが、1つ変化が現れた。
胸に刺さっていたはずの右手が出ていて棒のようなものを握っていた。その棒は禍々しい気を放ち、気のせいか脈打っているようにも見えた。
ゆっくりと取り出される棒は徐々に姿を現していく。
だが、途中で手の動きが止まった。片手で引っ張っていたが左手でも棒を掴み強く握った。
そして、一気に引き抜いた。
棒の全貌を確認した正邪は目をキラキラとさせていた。

「か、かっこいい...!」
「......あなたたち本当に兄妹なんじゃないの?」

アルマの取り出した武器は赤黒い不気味な光を放ち脈動していた。
赤い半月のごとく弧を描く刃にはギョロギョロと赤眼が蠢く。
持ち手には右肩から生える赤黒い鎖が右腕から巻かれている。
禍々しい気を放つアルマの大鎌は正に気味の悪いことこの上ない。
まさに死神の鎌。

「《死をも奪う心の鎌ソウル・ザ・グリード》」
「気持ち悪い大鎌だね...」
「何言ってるんですか。かっこいいでしょう?」
「やっぱりあんたは感性がずれてるね」

まったく。俺の感性がずれてるとか酷くないですか?

「パルスィ〜かっこいいよな?」
「全然。悪趣味」
「あたしはかっこいいと思うぞ兄貴!」

パルスィも酷いな。悪趣味?どこがだ。それに比べて正邪は本当に見る目あるな。
流石俺の妹。
ジャラジャラと鎖を鳴らしながら大鎌を振り回し、勇儀さんに切っ先を向けた。

「さぁ!本気の戦いだ!手加減抜きで行こうぜ?」
「男らしいじゃないか!!あたしが貰いたいくらいだねぇ!」

チラッとパルスィを見ると殺気を放ち勇儀さんを睨んでいた。
それを感じたのか勇儀さんでさえ、ビクッと体を震わせたがパルスィが放ったと気づきニヤニヤ笑っていた。
パルスィの殺気で余裕なのあなたぐらいですよ?

「まあいいや...先手必勝!強欲【満たされぬ黒き欲求】!」

地面に影が広がると黒き手が無数に飛び出した。
俺の周りを取り囲むように黒き手が動き回る。

「握り潰せ...」

その言葉を合図に勇儀さんを黒き手が襲う。腕で防御するようにガードするが無数にある手を防ぎきれるわけもなく全身を押さえつけられた。
ギリギリと掴む手は骨なら簡単にへし折りそうだった。
普通の生き物だったら....

「いい腕力だ...!けど.......足りないよ!!」

拘束していた黒き手を意に介さず引き千切った。
千切られた手はボロボロと崩れ地面に落ち灰となる。
それを見せられた俺は正直驚くが、想定の範囲内でもある。だってあの勇儀さんだぜ?
大鎌を振り回しながら勇儀さんとの距離を狭めて行く。
もちろん黙って立ってる勇儀さんではない。同じく接近して攻撃範囲内に踏み込むと殴り掛かった。
が、俺は背後に回らせてもらった。

「な!?」
「俺から意識を外させてもらった」

こいしが認識できない原理と同じで俺から意識を外させて消えたように見せる。
まあ、かといって背後に回れた理由にはならない。そーっと、体を180度回転させました。
これで背後に回ったわけですよ。
ガラ空きの勇儀さんに大鎌を振り下ろすが寸でのところで止められた。
反射神経異常だろ...

「背後からなんて...男らしくないねぇ...」
「戦いに卑怯なんてないぜ?」
「ああ...そうかい!!」

バシャァ!!
腰に下げていた瓢箪から酒をぶちまけ動きを止められた。
その隙に肝臓の上あたりにもろ拳が入った。一瞬動きが止まるがただ喰らうほど弱くないぜ俺?
持っていた大鎌を俺の体ごと勇儀さんを貫く。

「ぐっ!?」
「あったり〜!」

ゆっくり目を開けるとどうやら右の脇腹に刺さったようだ。

「無茶苦茶な戦い方するね...心臓に自分の武器を刺すとか正気の沙汰じゃないよ」
「残念!心臓は今ここにアリマセーン!」

貫いた部分を見せるとぽっかりと穴が空いていた。

「本当に悪趣味で馬鹿...」
「もしかして...あの大鎌って」
「そう...心臓...」
「うわぁ......」

そうパルスィのいう通り俺の大鎌は心臓から作り出した大鎌。
この大鎌自体が今の俺の心臓と言っても過言ではない。
あ、でも壊れたとしても数時間ほどこの技が使えなくなるだけで死にはしない。
数日動けないけど。

「ジャンジャカ行くぜぇぇ!!」
「ふぅ...自分で弱点さらけ出してるようなものじゃないか?」
「そう簡単に壊れないからさらけ出してるんだよ!」

空を切るように振り回すが何度やっても勇儀さんに当たる気配皆無。
あ〜...なんだろう面倒くさくなってきた。

「感情【進撃のカタストロフィ】!」

黒いスパークが迸るレーザー発射。その姿、まさに黒いレールガン。

「鬼声【壊滅の咆哮】」

しかし、それをかき消す咆哮が放たれ黒いレールガンは消え去った。
俺は呆然する。いや、本気で撃ったレールガンが咆哮1つで消されてたまるか!!?

「驚いてるとこ悪いが...この大鎌壊すからな」
「へ?」
「四天王奥義【三歩必殺】」

一歩ーーーーー

逃げようとする俺の肩を掴み決して逃さないようにミシミシと音が鳴るほど力強く握る。

二歩ーーーーー

もう一歩足を進めると今度は俺の大鎌の刃を掴んだ。
気のせいかヒビが入り始めてるんですが?
待って!?マジで壊そうとしないで!?

三歩ーーーーー

「何か言うことは?」
「......へ、ヘルプ」

パリィィィ...ンン......
大鎌が粉々に砕ける音が鳴った。
そのせいで全身の力が抜けグッタリと座り込もうとする俺の体を持ち上げ、ダメ押しの鉄拳が腹にめり込んだ。
地霊殿の庭にまで吹き飛ばされてしまった。そして、地面に激突するとともに俺の意識はブラックアウトした。



かなり遠くまで飛んだわね。
ま、あれだけ勇儀を本気にさせれば仕方ないか。
...大鎌壊されたけどあいつ大丈夫かしら?

「いやぁ...疲れた。満足したから私は帰るぞ?」
「わかりました。それじゃあ私達も戻りましょうか。アルマも拾わないといけませんし」
「たぶん地霊殿に飛んで行ったから大丈夫だと思いますよ?」

絶対に動けない状況だろうけど。

「にしても、どうしてあんなに兄貴はやる気満々だったんだ?」
「あいつが抜けてたからよ」

私が指差す先にいたのは緑眼の怪物と赤眼の怪物だった。
すごくイチャイチャしてるけどあの二匹は本当に仲が良いのか悪いのかわからない。

「あれ?パルスィだ」
「ああ、本当だ。クソアルマはどこだ?」
「あなたの主人なら地霊殿まで飛んでいったわ」
「あーらら...本気出せるからって調子乗ったな」
「大鎌も壊されてた」
「へー......!?大鎌が壊れた!?」

急いで何かを確かめるべく赤眼は地霊殿に向かって走って行った。
それを追いかけようとする緑眼を捕まえ戻るように促すが、駄々をこねて戻ろうとしない。
全く私の一部なのに性格が真逆なんだから...困ったものね。

「また後で出てきて良いから今は戻りなさい」
「ブゥ〜...わかったよ」

私に右手を差し出し、私も右手を出して触れると緑色の粒子となって消えた。

「さっ!アルマの様子を見に行こうかしら」

それとさとり様は満足そうに笑ってるのでしょうか?

「あの二匹みたいにあなた達二人もイチャつく時が来るのかと考えたら...もう幸せすぎて......」
「ああもう!そんなくだらないこと考えてないで行きますよ!!」

あの二匹がイチャイチャしてる姿を見るといつも妬ましいと思うけど、あんなにまでイチャつきたいと思わない。
...別に嫌ってわけじゃないけど

「うふふふ...」

はぁぁ...いつになったらさとり様は覗くのを止めてくれるんだろう。
ちょっと思っただけでも見られるから気が抜けないのに...

「私はずっと覗きますよ?」
「日課だからですか?」
「はい!!」
「そんな元気に返事するなぁ!!」



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