比翼の鳥

風慎

第5話:出会い

 その存在は、小さな小さな女の子だった。身長は俺の胸ほどだろうから110cmくらいだろうか?しかし、普通では有り得ない特徴があった。
 まず、髪の色。真っ白だった。おじいさんの白髪でもこうはならんだろうと言うほどの純白。艶やかさを兼ね備えた髪。それを伸びるまま伸ばして、地面に着こうかと言う勢いだった。
 実際、毛先の方が少し薄汚れている所を見ると、引きずっているのかもしれない。
 そして、目。真っ赤な目だった。充血とかそういう話ではない。吸い込まれるようなルビー。何を映しているのかすら分からない。正に、宝石のような目。
 整った顔立ち。顔のベースは日本人離れした西洋人形のような精緻さがある。完成したかのような美しさ。
 肌も透き通るように白い。日焼けというものどころか、メラニン色素すらないんじゃないかと言う白さだ。
 そして、ところどころ薄汚れたワンピースから延びる手足は、折れてしまうのではないかと言うほど細かった。何を食べたらここまで細くなってしまうのだろうか?痛々しさすら感じるほどだ。

 そんな女の子が、ぼーっとこちらを見ていた。色々と予想外だった俺は暫し彼女と見つめ合い…

 「えっと…こんにち…は?」

 と、情けない声でファーストコンタクトをしたのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 幸い、少女は逃げずにこちらをじっと見たままだった。こちらも、敵意がない事を見せる為、ゆっくりとしゃがんで目を合わせ、話しかける。

 「初めまして。俺の名前は 佐藤 翼。良かったら君の名前を教えてくれるかな?」

 少女は目をパチクリさせて、黙考。俺の方を指さして

 「ツバサ?」

 と、首を傾けながら言った。

 「うん。俺の名前は翼。君の名前は?他の人から何と呼ばれているか教えてもらえるかな?」

 こちらも、自分の胸に手を当て、もう一度名乗った後、少女に手先を向けて問い掛けた。

 少女はまたも黙考。正に、「んー」と言う感じだった。その様子に色々と不安だった気持ちが癒される。

 「おい」

 少女がいきなり、そう言った。こっちがオイオイだ。更に続けて

 「お前?ガキ?チビ?」

 何の罵倒だそれは…。思わず俺は頭を抱える。
 その様子を見た少女が不思議そうに、「んん?」と首を傾げた。

「それは…。恐らく君がそういう風に呼ばれてたって事だよね?」

 俺が脱力しながらそう言うと、少女は「うんうん」と首肯した。
 参った…これは、名前が無いパターンではないだろうか。下手すると児童虐待とか!?
 一旦、名前は棚上げにして、誰かと住んでいるのか聞いた方がよさそうだな。

 「そっか。えっとじゃあ、君はこの辺りに住んでいるの?おうちの人は一緒?」

 そう聞くと、また少し、黙考した後、

 「いつもいるのは…もう少し先?一人?」

 いちいち首を傾げながら答えて来るのが不思議と愛らしい。
 って、おい。一人??今一人って言ったか?この森に?たった一人?嘘でしょう?

 「え。えーっと。もしかして、君は一人でずっと生活しているのかな?誰かいなかったの?」

 更に少女が黙考中…。「んー」とか言ってるし。なんか癒されるな。

 「じじい?ばばあ?前に居たけどもういない?」

 うん、言葉遣いが致命的に壊滅しているのは育ての親のせいだな…。
 じじいさんとばばあさん。もう少し何とかならなかったのか…。

 「そっか…。じゃあ、今は本当に一人で住んでいるんだね…」

 少女はコクコクと首を縦に動かした。
 どうやって生活しているのか甚だ疑問ではあるが、これは渡りに船なのではないだろうか?
 今は明るいがそのうち日も落ちるだろう。このままでは俺は下手すると獣のエサってこともありえる。
 正直、うら若き(若すぎる)少女の家にこれ幸いと転がり込むのはなんか大人として駄目っぽい気がするけど、背に腹は代えられん。
 そうだ。これは命を守るための戦いなのだ。…決してロリコンだからじゃないよ?ホントダヨ?
 そう無理矢理、論理武装した俺は、少女にお願いした。

 「実は、今俺は絶賛遭難中で、寝る場所も無い状態なんだ。本当に不躾な頼みで申し訳ないのだが、一晩泊めて貰えないだろうか?」

 少女は、少し「んー」と黙考したのち、コクンと了承してくれた。
 正直助かった感は大いにあるのだが、少し無防備すぎませんかね?と心配になる俺だった。


 少女は迷わず森を進む。俺はその後からついていくわけだが、少女の歩みに全く迷いが無かった。
 不思議だ…。どう見ても同じ景色にしか見えないのに…。余りに不思議だったので、その事を聞いてみると…

 「なんとなく?」

 という素敵な答えが返って来た。俺はハハハと愛想笑いしつつ、どうか無事に家に着きますようにと、何かに祈りつつ少女の後を着いていくのであった。
 少女が「んー?」と首を傾げていたのはご愛嬌だ。

 結論から言えば家には着いた。ついたが…これは家と言うより洞窟ですよね?けど、確かに家があるとは一言も言ってなかったな。何だ俺の早とちりか…はぁ。
 そんな俺の葛藤を知らない少女は、「こっち」と穴を指さして入って行った。
 そんな感じで洞窟進入と、一人暮らしのうら若き乙女の家にお邪魔という俺の記念すべきメモリーが刻まれることになった。

 すいません。洞窟馬鹿にしてました。実は結構中広かったんです。
 手で掘ったとは思えないほど、綺麗に整形されている通路を抜けると、10畳ほどの広さのリビングがあった。
 そこから寝室と思われる部屋が3つ別にあり、更に奥には湖まであった。それとは別に水飲み場まであるし、住環境は悪くなかった。
 暗くてジメジメしているだろうと思っていたのだが、そこは良くわからんファンタジーが威力を発揮していた。
 壁が少し光っているんですよ。良く見ると苔の様な物がびっしり生えていて、これが光をほのかに出しているらしい。
 苔が蒸しているなら、湿度も高いのかと思いきや湿気も感じないし、不快さは感じないし、素晴らしきエコ生活ですよ。このコケ持って帰ったら凄く便利そうだ。

 「しかし、凄いね。凄く良い家だよ。正直びっくりした。」

 俺は素直に驚きを少女に伝えた。
 少女は少し、黙考したのちに。

 「ん。」

 と、感情がほとんど出ていない顔で首肯した。
 その様子を見て、ふと先程棚上げした名前の事が頭に浮かぶ。

 「そうだ、確認したいんだけど、君には名前が無いんだよね?」

 少し黙考したのちに、少女は首肯。

 「ならもし良かったら、なんだけど…俺に名前を付けさせてくれないかな?仮の物でもいいから。」

 そう提案してみた。正直、君とか、少女とかなんだか気分が悪い。折角目の前に居るなら名前で呼びたい。
 単なる俺の我がままだったわけだが、少女の反応は劇的だった。

 目を真ん丸に見開いて、とても私ビックリしてます!っていう表情だったのだ。
 これはもうひと押しかな?

 「駄目?かな?駄目なら無理にとは言わないけど…」

 その言葉を聞いた少女は、ブンブンブンブンと首を振った。
 分かり易い。非常に良い反応だ。

 「んじゃ、名前。決めて良いかな?」

 今度は横から縦運動に変わった。見てて面白いな、これ。
 まぁ、このまま放って置くと目を回しそうなので、さくっと名前を言う事にする。
 実はもう既に、名前が無いと知った時にこれしかないという名前を決めていた。

 「じゃあ、今日から君の名前はルナだ!宜しくルナ!」

 真っ白な少女に俺が付けた名前は、気高い夜の女王の名前だった。

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