比翼の鳥
第28話:飛翔
魔方陣技術を駆使した結果、俺は非常に複雑な制御を全て魔方陣に任せることに成功した。
その結果、飛行魔法は完成した。思考をそのままダイレクトに魔法に伝達する経路を確立しているため、余計な動作は要らず、ほぼ、俺の思い通りに空を飛行できるはずだ。姿勢制御はオート。自動航行モード付き。いざとなったら音速も越える航行速度を実現可能って何この便利さ。
なんか「ちょっと世界一周してくるわー」とか言えちゃいそうなのが凄い。まぁ、そんな速度ずっと出したら魔力が枯渇して音速で墜落しそうだが…。
とりあえず、これで近くの村にひとっ跳びする事は可能そうだ。実証実験も兼ねて行きたいところだが、あんまり急いでも仕方がないだろう。
実験も兼ねながら、ルナに報告しにいくかなー。ルナはどこかな?っと、今日は果樹園(リンゴ(仮)の木の広場)で何か魔力展開してるな…。妙に濃密な魔力を出しているようだ。どうやら、微精霊たちが顕現しているらしい。何をやっているんだろうか?
そんな疑問を抱きつつ、俺は作ったばかりの魔法陣を起動させる。
イメージ通り、俺の足元に魔法陣が展開する。円盤状の魔法陣の上に、小型の幾つもの緻密な魔法陣が展開し、重なり、融合し、その都度新たなイメージ作成と魔力制御を行っていく。その間わずか1秒。
「うん、防護結界の展開確認。推力術式…大丈夫そうだな。魔力消費は…全く問題なしと。思った以上にエコだなこれ。」
俺は空気抵抗やその他もろもろの脅威から身を守る結界に包まれ、地上数センチの所に浮かんでいる。その間も、各術式をチェックしていく。特に問題はなさそうだった。
「よし、ではリフトオフってね。」
俺がそう意識すると、俺は音も無く上昇し始める。
うん、制御系も感度良好だね。実は声に出さなくていいんだけど、なんとなく言ってみたかったのでそうした。
そうして、初めて上がった森の上は、正に大絶景だった。
ひたすら緑の絨毯。その所々に点在する様々なスポット。それは、良く知っている花畑であったり、湖であったり、果樹園(リンゴ(仮)の木の広場)であったり…その中で特に郡を抜いてぶっちぎりで目立っているのが、大樹だ。
おいおい、あれ何メートルあるんだよ。完全に木じゃなくて要塞なんだが…。
眼下に見える木々が子供…いや、蟻の様だ。それくらいスケールが違う。ビルと蟻ぐらいに。何この縮尺。完全に雲突き破っているじゃないの。成層圏まで到達していてもおかしくない大きさなんだが…実は木に似せた起動エレベーターとか言われても、違和感ないわー。流石異世界、スケールが違うね!!
そんな大樹をまるで守るように、3方にはこれまた長大な山脈が切り立っていた。まるで壁だ。何かを閉じ込めている…あるいは守っているかのような堅牢さを見せている。
飛行魔術を得た今の俺なら、これを超えて渡る事も可能だろうが、正直面倒そうなのでやりたくない。飛行魔法の結界の中とはいえ、何が起こるかわからないのだ。
山脈越えようとして何らかの原因で結界が消えでもしたらさっくり死ねる。
それに…なんかいそうな感じがプンプンするしね…。こういうのは触らない方が良い。
そして、更に高度を上げ、山脈以外のもう一方。延々と続く森の更にその先を見据える。距離にして、恐らく60~80km位?今の高度が多分300~400m位だろうから、限界点はその程度だろう。延々と続く、森のまさに端に村のようなものを辛うじて強化されている俺の目が捕らえた。規模はそれ程大きくなさそうだが、確かに人の手が入った一帯だ。
感知魔法でその存在を知っていたとはいえ、久しく人間らしい文明社会を目にしていない俺は、その遥か彼方に見える、人の営みの痕跡に感動を覚える。やはり、ルナがいるとはいえ、なんだかんだ言っても人恋しい。
とりあえず、ルナとも話し合ったら、出向いてみる事にしよう。
さて…実は先程から、周りがかなり五月蠅い。
と言うのも、なんかトカゲのような鳥のような生き物が俺の周りをしきりに威嚇しながら飛んでいるのである。
鳴き声は「キィァーー!」だか、「キェァーーー!」だか、そんな感じ。これ、多分ワイバーンだよね。多分。
まぁ、面倒だから放置しておいたのだが、流石に邪魔だなぁ。
焼き払ってしまおうか?
攻撃される前に、後顧の憂いを断つ。必定だろ?
ふと、そんな暗い影を灯した思いが、暗い笑みと共に湧きあがる。
そんな俺の考えに一瞬支配された俺の肌がゾクリと泡立った。
ふと胸を見ると、我が子達が心配そうに明滅を繰り返していた。
なんだ?俺は今、何を考えた?
彼らはまだ何もしていない。自分の生活圏内に入って来た侵入者に不安なだけだ。
それはある意味で、生物の本能であり、仕方のない事だ。
ちょっと耳障りなのは仕方ないにせよ、それだけで、簡単に彼らの命を消し飛ばしていいものだろうか?
俺に危険はほぼ無い。彼らが全力で俺を攻撃してきたとしても、それを物ともせず防ぎ切り、かつ無力化する手段をそれこそ無数に持っている。なのに、俺は戯れに彼らを消し去るのか?
…俺は驕っている。傲慢になっているのかもしれない。
そんな事実に気付いた。気付けて良かった。
魔法陣を発見したおかげで俺の力は飛躍的に向上した。強大な力を短期間で手に入れた俺の心に、何か得体のしれない優越感が巻き起こっているのも自覚していた。
しかし、これがこうもふとした瞬間、湧きあがって来るとは…。ちょっと自分自身を過大評価していたことと、現実を過小評価しているのかもしれない。
俺は、ふと、ディーネちゃんを思い出した。こういう心の闇を見越して、ディーネちゃんは俺にこの子達を預けたのかもしれない。改めて、ディーネちゃんの先見の明を思い知ると共に、その心に感謝する
そして、我が子達に話しかける。
「此花、咲耶、心配かけちゃってごめんね。ちょっと俺、慢心してたよ。もう少し気を付けるけど、またやらかしそうだったら教えてくれな。」
そんな様子を見て、安心したのか、我が子達は柔らかくも清らかな光を発して、俺に応えたのだった。
暫くの間、空中散歩を、相変わらず小うるさいワイバーンを引き連れつつもひとしきり楽しむと、俺はルナのいる場所へと飛翔した。
ルナは、果樹園で草の上に横座りをしながら目を閉じ、歌を口ずさんでいた。
歌自体は、俺が最近教えた童謡だったが、その歌声は俺の心を文字通り虜にするほどに、情緒にあふれ、心が揺さぶられ、安心を覚える物だった。そして、その姿は老若男女問わず、目が離せないであろう程の魅力にあふれ、さながら女神が降臨したかのような神聖な雰囲気を纏っていた。
周りには歌に込められた魔力を感じたのだろう。微精霊たちが静かに揺蕩い、その幻想的な風景を更に現実とは遠く離れた情景へと昇華させていた。
俺は、空中に漂いながらまた一つ綺麗に成長したルナを茫然と見つめ、そんな綺麗なルナの傍で、彼女の姿や成長をこうやって眺める事が出来る事を喜びつつ、これで村に行ったらどうなるか…と若干の不安を覚えた。
気持ちよさそうに歌を口ずさんでいたルナだったが、俺の気配を感じたのだろう。ふと、顔を上げると、俺が宙に浮きながらルナの様子を伺っていることに気が付き、驚きの表情を浮かべ、その後少し恥ずかしそうな顔をして、俯いてしまった。
うん、だから、その表情は反則ですってば…。あんまりにも可愛いものを見ると人って一瞬、真っ白になるんだぜ?
俺は若干意識を飛ばしつつも、今まで鍛えて来たルナ萌え耐性を存分に発揮すると、心を落ち着け、ゆっくりとルナの元へ降下した。
そんな俺の様子を、ルナは恥ずかしさの残る顔で上目づかいに見つめていた。
さながら、「うー!」とでも言いたげに、少しやり場のない恥ずかしさを表しているその顔を俺は苦笑しながら見つめると、
「ごめんごめん、あんまりにも綺麗な声で歌ってたから、少し聴き入ってしまったよ。」
と、努めて明るく切り出す。
その言葉で、更に、ボンとでも擬音が入りそうなほど赤面すると、「むー!!むーー!!」と少し頬を膨らませつつこちらを可愛い顔で睨む。
駄目だから、ルナさん、それ逆効果だから。もっと虐めたくなるし…。俺は心の中で、そう思いつつも、そんな純粋なルナが愛おしいとも感じていた。
そう言えば、ここにきて、ルナの成長がやっと止まったことを感じていた。
急激に伸びていた身長も、150cm前後で止まったようだ。まぁ、その分、体つきはもう女性のそれへと完全に変貌を遂げたわけで、それが俺の悩みの種となっている訳だが。
今の様に、美しい女性の面を見せる事も多くなった。あのちんまい頃のルナがちょっと懐かしくなるほど…本当に急激に変わってしまった彼女に、俺の心は翻弄されている。
もう、なんで急激に成長したのかは訳が分からないから、完全に棚上げした。きっとそのうち分かる日が来るだろう…多分。
俺がにこやかにルナを見つめながら、そんな事を考えている間に、彼女はなんとか心を落ち着けることに成功したらしく、若干赤みの残る顔をこちらに向けつつ、
「そういえば、ツバサ。飛行魔法完成したんだね!おめでとう!」
と、祝福してくれた。
「うん、お陰様でなんとかできたよ。これで、村までひとっ飛びだよ。俺は直ぐにでも確認したい事があるから明日にでも行ってみようかなと思っているけど、ルナはどうする?」
俺がそう聞くと、ルナは少し考え込むと、
「私も、ちょっと恐いけど行ってみたい。けど、もしツバサの邪魔になるんだったら、お留守番しているよ?」
と、ちょっと不安そうな、しかし、好奇心を含んだ眼を向けて、そう答える。
俺は、少し考えると、
「そうだね…。俺は一緒に行っても大丈夫だと思う。ルナと森の外を一緒に見てみたいって思いもあるし…。良かったら一緒に行こう?」
そう、ルナに手を差し伸べた。
そんな様子を見た、ルナは迷うことなく、俺の手を取り、
「うん!よろしくね!ツバサ!」
と、満面の笑みで答えた。よし、明日は初の森脱出だ!!
俺の心は、否が応にも高まって行くのを感じたのだった。
その結果、飛行魔法は完成した。思考をそのままダイレクトに魔法に伝達する経路を確立しているため、余計な動作は要らず、ほぼ、俺の思い通りに空を飛行できるはずだ。姿勢制御はオート。自動航行モード付き。いざとなったら音速も越える航行速度を実現可能って何この便利さ。
なんか「ちょっと世界一周してくるわー」とか言えちゃいそうなのが凄い。まぁ、そんな速度ずっと出したら魔力が枯渇して音速で墜落しそうだが…。
とりあえず、これで近くの村にひとっ跳びする事は可能そうだ。実証実験も兼ねて行きたいところだが、あんまり急いでも仕方がないだろう。
実験も兼ねながら、ルナに報告しにいくかなー。ルナはどこかな?っと、今日は果樹園(リンゴ(仮)の木の広場)で何か魔力展開してるな…。妙に濃密な魔力を出しているようだ。どうやら、微精霊たちが顕現しているらしい。何をやっているんだろうか?
そんな疑問を抱きつつ、俺は作ったばかりの魔法陣を起動させる。
イメージ通り、俺の足元に魔法陣が展開する。円盤状の魔法陣の上に、小型の幾つもの緻密な魔法陣が展開し、重なり、融合し、その都度新たなイメージ作成と魔力制御を行っていく。その間わずか1秒。
「うん、防護結界の展開確認。推力術式…大丈夫そうだな。魔力消費は…全く問題なしと。思った以上にエコだなこれ。」
俺は空気抵抗やその他もろもろの脅威から身を守る結界に包まれ、地上数センチの所に浮かんでいる。その間も、各術式をチェックしていく。特に問題はなさそうだった。
「よし、ではリフトオフってね。」
俺がそう意識すると、俺は音も無く上昇し始める。
うん、制御系も感度良好だね。実は声に出さなくていいんだけど、なんとなく言ってみたかったのでそうした。
そうして、初めて上がった森の上は、正に大絶景だった。
ひたすら緑の絨毯。その所々に点在する様々なスポット。それは、良く知っている花畑であったり、湖であったり、果樹園(リンゴ(仮)の木の広場)であったり…その中で特に郡を抜いてぶっちぎりで目立っているのが、大樹だ。
おいおい、あれ何メートルあるんだよ。完全に木じゃなくて要塞なんだが…。
眼下に見える木々が子供…いや、蟻の様だ。それくらいスケールが違う。ビルと蟻ぐらいに。何この縮尺。完全に雲突き破っているじゃないの。成層圏まで到達していてもおかしくない大きさなんだが…実は木に似せた起動エレベーターとか言われても、違和感ないわー。流石異世界、スケールが違うね!!
そんな大樹をまるで守るように、3方にはこれまた長大な山脈が切り立っていた。まるで壁だ。何かを閉じ込めている…あるいは守っているかのような堅牢さを見せている。
飛行魔術を得た今の俺なら、これを超えて渡る事も可能だろうが、正直面倒そうなのでやりたくない。飛行魔法の結界の中とはいえ、何が起こるかわからないのだ。
山脈越えようとして何らかの原因で結界が消えでもしたらさっくり死ねる。
それに…なんかいそうな感じがプンプンするしね…。こういうのは触らない方が良い。
そして、更に高度を上げ、山脈以外のもう一方。延々と続く森の更にその先を見据える。距離にして、恐らく60~80km位?今の高度が多分300~400m位だろうから、限界点はその程度だろう。延々と続く、森のまさに端に村のようなものを辛うじて強化されている俺の目が捕らえた。規模はそれ程大きくなさそうだが、確かに人の手が入った一帯だ。
感知魔法でその存在を知っていたとはいえ、久しく人間らしい文明社会を目にしていない俺は、その遥か彼方に見える、人の営みの痕跡に感動を覚える。やはり、ルナがいるとはいえ、なんだかんだ言っても人恋しい。
とりあえず、ルナとも話し合ったら、出向いてみる事にしよう。
さて…実は先程から、周りがかなり五月蠅い。
と言うのも、なんかトカゲのような鳥のような生き物が俺の周りをしきりに威嚇しながら飛んでいるのである。
鳴き声は「キィァーー!」だか、「キェァーーー!」だか、そんな感じ。これ、多分ワイバーンだよね。多分。
まぁ、面倒だから放置しておいたのだが、流石に邪魔だなぁ。
焼き払ってしまおうか?
攻撃される前に、後顧の憂いを断つ。必定だろ?
ふと、そんな暗い影を灯した思いが、暗い笑みと共に湧きあがる。
そんな俺の考えに一瞬支配された俺の肌がゾクリと泡立った。
ふと胸を見ると、我が子達が心配そうに明滅を繰り返していた。
なんだ?俺は今、何を考えた?
彼らはまだ何もしていない。自分の生活圏内に入って来た侵入者に不安なだけだ。
それはある意味で、生物の本能であり、仕方のない事だ。
ちょっと耳障りなのは仕方ないにせよ、それだけで、簡単に彼らの命を消し飛ばしていいものだろうか?
俺に危険はほぼ無い。彼らが全力で俺を攻撃してきたとしても、それを物ともせず防ぎ切り、かつ無力化する手段をそれこそ無数に持っている。なのに、俺は戯れに彼らを消し去るのか?
…俺は驕っている。傲慢になっているのかもしれない。
そんな事実に気付いた。気付けて良かった。
魔法陣を発見したおかげで俺の力は飛躍的に向上した。強大な力を短期間で手に入れた俺の心に、何か得体のしれない優越感が巻き起こっているのも自覚していた。
しかし、これがこうもふとした瞬間、湧きあがって来るとは…。ちょっと自分自身を過大評価していたことと、現実を過小評価しているのかもしれない。
俺は、ふと、ディーネちゃんを思い出した。こういう心の闇を見越して、ディーネちゃんは俺にこの子達を預けたのかもしれない。改めて、ディーネちゃんの先見の明を思い知ると共に、その心に感謝する
そして、我が子達に話しかける。
「此花、咲耶、心配かけちゃってごめんね。ちょっと俺、慢心してたよ。もう少し気を付けるけど、またやらかしそうだったら教えてくれな。」
そんな様子を見て、安心したのか、我が子達は柔らかくも清らかな光を発して、俺に応えたのだった。
暫くの間、空中散歩を、相変わらず小うるさいワイバーンを引き連れつつもひとしきり楽しむと、俺はルナのいる場所へと飛翔した。
ルナは、果樹園で草の上に横座りをしながら目を閉じ、歌を口ずさんでいた。
歌自体は、俺が最近教えた童謡だったが、その歌声は俺の心を文字通り虜にするほどに、情緒にあふれ、心が揺さぶられ、安心を覚える物だった。そして、その姿は老若男女問わず、目が離せないであろう程の魅力にあふれ、さながら女神が降臨したかのような神聖な雰囲気を纏っていた。
周りには歌に込められた魔力を感じたのだろう。微精霊たちが静かに揺蕩い、その幻想的な風景を更に現実とは遠く離れた情景へと昇華させていた。
俺は、空中に漂いながらまた一つ綺麗に成長したルナを茫然と見つめ、そんな綺麗なルナの傍で、彼女の姿や成長をこうやって眺める事が出来る事を喜びつつ、これで村に行ったらどうなるか…と若干の不安を覚えた。
気持ちよさそうに歌を口ずさんでいたルナだったが、俺の気配を感じたのだろう。ふと、顔を上げると、俺が宙に浮きながらルナの様子を伺っていることに気が付き、驚きの表情を浮かべ、その後少し恥ずかしそうな顔をして、俯いてしまった。
うん、だから、その表情は反則ですってば…。あんまりにも可愛いものを見ると人って一瞬、真っ白になるんだぜ?
俺は若干意識を飛ばしつつも、今まで鍛えて来たルナ萌え耐性を存分に発揮すると、心を落ち着け、ゆっくりとルナの元へ降下した。
そんな俺の様子を、ルナは恥ずかしさの残る顔で上目づかいに見つめていた。
さながら、「うー!」とでも言いたげに、少しやり場のない恥ずかしさを表しているその顔を俺は苦笑しながら見つめると、
「ごめんごめん、あんまりにも綺麗な声で歌ってたから、少し聴き入ってしまったよ。」
と、努めて明るく切り出す。
その言葉で、更に、ボンとでも擬音が入りそうなほど赤面すると、「むー!!むーー!!」と少し頬を膨らませつつこちらを可愛い顔で睨む。
駄目だから、ルナさん、それ逆効果だから。もっと虐めたくなるし…。俺は心の中で、そう思いつつも、そんな純粋なルナが愛おしいとも感じていた。
そう言えば、ここにきて、ルナの成長がやっと止まったことを感じていた。
急激に伸びていた身長も、150cm前後で止まったようだ。まぁ、その分、体つきはもう女性のそれへと完全に変貌を遂げたわけで、それが俺の悩みの種となっている訳だが。
今の様に、美しい女性の面を見せる事も多くなった。あのちんまい頃のルナがちょっと懐かしくなるほど…本当に急激に変わってしまった彼女に、俺の心は翻弄されている。
もう、なんで急激に成長したのかは訳が分からないから、完全に棚上げした。きっとそのうち分かる日が来るだろう…多分。
俺がにこやかにルナを見つめながら、そんな事を考えている間に、彼女はなんとか心を落ち着けることに成功したらしく、若干赤みの残る顔をこちらに向けつつ、
「そういえば、ツバサ。飛行魔法完成したんだね!おめでとう!」
と、祝福してくれた。
「うん、お陰様でなんとかできたよ。これで、村までひとっ飛びだよ。俺は直ぐにでも確認したい事があるから明日にでも行ってみようかなと思っているけど、ルナはどうする?」
俺がそう聞くと、ルナは少し考え込むと、
「私も、ちょっと恐いけど行ってみたい。けど、もしツバサの邪魔になるんだったら、お留守番しているよ?」
と、ちょっと不安そうな、しかし、好奇心を含んだ眼を向けて、そう答える。
俺は、少し考えると、
「そうだね…。俺は一緒に行っても大丈夫だと思う。ルナと森の外を一緒に見てみたいって思いもあるし…。良かったら一緒に行こう?」
そう、ルナに手を差し伸べた。
そんな様子を見た、ルナは迷うことなく、俺の手を取り、
「うん!よろしくね!ツバサ!」
と、満面の笑みで答えた。よし、明日は初の森脱出だ!!
俺の心は、否が応にも高まって行くのを感じたのだった。
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