比翼の鳥
第14話:感情
俺は、ルナの素直な賛辞に戸惑いつつも、これが魔力なのだと理解する。
なるほど、流れているように見えたのは魔力の流れで、この媒体自体が魔力か?
それとも、流れている状態になって初めて魔力と呼べるものになるのかな?だとすれば、停滞状態の物はさしずめ魔素と言ったところかな?
つまり俺は、魔素を動かして、魔力にし、何らかの方法で魔法の形まで持って行く第一歩をいつの間にかしていたことになる。
まぁ、暴発した魔法もどきを発現できたのは、この練習のお蔭だったわけだから、関連があるとは思っていたのだが…
魔法を使っている当人からの言葉だと説得力が違う。
そう言えば、ルナは俺の魔力が綺麗だと褒めてくれたが…
考えてみれば、俺は自分の魔力を感じる事が出来ていない。
いや、より正確に言えば、ルナの魔力や大気を取り巻く流れ(これも魔力なんだろうが…)の様には自分の魔力を認識できないのだ。
何となく、感覚で、『あ、ここ通ってる』とか分かるんだが、ルナの魔力の様にはっきりとした存在として認識は出来ない。光り方とか、色とかそういうのは全く分からないのだ。
まぁ、認識出来たら出来たで、他の魔力感知の妨げになりそうな気はするが、ここら辺はどうなんだろうか?
折角、目の前にスペシャリストがいる訳だから、ちょっと聞いてみようと思い立つ。
「ルナ聞いていいかな?ルナは俺の魔力…とおぼしき物が見えてると思うんだけど…ルナ自身の魔力は見えているのかい?」
ルナは俺がそう問うと、「んー」と首を傾げて、フルフルと首を振る。
そうか…主観では魔力は感じる事が出来ないのか…それとも、とても難しいのか?
結構これは問題だな。自分の魔力が人にどう映っているか分からないっていうのは不安だ。
ルナは綺麗だと言ってくれたが、万人から見て、自分が禍々しい魔力を放ってたりしたら、俺は立ち直れないかもしれん…。
さわやかな笑顔で近付いたつもりの俺を見て、恐怖する住民の図とか見たくないぞ!
「俺の魔力が綺麗って言ってくれて嬉しいんだけど、ルナには俺の魔力はどういう風に見えてるんだい?」
ルナは、「むー」と少し眉を寄せて考え込む。
もしかして…お世辞だったとかだったら、俺は素でへこむぞ。
それから暫く考え込んだルナは、
「黒…ざばー!キラキラ!キラキラ!」
うん、俺は今…蛮族と対話をしている気分になったよ。擬音だらけじゃないの!
しかし、黒…黒いのか。なんか俺の心は真っ黒だ!って言われてる気がして少し泣きたくなった。
黒いのに綺麗っていうのもよく分からんが、今はルナの感性を素直に信じよう。精神衛生上、その方が良いと思った。
「そ、そうか。ちなみに、俺から見たルナの魔力は、月の様に静かに輝いていて神々しいよ。俺はとても綺麗だと思うし、好きだな。」
俺はちょっと落ち込んだ事を悟られない様に、少し大げさにルナの魔力について感想を述べる。
ルナはその言葉を聞いて一瞬、何故か固まった。しかし、すぐに少し考えると、
「ルナ、綺麗?」
クリクリとした目をキラキラと輝かせながら聞いて来た。
こういう姿を見ると、ルナも女の子なんだなーと、妙に感慨深くなってしまう。
綺麗とか、美しいとか、可愛いって言葉に女性は反応するが、男性はそういう言葉を自分に言われてもあまり心に響かない。
やはり、恰好よく、強く、勇ましいという言葉を求める人が多いのだ。
どちらも自分を良く見て欲しいという気持ちの表れなのに、その存在の在り方で、こうも違う形になるとは…何とも不思議なことだと、改めて俺は思った。
そんな全く関係ない事を考えつつ、
「うんうん、綺麗だよ。初めて見た時、余りの綺麗さに見とれちゃった位ね。」
笑顔でそう答えると、ルナは「にふー!」と何とも形容しがたい笑みを浮かべた。
その後、「んふー!むふー!」と、よく分からん奇声を上げつつ、妙に興奮した様子で少し赤くなったほっぺに両手を添えて、
イヤンイヤンという擬音が尽きそうなほど、もじもじしていた。
しまったやり過ぎた…完全にお壊れになられた…。
つか、イヤンイヤンとかああいう動きを、生きている間に生で見る事になろうとは…
俺があっけにとられ見ていると、更に劇的な変化が現れた。ルナの魔力だ。
御壊れあそばれた瞬間から、ルナを中心に魔力があふれ始めたのが感じられたのだ。別に意識して感知した訳でも無いのに、分かってしまうほど濃密な魔力だ。しかも、その魔力がまた何とも言えず、幸せを感じさせるものなのだ。魔力は人に感情をも伝える物なのか…と、驚きをもってその事実を受け止める。
と、同時にこんなにまで幸せな気分になってくれて良かったと思う、親馬鹿的な自分もいる。
更に、お子様かと思えば、やはりこの年でも変なところで女の子なのだな…と、少し冷静な目で観察している自分もいたりと、自分自身の思考ながらまとまりが無かった。
しかし…今はまだルナと二人きりだから良いものの、いずれここを立つ時がきたら、この現象は非常に問題になる可能性がある。
そもそも、ここまで魔力だけで人に影響を与える事が出来るとは想定外だった。
もしかしたら、俺も気分が高ぶればこのような状態になるかもしれないのだ。
これは何か対策を練る必要がありそうだ。
魔力を隠ぺいする技術。これが必要だとこの時になって初めて考えた。
俺も外から魔力を見られてるって言うのは、よくよく考えてみると結構恐い事だ。
それに、わざわざ人様に見えるように魔力を振りまいて移動するっていうのも気分的になんかやだな。
なんだか、さも、『俺ってすごいだろ!』と自慢ばかりしている子供の様ではないか…。
更に、これが一番大事だが、万が一隠れようとしたときに隠れられないじゃないか。
これはなかなかに深刻な問題だと俺は気が付く。
時間にしたら、ほんの数十秒だったのだが、俺が思考の海に潜っている間に、ルナの周りは更に凄い事になっていた。
「ちょ!?ルナさん!?それなんすか!?」
思わず俺は、大声を上げて問い掛けていた。
ルナは蛍の様な光る球に群がられていたのである。しかも、色とりどりの光である。光の柱の中に立つ少女という幻想的な光景ではあるが、さすがに声をかけない訳にはいかなかった。
ルナは、相変わらずイヤンイヤンと腰をくねらせていたようだったが、俺が声をかけ、周りの様子がとんでもない事になっていることに気が付くと、ぽけーっと光る球を見上げていた。
つか、気付かなかったのか…どんだけトリップしてるんだよ。ルナさんや。
俺も、色とりどりに、ルナの周りを乱舞する光る球を見ていた。そのどれもが淡く発光していて、なんだか嬉しそうにルナの周りを飛び交っているように見えた。少なくともその動きや伝わってくる印象に、悪意や害意は全く見られないので俺はホッとした。
良く観察してみると、色は4色だった。赤、黄色、青、緑。それぞれの色に対して数はまちまちであった。一番多いのは青と緑だった。
しかし、数は…わからん…。少なくとも、ルナの姿が軽く覆い隠される程度の多さであるとは言っておく。
暫くの間、ルナは突然開始された白昼堂々の擬似エレクトリックパレードに心を奪われていた。
何分経っただろうか?ルナは、俺の方に向き光る球達を指さすと、
「ツバサ。綺麗…」
と、うっとりした顔で微笑んでいた。
光の中に立つ笑顔の少女を見て、『ルナも負けてないと思うけどね。』と思ったが…
またトリップされても困るので声には出さなかったのは内緒である。
なるほど、流れているように見えたのは魔力の流れで、この媒体自体が魔力か?
それとも、流れている状態になって初めて魔力と呼べるものになるのかな?だとすれば、停滞状態の物はさしずめ魔素と言ったところかな?
つまり俺は、魔素を動かして、魔力にし、何らかの方法で魔法の形まで持って行く第一歩をいつの間にかしていたことになる。
まぁ、暴発した魔法もどきを発現できたのは、この練習のお蔭だったわけだから、関連があるとは思っていたのだが…
魔法を使っている当人からの言葉だと説得力が違う。
そう言えば、ルナは俺の魔力が綺麗だと褒めてくれたが…
考えてみれば、俺は自分の魔力を感じる事が出来ていない。
いや、より正確に言えば、ルナの魔力や大気を取り巻く流れ(これも魔力なんだろうが…)の様には自分の魔力を認識できないのだ。
何となく、感覚で、『あ、ここ通ってる』とか分かるんだが、ルナの魔力の様にはっきりとした存在として認識は出来ない。光り方とか、色とかそういうのは全く分からないのだ。
まぁ、認識出来たら出来たで、他の魔力感知の妨げになりそうな気はするが、ここら辺はどうなんだろうか?
折角、目の前にスペシャリストがいる訳だから、ちょっと聞いてみようと思い立つ。
「ルナ聞いていいかな?ルナは俺の魔力…とおぼしき物が見えてると思うんだけど…ルナ自身の魔力は見えているのかい?」
ルナは俺がそう問うと、「んー」と首を傾げて、フルフルと首を振る。
そうか…主観では魔力は感じる事が出来ないのか…それとも、とても難しいのか?
結構これは問題だな。自分の魔力が人にどう映っているか分からないっていうのは不安だ。
ルナは綺麗だと言ってくれたが、万人から見て、自分が禍々しい魔力を放ってたりしたら、俺は立ち直れないかもしれん…。
さわやかな笑顔で近付いたつもりの俺を見て、恐怖する住民の図とか見たくないぞ!
「俺の魔力が綺麗って言ってくれて嬉しいんだけど、ルナには俺の魔力はどういう風に見えてるんだい?」
ルナは、「むー」と少し眉を寄せて考え込む。
もしかして…お世辞だったとかだったら、俺は素でへこむぞ。
それから暫く考え込んだルナは、
「黒…ざばー!キラキラ!キラキラ!」
うん、俺は今…蛮族と対話をしている気分になったよ。擬音だらけじゃないの!
しかし、黒…黒いのか。なんか俺の心は真っ黒だ!って言われてる気がして少し泣きたくなった。
黒いのに綺麗っていうのもよく分からんが、今はルナの感性を素直に信じよう。精神衛生上、その方が良いと思った。
「そ、そうか。ちなみに、俺から見たルナの魔力は、月の様に静かに輝いていて神々しいよ。俺はとても綺麗だと思うし、好きだな。」
俺はちょっと落ち込んだ事を悟られない様に、少し大げさにルナの魔力について感想を述べる。
ルナはその言葉を聞いて一瞬、何故か固まった。しかし、すぐに少し考えると、
「ルナ、綺麗?」
クリクリとした目をキラキラと輝かせながら聞いて来た。
こういう姿を見ると、ルナも女の子なんだなーと、妙に感慨深くなってしまう。
綺麗とか、美しいとか、可愛いって言葉に女性は反応するが、男性はそういう言葉を自分に言われてもあまり心に響かない。
やはり、恰好よく、強く、勇ましいという言葉を求める人が多いのだ。
どちらも自分を良く見て欲しいという気持ちの表れなのに、その存在の在り方で、こうも違う形になるとは…何とも不思議なことだと、改めて俺は思った。
そんな全く関係ない事を考えつつ、
「うんうん、綺麗だよ。初めて見た時、余りの綺麗さに見とれちゃった位ね。」
笑顔でそう答えると、ルナは「にふー!」と何とも形容しがたい笑みを浮かべた。
その後、「んふー!むふー!」と、よく分からん奇声を上げつつ、妙に興奮した様子で少し赤くなったほっぺに両手を添えて、
イヤンイヤンという擬音が尽きそうなほど、もじもじしていた。
しまったやり過ぎた…完全にお壊れになられた…。
つか、イヤンイヤンとかああいう動きを、生きている間に生で見る事になろうとは…
俺があっけにとられ見ていると、更に劇的な変化が現れた。ルナの魔力だ。
御壊れあそばれた瞬間から、ルナを中心に魔力があふれ始めたのが感じられたのだ。別に意識して感知した訳でも無いのに、分かってしまうほど濃密な魔力だ。しかも、その魔力がまた何とも言えず、幸せを感じさせるものなのだ。魔力は人に感情をも伝える物なのか…と、驚きをもってその事実を受け止める。
と、同時にこんなにまで幸せな気分になってくれて良かったと思う、親馬鹿的な自分もいる。
更に、お子様かと思えば、やはりこの年でも変なところで女の子なのだな…と、少し冷静な目で観察している自分もいたりと、自分自身の思考ながらまとまりが無かった。
しかし…今はまだルナと二人きりだから良いものの、いずれここを立つ時がきたら、この現象は非常に問題になる可能性がある。
そもそも、ここまで魔力だけで人に影響を与える事が出来るとは想定外だった。
もしかしたら、俺も気分が高ぶればこのような状態になるかもしれないのだ。
これは何か対策を練る必要がありそうだ。
魔力を隠ぺいする技術。これが必要だとこの時になって初めて考えた。
俺も外から魔力を見られてるって言うのは、よくよく考えてみると結構恐い事だ。
それに、わざわざ人様に見えるように魔力を振りまいて移動するっていうのも気分的になんかやだな。
なんだか、さも、『俺ってすごいだろ!』と自慢ばかりしている子供の様ではないか…。
更に、これが一番大事だが、万が一隠れようとしたときに隠れられないじゃないか。
これはなかなかに深刻な問題だと俺は気が付く。
時間にしたら、ほんの数十秒だったのだが、俺が思考の海に潜っている間に、ルナの周りは更に凄い事になっていた。
「ちょ!?ルナさん!?それなんすか!?」
思わず俺は、大声を上げて問い掛けていた。
ルナは蛍の様な光る球に群がられていたのである。しかも、色とりどりの光である。光の柱の中に立つ少女という幻想的な光景ではあるが、さすがに声をかけない訳にはいかなかった。
ルナは、相変わらずイヤンイヤンと腰をくねらせていたようだったが、俺が声をかけ、周りの様子がとんでもない事になっていることに気が付くと、ぽけーっと光る球を見上げていた。
つか、気付かなかったのか…どんだけトリップしてるんだよ。ルナさんや。
俺も、色とりどりに、ルナの周りを乱舞する光る球を見ていた。そのどれもが淡く発光していて、なんだか嬉しそうにルナの周りを飛び交っているように見えた。少なくともその動きや伝わってくる印象に、悪意や害意は全く見られないので俺はホッとした。
良く観察してみると、色は4色だった。赤、黄色、青、緑。それぞれの色に対して数はまちまちであった。一番多いのは青と緑だった。
しかし、数は…わからん…。少なくとも、ルナの姿が軽く覆い隠される程度の多さであるとは言っておく。
暫くの間、ルナは突然開始された白昼堂々の擬似エレクトリックパレードに心を奪われていた。
何分経っただろうか?ルナは、俺の方に向き光る球達を指さすと、
「ツバサ。綺麗…」
と、うっとりした顔で微笑んでいた。
光の中に立つ笑顔の少女を見て、『ルナも負けてないと思うけどね。』と思ったが…
またトリップされても困るので声には出さなかったのは内緒である。
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