比翼の鳥

風慎

第8話 新生代

 今の気持ちを端的に表すならば……『帰りたい』である。

 恐らく、傍から見れば俺の振る舞いは落ち着きを払っているように見えるだろう。
 けど……そんなの虚勢に決まってるじゃないですか……。

 ヒビキを始め、ティガ親子や我が子達が見ている前だ。
 表面上、落ち着いて話を進めているように振る舞えているだけだ。

 いや、正直に言えば、予想していた事ではあったので、思ったほどショックは大きくない。
 規模は予想に反して、かなりの物の様だが……。
 やはり、やらかしてしまった事を、まざまざと見せつけられると、覚悟うんぬん以前に腰が引ける。
 許されるのであるなら、どこでも良いから、とりあえずこの場から、叫び声を上げて、逃げ出したくなる衝動に駆られるわけだ。

 だがしかし、やらかしてしまった事は変わらない。
 俺の安直な行動のせいで、この事態は引き起こされた。
 ならば、せめて、真正面から受け止めるのが筋だろう。

「そ、そんな訳……ありません……。」
「父上が……獣たちと、そんなに……。」
「やはり、鳥の姿の方が……お好みなのですわ!」
「いや、むしろヒビキ様のお姿のように雄々しい方が?」

 真面目な顔で、何か違う方向に勘違いしていそうな此花と咲耶を見て、俺は慌ててその勘違いを訂正する。

「こら、此花、咲耶。一応、言い訳しておくが、今回、お父さんは特定の獣と子作りしたわけでは無いぞ!」

 我ながら、酷い言いぐさである。
 その気がなければいいのかと言う問題ではないのだが、言わずにはいられなかった。
 だが、可愛い子達に、俺が獣とくんずほぐれつしているような印象は持ってほしくない訳で。
 いや、っていうか、そもそもそのイメージ自体が、この世界では的外れなのか。

 ともかく、確かに、動物との間にまたもや子供が出来てしまった事は事実だ。
 だが、それを否定してしまっては、同じような状況だったヒビキの立つ瀬がない。
 ヒビキの様子を窺うが、ヒビキは「気にするな。」と言う意を視線だけで伝えて来る。

「すまん、ヒビキ。今は、クウガとアギトは紛れもなく家族だから。」

 俺はそう謝罪をしつつ、此花と咲耶に視線を戻す。

 俺の魔力で、この動物たちが生まれたのは、間違いない。
 その魔力パターンと黒い姿を見れば分かる。

 必要な量の魔力さえ渡せれば、元の世界で言う子作りの行為は必要ない事は、ヒビキの件で実証済みである。
 まぁ、宇迦之さんの時は上手くいかなかったので、その例は、動物限定であろう。
 ヒビキもそう推察していたし。魂の格がどうとかね。

「確かに、お父様には、そんな事をしている様子も暇も、無かったと思いますわ。」
「しかし……そうでは無いとすると……何故、これ程の数の動物が生まれる事になったのでしょうか?」

 此花と咲耶が、不思議そうに首を傾げる。

「恐らく……あの時の喧嘩の仲裁が原因だ。」

 俺は、思い返す様に、その時の事を話す。
 リリーとレイリさん、ヒビキ、此花と咲耶がそれぞれ激突した日。
 あの時、俺は感情的になって、リミッターを解除し、全ての魔力を放出し解き放った。

 まごう事無き、馬鹿者である。

 過去に戻れるなら、殴ってでもやめさせただろう。
 そんな事をする必要も無かったのだから。
 もっと、幾らでも良い手があったはずなのに、あの時の俺はその悪手を選んだ。
 結果、この大参事である。

「あの時、お父さんの放出した膨大な魔力は、森中に飛び散ったんだと思う。」

 ルナにブロックして貰ったのはあくまで、放出時の余波だ。
 その後の魔力の行方など、俺は気にも留めていなかった。
 空気中に拡散し、勝手に消える物だと思い込んでいたのだ。

「しかし……お父様? 幾ら、お父様の魔力が強大だとしても、拡散して薄まって……消えていくのでは無いでしょうか?」
「ええ、これだけの広さの森です。それに魔力は世界を循環しておりまする。流石に、動物たちが子を生せる程の量が集まるとは思えないのですが……。」

 確かに、普通ならそうなる筈だ。元の世界だって、そういう物だろう。
 しかし、ここは特殊な環境だという事が、頭からすっぽりと抜け落ちていたのだ。

「そうだな。お父さんもそう考えていた。まぁ、そもそも、あの時は子を生すのに、魔力が必要とか知らなかったわけだが。」

 だから、気にも留めていなかった。
 宇迦之さんとヒビキの件があって、初めて、もしかしたら? と言う疑念が湧き上がったのだ。
 そして、ここ最近……特にこの1ヶ月くらいの間に、様々な新種が発見されるようになった。
 それはどれも例外なく、をしていた。

 そこに、追い討ちをかけるように、黒い獣が出るとの噂が上がって来るようになった。
 ある獣人は、狩の最中にケガをし、獣に襲われそうになった所を、突然現れた黒い獣に助けられたと言っていたらしい。
 また、ある獣人は、今まで見たことも無いような黒い獣を仕留めようとしたが、あっという間に逃げられたと言う。
 それ以外にも、目撃例は多いのだが、いずれも人に害を与える様な報告では無かった。
 むしろ、助けられたと言う報告の方が多い位である。

 ここに至り、俺は確信したのだった。この一連の変異は、俺の魔力のせいだと。
 そう考えると後は早かった。
 子を生すほど……あるいは変異を起こすほど、魔力が大量に存在していると仮定すれば、その原因を考えるのは難しくない。

「まず、これは仮説だが、この森は密閉空間なんだと思う。結界によって、魔力が遮断されているとしたら、どうなるだろう?」

 そう。少し考えれば分かる事だった。
 ここは、ナーガラージャと言う竜神が張った結界の内部なのだ。
 そして、結界と言うからには、外部と遮断している筈である。
 それは、魔力も例外ではないのだろうか?

「なるほど……確かに、父上の言う通り、魔力が拡散しないのであれば……。」
「いえ、咲耶? そうは言っても、この森も広いですわ。このような大きな動物が生まれる程、魔力が濃密になる事などありえますでしょうか?」
「成程、確かに、此花の言う事も尤もです。植物などの低位な生物ならまだしも……あのように大きな動物が生まれる程、膨大な魔力が集まるとは……考え難いですな。」

 中々にうちの子達は、頭が良い。
 確かに、その通りだと俺も思う。
 ちなみに、捕捉だが、魔力は空気と同じように、均一になろうとする性質がある。
 その為、勝手に拡散し、広がって行ってしまうのだ。

 ただ、元の世界で、同じような事があったのを、俺は、知識として知っている。
 この世界の動物が、元の世界と同じ様に、何かを『食べる』以上、それは在り得ると思うのだ。

「そうだな。一見すると、薄く拡散しただけで、濃い魔力など生まれる要素は無いように思える。」

 一旦、此花と咲耶の意見に同意する。

「けど、お父さんの世界でも似た様な事があってね。」

 そう言って俺は言葉を区切ると、2人の目を見て、こう投げかけた。

「2人とも、食物連鎖……そして、生物濃縮と言う言葉は知っているかな?」

 そんな問いかけに、此花と咲耶は首を振る。

 食物連鎖。
 生物の食べる・食べられると言う関係性が、連鎖して繋がっていくと言う事だ。
 俺達人間は雑食であるが故、ピンと来ないかもしれない。
 例えば、食卓に上がる事もある秋刀魚サンマを例にとろう。

 この秋刀魚、人間様に美味しくいただかれる前は、どうやって生きていたのか?
 秋刀魚は、海で悠々と泳ぎ、主に動物プランクトンや、小魚、甲殻類、他の魚の卵を食べるらしい。
 いわば肉食である。
 ああ見えて、中々に、ワイルドな奴だったらしい。

 では、秋刀魚に美味しく頂かれた者達は、何を食べていたのだろう?
 そうやって、追っていくと、最終的に、植物に行き着く。
 植物は全ての生物の例外的存在で、捕食せず、土もしくは水の中の養分と太陽の力を使って、自分の命を繋いでいる訳だ。
 その為、植物以外の生物は食べないと生きて行けないから、消費者と呼ばれるのに対し、植物は作り出す者。即ち、生産者と呼ばれる。

 最終的に、植物が作り出したエネルギーで、人間は生きていることになるんだよーと言うのが、この話のまとめなのだが……。

 実は、この話には切っても切れない関係性がある。
 それが生物濃縮なのだ。

 ある特定の物質は、この食べる、食べられると言う関係を伝って、人間へと集められていく傾向にある。

 特に問題のある物質が濃縮された例が、4大公害の一つ、水俣病である。
 有名な話だから、知っている人も多いと思うが……この公害の原因は水銀だ。
 川へ垂れ流された水銀が、メチル水銀と呼ばれるものに変化し、海に流出した。
 それを取り込んだプランクトンが小魚に沢山食べられ、水銀が濃縮される。
 小魚が大きな魚に……と言う食物連鎖を辿る過程で、高濃度に濃縮されていった。
 最終的に、その魚を食べた人間が高濃度の水銀を摂取する事で、重篤な障害を引き起こすに至った。
 ちなみに、メチル水銀の中毒症状は人間の場合は、脳や神経に対して重篤な障害を起こす。
 他の生物では、蓄積されるところが違う関係から、別の症状を引き起こすらしい。

 話は長くなったが、今回、この手の事が魔力で起こったのではないかと、俺は考えている。
 閉鎖空間でばら撒かれた魔力は、まず、薄く植物に拡散し、それを植物が優先的に取り込む。
 そして、魔力を取り込んだ植物が、動物たちに食べられる。
 そうやって、魔力濃縮が起こり、ある程度俺の魔力を宿した動物たちが、勝手に子を生していったと言う可能性が濃厚だ。

「なるほど……流石、お父様ですわ!!」
「それならば、お父上の子が突然、大量に生まれたのも理解できまする!」

 今の話では出てこなかったが、俺はもう一つ、考えていることがある。

 もし仮に、外界と魔力でさえも遮断されているとするならば、この森の魔力はどうなるのだろうか?
 巫女を通して吸い上げられている魔力。それ以外にも、魔力を吸い上げられていたら、この森の魔力はどうなるのか?

 枯渇である。

 勿論、魔力は色んな場所から生まれているだろう。
 ただ、供給量が追い付いていないように思える。
 ナーガラーシャとやらの吸い取る量が多いのか、元々、何処からともなく産出される魔力が少ないのか、それは分からない。
 とりあえず、何にせよ、この森には魔力が足りてないと言う可能性は、高い事は分かる。

 さて、この世界に置いて、魔力とは、どういう位置づけだっただろうか?
 魔法の元にもなるが、そもそもは、生命維持に使われている筈だ。
 獣人達は一様に言っていた。
 昔と比べると、弱くなったと。
 秘儀が失われたと。

 俺は魔力量が膨大故に、その事を実感できていなかったが、あの糞勇者との一戦で思い出す結果となった。
 魔力が枯渇すれば、身体能力は落ちるのである。
 獣人族が昔に比べ遥かに弱いのは、単に平和ボケからの、弱体化からかと思っていたのだが……もしかしたら、根本原因は魔力枯渇にあったのかもしれない。

 現に、最近の獣人達は、皆元気である。
 食事が十分にとれることで、魔力量が上がっているのだろう。
 勿論、皆、やる事が出来たからという事もあるだろうが、それだけでは無いと俺は思っている。
 レイリさんの件もあるし、結果的に獣人族が活性化している事は、喜ばしい事である筈だ。

 では、もし、そんな魔力が枯渇している環境に置かれたら生き物はどうなるのだろうか?
 少しの魔力も逃さないように、より多くの魔力をかき集め、貯め込む様になるのではないだろうか?
 そんな飢餓状態の森に、俺の魔力が満ちた。
 それは、いつも以上に過剰に取り込まれていったのではないだろうか?
 そして、その結果、考えられない速度で、魔力濃縮が進み、こんな頭の痛くなる状況を生み出した……。
 正解かどうかは分からないが、何となく辻褄は合っているように思える。

 俺が思案に暮れていると、ヒビキがひと声鳴く。
 それには、「異議あり!」とでも言うような思いが込められていた。

「えっと……『森に居る動物たちが、数を増やした事はそれで納得できます。しかし、ここにいらっしゃる未知の方々は、どうやって生れ出たのでしょうか?』だそうです。父上。」

 更に、ヒビキは畳み掛けるように声を出す。

「『この方々は、通常の獣とは一線を画す魔力を持っております。これだけの魔力量を持った方を、この森の既存の動物たちが生み出せるとは、到底思えないのです。』とのことですわ。確かに、ヒビキ様のお子様もティガとして生まれましたものね。新しい獣が生まれるなど、普通に考えればありえないですわ。」

 なるほど。良い所に着目したな。流石、ヒビキと言ったところか。
 俺はその聡明さを改めて感じ、賞賛を送る。

「流石だな。ヒビキは良い所に気が付いたね。これも俺の仮説になるが……その前に一つ、確認しておきたい事がある。」

 俺は、未だに俺に向かって頭を下げている動物たちに向かって、声を上げる。

「皆……まずは頭を上げて欲しいんだ。俺は、皆に頭を下げて貰えるほど、立派な存在でも無いですから。」

 俺の言葉を受けて、今まで頭を垂れるように座り込んでいた周りの動物達の視線が、一気に集まる。
 その光景はちょっとしたホラーである。
 つぶらな瞳とはいえ、こんなに沢山の動物に見つめられると、可愛いとか微塵も思えないし!?
 そんな動揺を精一杯押し殺して、俺は声を上げる。

「まず……姿を見せてくれて、ありがとうございます。後、結果的に……君らを生み出すきっかけを作ってしまった事に対しては、俺の考えの至らなさが原因です。皆さんの様子を見ている限りは、その事では恨んで無いようで、俺も安心しています。」

 この言葉だけで、動物から歓声……と言って良いのだろうか?
 とにかく、至る所で鳴き声が上がる。
 まぁ、とりあえず、いい感じにカオスである。
 そして、伝わってくる感情を読む限り、鳴き声ではなく、泣き声と言っても良いかもしれん。
 アイドルとか王様って、こんな感じなんだろうか?
 俺には、耐えられない空気だ。

「ただ、残念ながら、君らを獣人族の家族のように受け入れる事は無理でしょう。勝手な言い分で、本当に申し訳ない。しかし、俺の出来る範囲で、可能な限り要望は聞きます。何でも言って下さい。」

 またしても、歓声と思われる鳴き声が響き渡る。
『緊張したら人の顔を野菜や動物に思え』なんて言うけど、動物に囲まれても、恐いものは恐いという事を経験した。
 貴重な経験なんだろうが、もう二度と経験したくないです。

 そんな騒ぎの中、馬の嘶きで、また喧騒は消え去り、静けさが戻る。
 その静けさを破って、最初の象さんがひと声上げる。

「『勿体無いお言葉、本当にありがとうございます。私共にそこまで気を配って頂き、感謝の言葉もありません。ただ、もし、一つだけ許されるのであれば、お願いしたい事が御座います。』……だ、そうですわ。」

 俺は、此花が翻訳してくれた象さんの言葉を聞き、

「分かりました。どんなことですか?」

 と、頷きながら答える。
 その言葉を聞いて、嬉しそうに、象さんがまたひと声上げる。

「『私達は、偉大なる父様のお蔭で、この世に生まれ出る事が出来ました。しかし、我々のような特殊な存在を支えるには、多くの魔力が必要となります。遠からず、我々は魔力不足で倒れて行くことになるでしょう。そうなる前に、何卒、我々をお傍に置いて頂き、その存在意義を全うさせて下さい。』……だそうですわ。」

 よし、まずは落ち着こう。
 俺は、意図的に腕を組み、考え込む姿勢を作る。
 色々突っ込みどころのある言葉が、象さんから飛び出たわけだが、さてどうしようか?

 まず、呼び名がぶっ飛んでいる。これは早急に何とかして頂きたい。
 何その、どこぞの北の国の将軍様みたいな、背筋が痒くなるような、拒否反応しか出ない呼び名は。
 一瞬、誰の事か理解できなかったわ!?
 どっかの伝統衣装を身に纏った妙齢の女性が、威勢よく美辞麗句を並べ立てまくっている光景が思い浮かんだ。
 そして、不覚にも、それが脳裏から離れなくなる。 

 そして、情報的にはこっちが重要なのだが、どうやら、新しく生まれ出た種族――便宜上、新生代とでも言おうか――は、魔力の消費が激しいらしい。
 その為、自分の体を維持できないと……。そこで、命乞いをするのではなく、存在意義を全うさせて欲しいと?
 存在意義とは何だ? まずは、そこをハッキリする必要がある。
 俺は、今なお、脳裏でわめく女性を根性で追い出すと、口を開く。

「まず、お願いがあるんですけど……。その仰々しい呼び名はやめませんか? せめて、ツバサと呼んでいただくか、最悪でもお父様か父上位に収めてくれると、精神的に嬉しいんですけど。」

 そんな俺の言葉に、此花、咲耶、ヒビキが、「「「え? まず、そこからなの!?」」」みたいな顔をするが、俺は見なかった事にする。
 俺の豆腐メンタル舐めんな! お父さんは小心者なんだよ!
 ある意味、微笑ましいであろう、俺達の心の交流が理解できたのかは分からないが、象さんは短く同意してくれたようだ。
 それに俺は満足すると、更に質問をする。

「その上で、少しだけ質問です。存在する為に魔力が必要とのことですが……それは、どの種族ですか?」

 俺の問いに、象さんは少しだけ考えるように黙り込むと、声を上げる。

「『新しく生まれ出た種族は、ここに顔を揃わせている6種族になります。また、父様のお子は全て、種族を超えて、我々6種で管理しております。』……だそうです。」

「新しい種族は多いですか? 大体で良いので、どれ位の数になるか、分かれば教えてください。」

 その言葉を聞いて、周りにいる新生代が一斉に声を上げた。
 うん、わけ判らん。
 俺の困惑が見て取れたのか、またもや馬が嘶くと静かになる。
 うーむ。やるな……馬。

「父上……とりあえず、皆様、各自で報告してきたので、詳しい数字は割愛いたしますが、おおよそ10~20の間に収まっておるようです。」

 ふむ、なるほど。それ程、数は多くない。
 なら、なんとかなるだろう。後は本人達の意思かな?

「そっか。咲耶、ありがとう。」

 咲耶に礼を言い、此花が、「咲耶だけずるいですわ!」と、ちょっと不満顔だったので、此花にもお礼を言い、2人の頭を撫でて落ち着かせてから、本題に入る。

「もう一つ良いでしょうか? 先程、存在意義と言う言葉を用いましたが……それはどういうことでしょうか?」

 そんな俺の問いに、さも当たり前と言うように、すぐさま声を上げる象さん。

「『我々は、父様の願いにより、新しい種として生を受けました。ですので、その願いをかなえる為に動きたいという欲求のようなものがあります。ですので、存在意義という言葉を使いました。』……だそうですわ。」

 その言葉を聞いて俺は、頭を殴られたようなショックを受ける。

 なんだそれは? 俺の願いを叶えるために生まれた存在だと?
 だから、俺のために働くのは当然だと?
 ははは……馬鹿げてる……馬鹿げている!!
 俺の願いで……そういうことかよ……。
 なるほどね。中々にこちらも、狂った世界のようだ。

 俺は、沸きあがったぶつけ所の無い怒りと、それ以上にどうにもならない憤りと、ほんの少しの後悔を、心の中で沈める。
 深呼吸し、木々が作り出すドームの天井に視線を向ける。
 その際、端にかかるように映った精霊樹を睨みたくなり……せんの無い事だとこらえた。
 俺の様子を心配そうに、此花と咲耶、そして、ヒビキが窺っている。

 よし、落ち着いた。
 とりあえず、この動物達に罪は無い。
 そして、冷静になってきた頭の中には、もう一つの理由が浮かび上がってくる。
 なるほど。良く考えて見れば、俺に声をかけてくるのは必然か。
 それを隠すということは……もしかすると、もしかするのか?
 俺はふと思いついた事をもう一度頭で整理すると、動物達に声をかける。

「最後の質問です。……あなた達は、ですか?」

 その言葉で、一瞬にして静けさが、場を支配する。
 俺の目を、象さんのつぶらな瞳が射抜く。
 そして、数秒の沈黙の後、一声鳴いた。
 その声には、紛れも無く、生きたいと言う意思が宿っていた。
 俺はその答えに満足すると、軽く頷き、

「分かりました。是非、力を貸してください。その代わり、魔力の問題は、俺が責任を持って解決します。」

 その言葉を聞いた瞬間、四方八方から動物達の鳴き声が響き渡った。
 それは歓喜の声と言っても良いだろう。

 こうして、新生代の動物達は、俺らと共に歩む事になったのだった。

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