比翼の鳥
第13話:魔力
今俺の前で、ルナは全身を使って伸び縮みを繰り返している。
具体的に言うと、胸の前で何かを握り、それを頭の上へそのまま持ち上げて、パーッとばら撒く。
そんな動作を一生懸命繰り返している。雨乞いですか…というとても形容しがたい動き。
擬音を使えば、「んー!ばーー!!」って感じだろうか…。
あ、あれだ。なんか見たことあると思ったら…
かの有名な超重量級の自称妖精と、仲良くなった姉妹たちが傘を持って木を生やす時にやっていたあの動きに似ているんだわ。ああ、なんかもやもやした物が取れてすっきりした。
などと、全く関係ない事を考えている俺を尻目に、一生懸命その動きを繰り返すルナ。
結局、あの朝の騒動は何が原因なのか良くわからなかった。
そのままなし崩し的に洗濯されそうになった俺は、苦し紛れに昨日の夜の魔法の練習のことを話したのである。
説明の過程で、壁のことも謝ったのだが、「ん。」という一言で流れた。全く問題なかったらしい。
先日仕込んだ切り株たちがどうなっているか見に行く途中で、更に突っ込んで魔法について質問した。
具体的には、ルナは魔法を使うときにどういったイメージを持っているのか聞いたのだ。
そうしたら、この不可思議な儀式が始まったわけだ。
しかし、癒される。きっと幼稚園のお遊戯を見ている父親はこんな気分なんだろうなぁ…などと失礼なことを考えて微笑ましく見ていると、ルナに「むー」という顔で睨まれた。
さしずめ、「人が一生懸命説明しているのに、何ニヤニヤしてるんじゃー!」って感じだろうか?
流石に一生懸命やってくれているルナに失礼なので、言い訳をしておく。
「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと一生懸命な姿が可愛らしかったからさ。微笑ましくって。」
ルナの頭を軽く撫でながら、言い訳をする。
しかし、さらっとこういう言葉が出る俺は駄目な男のような気がする。
それが半分以上本心だからより性質が悪い。
そういう機微に疎いルナは、「んー?」と首を傾げつつ、
「可愛い?それ…何?」と聞いてきた。
さて、また説明に困る用語が出てきたな…。
俺は頭の中で質問の答えを模索する。
「うーん。人によってそう感じるかはマチマチなんだけど…見ていて心が温かくなったり、思わず抱きしめたくなっちゃうようなものかな?守ってあげたいーっていう気持ちになるのもそうかも?犬とか猫とか鳥みたいな小動物を見るとそう感じる人は多いと思うよ?」
ちょっと考えながらそう答えると、ルナは少し考えた後、頷いて
「ん。鳥…可愛い。」
と言った。俺もそれには同意した。
「うん、鳥は可愛いね。俺も鳥は大好きだ。」
そうしたら、ルナは「んー」と考え込んで、
「ルナ…可愛い?」
と、コテンと首を傾げて聞いてきた。
おう…。これ程に可愛い生物はそうそう見かけられませんよ。
俺に理性がなければ、問答無用で抱きついてゴロゴロしてます。はい。
と言うわけにはいかないので…。
「うん。とっても可愛いと思うよ?」
と、笑顔で無難に返す。
俺はルナを甘く見ていた。ここからがルナさんの真骨頂だった。
ルナは両腕を広げて俺に向ける。まるで全てを受け止めるかのように。
そして一言。
「抱く?…いいよ?」
ゴホッ…思わず良くわからない咳が出た。
手を口元にやり、思わず後ろを向いて視線を逸らす。
その発想は無かった…。ルナさんや、それは反則だろう…。
一歩間違えれば、大きいお友達が、「ハイ!喜んで!」って突進してくる威力だよ。
俺は塾講師だから、立場上ロリコンだとは認められないけど…
なんかもう一瞬世界を敵に回しても良いんじゃないの?って思うほどの破壊力だった。
脳内裁判では満場一致で有罪札があがっているんだが、もうどうでもいい気持ちになるね!
ふう、まぁ、落ち着け。俺は紳士だ。変態だろうが紳士…そして講師。
そう言い聞かせつつ、深呼吸を繰り返す。
更に、妹に「この変態!!」と罵倒され殴られる姿を想像する。両親が「本当はとてもいい子なんです…。」と記者に囲まれてフラッシュを受けながら涙を流す姿を想像する。
よし…落ち着いた…。なんか色々こそげ落ちたって言うくらい。
賢者モードに近い状態まで落ちた俺は、ルナに向き合う。
ルナはまだ手を広げたまま、「んー?」と首を傾げつつ待っていた。
「よし、んじゃお言葉に甘えちゃおう。」
そう言って、俺はルナを抱き上げる。
俗に言う、タカイタカイってやつだ。
ルナは、「おー!」と、興奮しながらはしゃいでいた。
しっかし、軽いなー。見たところ6~7歳ぐらいだと思うけど、重さってこんなものだっけ?
そして、そのままぐるぐると3回転ほどして、ルナをおろした。
ルナは、タカイタカイが余程気に入ったのか、その後2回ほどアンコールした。
流石に、4回目は丁重にお断りさせて頂いたが、また良い子にしてたらしてあげるからと、濁しておくと「むふー!」と嬉しそうにしていた。またその内やってあげよう。
ルナは、その後もしきりに
「可愛い…好き…」
と呟いていたので、俺もそれに軽く
「うん。可愛いことは良いことだね。俺の故郷では『可愛いは正義!』って言う言葉がある位だからね。」
と、同意しておいた。すると、
「正義?…何?」
再度の質問。ルナは正義と言う言葉の意味がわからなかったようだ。
「うーん…。ちょっと難しい言葉だね。正しい事って言う意味なんだけど、人によって答えが変わる事もあるからね。皆に喜ばれる良い事…で今はいいと思うよ?」
とりあえず俺はありきたりの答えにとどめて置く。
「可愛い…正義…」
ルナはまたも、そう呟くと、テクテクと歩き出した。
後に俺は、この発言を激しく後悔することとなるがそれはまた後の話だ。
切り株の広場についたので、俺は切り株の様子を一通り見て回った。
調べてみるとやはり挿し木をした方が伸びは速い気がする。ヒールをかけているお蔭なのか、もうしっかりと癒合している。この効果はかなり大きいと思う。魔法を併用すれば、普通のやり方よりも効率よく農業をすることも出来そうだ。
先ほどはどたばたして、本題からずれてしまったので、俺はもう一度魔法について聞いてみた。
要するに、自分の中で生まれた流れを上から抜けるようにして循環させているようだ。
今ルナは、切り株にヒールをかけて回っている。
そんなルナを見守りつつ、俺は先ほどのルナの動きを参考に流れを制御する練習をしていた。
丹田付近で沈殿しているものを意識して動かす。
ゆっくりと回転させつつ、その回転が徐々に楕円形になるように意識をしてみた。
うーん…横になったり、斜めになったりと動き回ってしまって安定しない。
そこで俺は、もう一点支点になる場所を意識する。丹田部分と胸の中心辺りに点があるように意識して、その間に紐を掛ける感じで経路をイメージしてみた。
最初はうまくいかなかったが、しばらくチャレンジしていた所、徐々にイメージした経路に水路ができたかのように力が循環し始めた。
よし!なるほど。こんな感じで経路を外に出せばいいんだな。
ふと気がつくと、いつの間に戻ってきたのだろうか?
ルナがそんな俺の様子を寝そべりながら頬杖をついてみていた。
俺と目が合うと、ルナは…
「ツバサ…魔力、綺麗!」
と、言いながら微笑んでいた。
そう賞賛してくれたルナの笑顔は、とても澄んだものの様に、俺には感じられたのだった。
具体的に言うと、胸の前で何かを握り、それを頭の上へそのまま持ち上げて、パーッとばら撒く。
そんな動作を一生懸命繰り返している。雨乞いですか…というとても形容しがたい動き。
擬音を使えば、「んー!ばーー!!」って感じだろうか…。
あ、あれだ。なんか見たことあると思ったら…
かの有名な超重量級の自称妖精と、仲良くなった姉妹たちが傘を持って木を生やす時にやっていたあの動きに似ているんだわ。ああ、なんかもやもやした物が取れてすっきりした。
などと、全く関係ない事を考えている俺を尻目に、一生懸命その動きを繰り返すルナ。
結局、あの朝の騒動は何が原因なのか良くわからなかった。
そのままなし崩し的に洗濯されそうになった俺は、苦し紛れに昨日の夜の魔法の練習のことを話したのである。
説明の過程で、壁のことも謝ったのだが、「ん。」という一言で流れた。全く問題なかったらしい。
先日仕込んだ切り株たちがどうなっているか見に行く途中で、更に突っ込んで魔法について質問した。
具体的には、ルナは魔法を使うときにどういったイメージを持っているのか聞いたのだ。
そうしたら、この不可思議な儀式が始まったわけだ。
しかし、癒される。きっと幼稚園のお遊戯を見ている父親はこんな気分なんだろうなぁ…などと失礼なことを考えて微笑ましく見ていると、ルナに「むー」という顔で睨まれた。
さしずめ、「人が一生懸命説明しているのに、何ニヤニヤしてるんじゃー!」って感じだろうか?
流石に一生懸命やってくれているルナに失礼なので、言い訳をしておく。
「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと一生懸命な姿が可愛らしかったからさ。微笑ましくって。」
ルナの頭を軽く撫でながら、言い訳をする。
しかし、さらっとこういう言葉が出る俺は駄目な男のような気がする。
それが半分以上本心だからより性質が悪い。
そういう機微に疎いルナは、「んー?」と首を傾げつつ、
「可愛い?それ…何?」と聞いてきた。
さて、また説明に困る用語が出てきたな…。
俺は頭の中で質問の答えを模索する。
「うーん。人によってそう感じるかはマチマチなんだけど…見ていて心が温かくなったり、思わず抱きしめたくなっちゃうようなものかな?守ってあげたいーっていう気持ちになるのもそうかも?犬とか猫とか鳥みたいな小動物を見るとそう感じる人は多いと思うよ?」
ちょっと考えながらそう答えると、ルナは少し考えた後、頷いて
「ん。鳥…可愛い。」
と言った。俺もそれには同意した。
「うん、鳥は可愛いね。俺も鳥は大好きだ。」
そうしたら、ルナは「んー」と考え込んで、
「ルナ…可愛い?」
と、コテンと首を傾げて聞いてきた。
おう…。これ程に可愛い生物はそうそう見かけられませんよ。
俺に理性がなければ、問答無用で抱きついてゴロゴロしてます。はい。
と言うわけにはいかないので…。
「うん。とっても可愛いと思うよ?」
と、笑顔で無難に返す。
俺はルナを甘く見ていた。ここからがルナさんの真骨頂だった。
ルナは両腕を広げて俺に向ける。まるで全てを受け止めるかのように。
そして一言。
「抱く?…いいよ?」
ゴホッ…思わず良くわからない咳が出た。
手を口元にやり、思わず後ろを向いて視線を逸らす。
その発想は無かった…。ルナさんや、それは反則だろう…。
一歩間違えれば、大きいお友達が、「ハイ!喜んで!」って突進してくる威力だよ。
俺は塾講師だから、立場上ロリコンだとは認められないけど…
なんかもう一瞬世界を敵に回しても良いんじゃないの?って思うほどの破壊力だった。
脳内裁判では満場一致で有罪札があがっているんだが、もうどうでもいい気持ちになるね!
ふう、まぁ、落ち着け。俺は紳士だ。変態だろうが紳士…そして講師。
そう言い聞かせつつ、深呼吸を繰り返す。
更に、妹に「この変態!!」と罵倒され殴られる姿を想像する。両親が「本当はとてもいい子なんです…。」と記者に囲まれてフラッシュを受けながら涙を流す姿を想像する。
よし…落ち着いた…。なんか色々こそげ落ちたって言うくらい。
賢者モードに近い状態まで落ちた俺は、ルナに向き合う。
ルナはまだ手を広げたまま、「んー?」と首を傾げつつ待っていた。
「よし、んじゃお言葉に甘えちゃおう。」
そう言って、俺はルナを抱き上げる。
俗に言う、タカイタカイってやつだ。
ルナは、「おー!」と、興奮しながらはしゃいでいた。
しっかし、軽いなー。見たところ6~7歳ぐらいだと思うけど、重さってこんなものだっけ?
そして、そのままぐるぐると3回転ほどして、ルナをおろした。
ルナは、タカイタカイが余程気に入ったのか、その後2回ほどアンコールした。
流石に、4回目は丁重にお断りさせて頂いたが、また良い子にしてたらしてあげるからと、濁しておくと「むふー!」と嬉しそうにしていた。またその内やってあげよう。
ルナは、その後もしきりに
「可愛い…好き…」
と呟いていたので、俺もそれに軽く
「うん。可愛いことは良いことだね。俺の故郷では『可愛いは正義!』って言う言葉がある位だからね。」
と、同意しておいた。すると、
「正義?…何?」
再度の質問。ルナは正義と言う言葉の意味がわからなかったようだ。
「うーん…。ちょっと難しい言葉だね。正しい事って言う意味なんだけど、人によって答えが変わる事もあるからね。皆に喜ばれる良い事…で今はいいと思うよ?」
とりあえず俺はありきたりの答えにとどめて置く。
「可愛い…正義…」
ルナはまたも、そう呟くと、テクテクと歩き出した。
後に俺は、この発言を激しく後悔することとなるがそれはまた後の話だ。
切り株の広場についたので、俺は切り株の様子を一通り見て回った。
調べてみるとやはり挿し木をした方が伸びは速い気がする。ヒールをかけているお蔭なのか、もうしっかりと癒合している。この効果はかなり大きいと思う。魔法を併用すれば、普通のやり方よりも効率よく農業をすることも出来そうだ。
先ほどはどたばたして、本題からずれてしまったので、俺はもう一度魔法について聞いてみた。
要するに、自分の中で生まれた流れを上から抜けるようにして循環させているようだ。
今ルナは、切り株にヒールをかけて回っている。
そんなルナを見守りつつ、俺は先ほどのルナの動きを参考に流れを制御する練習をしていた。
丹田付近で沈殿しているものを意識して動かす。
ゆっくりと回転させつつ、その回転が徐々に楕円形になるように意識をしてみた。
うーん…横になったり、斜めになったりと動き回ってしまって安定しない。
そこで俺は、もう一点支点になる場所を意識する。丹田部分と胸の中心辺りに点があるように意識して、その間に紐を掛ける感じで経路をイメージしてみた。
最初はうまくいかなかったが、しばらくチャレンジしていた所、徐々にイメージした経路に水路ができたかのように力が循環し始めた。
よし!なるほど。こんな感じで経路を外に出せばいいんだな。
ふと気がつくと、いつの間に戻ってきたのだろうか?
ルナがそんな俺の様子を寝そべりながら頬杖をついてみていた。
俺と目が合うと、ルナは…
「ツバサ…魔力、綺麗!」
と、言いながら微笑んでいた。
そう賞賛してくれたルナの笑顔は、とても澄んだものの様に、俺には感じられたのだった。
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