比翼の鳥

風慎

第42話 勇者の残した物

 突然、押し殺したような笑い声が、響く。

 見ると、ライゼさんが……本当に静かではあるが……笑っていた。
 けっして大きな声と言うわけでも無い。その表情は、少し口元が引きあがった程度。
 だが、その笑い声は、明らかに、ライゼさんの心を、表情以上に雄弁に語っていた。
 そんなライゼさんを見て、俺達だけではなく、ボーデさんも、言葉を失い、呆然とその姿に見入る。
 そして、呆然と皆が見守る中、ひとしきり笑って満足したのだろう。
 ライゼさんは、いきなり無表情に戻ると、こう言ったのだ。

「気に入った。貴方達の面倒は、私が見る。」

 突然上がったライゼさんの言葉に、ボーデさんが焦ったように立ち上がった。
 そんなボーデさんを見上げたライゼさんの目には、何の感情も映っていないように見える。
 対して、ライゼさんを見下ろすボーデさんの目には、明らかに、戸惑いが浮かんでいた。
 交錯する二人の視線。そして、数秒の間の後、ボーデさんは、大きくため息を吐くと、そのまま荒々しく腰を落とした。

 流石に、この雰囲気の中、声をかけるわけにも行かず、俺は黙って二人の挙動を見守る。
 実は、俺は、ライゼさんの言葉に、密かに驚いていた。

 勇者を好きになれない。

 これは、勇者と言う存在だけではなく……明らかに教団と言う組織に対して、否定の言葉である。
 まだ、何ともいえないが、今までの状況から考えるに、教団と言う組織は、かなり大きな物だろう事は、俺でも察する事ができる。
 そして、教団と言うからには、何らかの信仰を奉げ持つものだろうし、宗教団体と考えるのが妥当だろう。
 宗教は、実に大きな力を持つ。その正邪については関係なく、宗教そのもののあり方が……既にそういうものなのだと俺は思っている。
 そして、世界を股にかけ、勇者と言う名の異邦人を独占的に管理している事から、その影響力は計り知れないだろう。
 少なくとも、一国では収まらない影響力を持っているのは間違い無いと俺は踏んでいた。
 その強大な力を持つと思われる教団に対して、俺は異を唱えたと言われてもおかしくない発言をしたのだ。

 ボーデさんのうろたえ方は、そう言った背景も含んでいると、俺は見ている。
 それに対し、ライザさんは、俺の一言が御気に召したようだ。
 その発言の意図する所は明確なはずなのに……である。
 幾ら俺が異邦人で、何も知らないとしても、危険な思想である事は変わりないだろうし、そう言った人物を保護する事がどれほどリスクの高い事かわかっているはずなのだが……。

 もしかしたら、彼女は、何か教団に良くない感情を持っているのかもしれないな。
 俺がそんな風に、ライザさんの行動の裏に隠れている思いを推測していると、ボーデさんが俺を見て、声をかけてきた。

「なぁ、ツバサさんよ。あんた、勇者様ってのがどういう物か判って言っているのか?」

 その額には、皺が刻まれ、その心中を表しているかのようだ。
 そりゃ、穏やかではいられないだろう。
 なんせ、どこからどう見ても、俺達の存在は、厄介事意外の何ものでもないからな。
 更に、彼は裏で問いを投げかけている。

 あんたは、勇者に会ったことがあるのか? と。

 その問いを言わせる為に、俺はあえてあのように、挑発的な答えを返した。
 何故ならば……彼らを俺達の味方に引き込めると確信したからだ。
 勿論、ライゼさんは乗り気のようだが、ボーデさんはそんな事、露ほども望んでいないだろう。
 だが、ボーデさんには気の毒ではあるが……俺としては、何としてもこの二人の協力を取り付けたいのだ。

 この二人は上手くすれば、今後も俺達の理解者になってくれる。
 つまり、俺の心情を偽ることなく、素のまま話しても問題ない人物を得られると言う事だ。
 腹芸の得意ではない俺にとっては、これに乗っからない手は無い。

「ええ。私達と遭遇した勇者と名乗る輩であれば……下衆の極みでしたね。」

 俺の歯に衣着せぬ物言いに、思わず口を開けて絶句するボーデさん。
 対して、ライゼさんは、表情こそ大きく変わらない物の、その目を三日月の様に細く変えた。
 何だか俺の後ろに控えるルナだけでなく、俺に抱き付いているわが子達も、頷いていた。
 まぁ、一番の被害者は、うちの子達だからな。
 あの時の事は、思い出すだけでも腹が立つ。
 俺が若干、思い出して、持て余した怒気を漏らしていると、それに感づいたのだろう。
 ボーデさんが、慌てて、更に言葉をかけてきた。

「いや、つーか、あんた……その勇者……様は……どうしたんだ?」

「え? 丁重にお帰り願いましたよ。ええ。」

 俺は顔に満面の笑みと思しき表情を貼り付けると、そう答えるに止める。
 何故かそんな俺の笑顔を見て、額から大量の汗を垂らしながら後ずさるボーデさん。
 失礼な。こんなに素敵な営業スマイルだと言うのに。

「い、いや。そうか……。その勇者さ、いや、面倒だ。その勇者について、何か知っている事はあるか?」

 そう問い直すボーデさんは、青い顔をしながらも、目に力がある。
 ふむ。どうも、何やら訳ありのようだ。
 しかも、わざわざ頑張って『様』を付けようとしていたが、そう言い直したって事は……。

「あー。もしかして、お二人がこんな砂漠の真ん中にいた事と、この問いは、何か関係あります?」

 俺が問い返した瞬間、二人の雰囲気が固いものに変わった。
 ビンゴ……かな? こりゃ。

 まだ冒険者なる職業が何をするか不明だが、テンプレ通りなら、何でも屋だろう。
 そして、こんな砂漠に二人だけ……。
 勇者について、何やら含むところがありそうだとすると……?

「ふむ。もしかして、探してます? あの自称、糞勇者のカオル君とやらを。」

 俺が決定的な言葉を吐いたその瞬間、ボーデさんが、脇に置いてあった折れた金属塊もどきを手に取ろうとして……そのすぐ横にナイフが突き刺さる。

「馬鹿な臆病者はそこでジッとしてて。」

 ライゼさんの絶対零度の言葉が、ボーデさんを縛る。
 その言葉を聞いて、ボーデさんはゆっくりと手を引っ込め、そのまま後ろにへたり込む様に、腰を下ろした。
 その表情には苦い物が浮かんでいる。恐らくボーデさんの行動は、反射的な物だったのだろう。
 しかし、剣を抜きそうになったボーデさんも、それを止めたライゼさんも、なかなかに素早い対応だったな。
 まぁ、ボーデさんは思わず……と言う動きだったが、それだけ彼の潜って来た修羅場が多いという事だろう。
 だが、ライゼさんは逆に冷静だった。いや、ある程度、予想していた?
 俺がそんな予測を立てていると、ライゼさんが俺の問いに答えるように、話を始めた。

「ツバサの言うとおり、私達の任務は、失踪した勇者の探索。……名前はカオル。女の奴隷を一名連れて、要塞都市イルムガンドから、この砂漠に入ったのが最後の目撃情報。」

 なるほど。そう言うことか。
 どうも、上手いタイミングで、こんな所に人がいると思ったら……探索隊か。
 まぁ、二人しかいない探索隊って言うのもどうかと思うが。
 もしかして、その辺りに、込み入った事情でもあるのかな?

「だから、勇者の情報があれば教えて欲しい。それがあれば、私達は任務を達成できる。」

 そう言って、ライゼさんは頭を下げる。
 それを見た俺は、黙って懐に手を入れ……異空間より一つのサークレットを取り出し、床に置いた。

「そいつぁ……叡智の輪冠……。」

 思わず……と言った感じで、ボーデさんが言葉を漏らす。
 反対にライゼさんは無言で、銀色に光るそれを、見つめ続けていた。

 しかし……叡智の輪冠……ね。愚者の輪冠の間違いじゃないのかね?
 この吐き気のする銀冠の名付け親がいるなら、そいつは、さぞかし嫌な奴なんだろうな。皮肉にも程がある。
 そうして、暫くの間、その銀冠を見つめ続けていた二人だったが、ライゼさんが思い出したように、腰につけたポーチから、淡く光る手のひら大の球体を取り出す。
 そして彼女は、一瞬、緊張したように唾を嚥下すると、静かにその球体を俺が取り出した銀冠へとゆっくり近づけた。
 その球体が、銀冠に触れた瞬間……その球から、淡い光が発せられ、青色に光る。

「間違い……ない……。これは、勇者カオルの……。」

 呆然と、うわ言のように、ライゼさんは呟いた。

「マジ……か。」

 そう答えるボーデさんも、青く光る球に視線が釘付けである。

 暫く、静寂が場を包んだ。

 そして、何やら二人とも難しい顔である。
 まぁ、そりゃ、探索対象が既に死亡―――いや、実際は文字通りお帰り願ったのだが―――している線が濃厚になって、その元凶と思わしき張本人達が、目の前にいる事になる訳だ。
 だが、その人達は、命の恩人であり、つい先程、面倒を見ると言ってしまった訳で……。
 実際は、ライゼさんが勝手に約束してくれただけだが、あの様子なら、ボーデさんが彼女を見捨てられるはずもない。
 俺はそんな二人の心中を慮りながらも、状況の推移を黙って見守る。

 そうして、数十秒程、空白の時間が続き……やがて、ライゼさんが口を開いた。

「ツバサ。これは、貰っても?」

 無表情に、銀の輪冠……いや、叡智の輪冠とやらを手に問う。

「ええ、私には必要の無い物なので。ご自由にお使い下さい。」

「そう。助かる。」

 そうして、そのまま、ボーデさんの方へ向くと、続けて宣言するように言った。

「この叡智の輪冠は、で拾った。」

「いや、けど、お前ぇ……。」

で、拾った。」

 そんなライゼさんのダメ押しを見て、ボーデさんはため息をつくと、

「ああ、もう、判ったよ! 俺達は、交戦中に、この輪冠を発見した。他の遺留物は発見できなかった。これで良いか!?」

 投げやりに、声を荒げながらそう答える。
 その様子に満足したのか、表情こそ変えない物の、ライゼさんは頷き、

「ボーデにしては珍しく理解が早い。いい子、いい子。」

 そう言いながら、ボーデさんの頭を無表情に撫で始めた。
 一気に色々な物がボーデさんの体からこそげ落ちて行くのを感じた俺は、彼に哀れみの目を向けることしか出来なかったのだった。



 その後、詳しい話は、明朝に行う事にして、俺達は床につく事になった。
 俺達のいる、このテントもどきは、パーティションの様な物で内部を細かく仕切って、簡易的な部屋を作る事ができる様になっているのだが、これがまた優秀なのだ。

 うーむ……これ欲しいな。旅には必須な気がするぞ。

 ちなみに、このテントを真上から見ると円形になるのだが、仕切りはその円を単純に横から3つに分けただけの形になる。
 円の中心に、漢字の『二』を置いたように、すっぱり輪切りにしただけだ。
 そうして、俺達とボーデさん達は、別々の空間に仕切られた部屋で、体を休める事になったのだ。
 俺達の隣の部屋は、先程皆で話し合っていた広間である。ここが中心なので一番面積が大きい。
 その広間を挟んで向こう側に、ボーデさん達の寝室があるようだ。

 一応、念のために遮音壁をかけると、俺は早々に割り当てられた部屋の中心に、そのまま雑魚寝する。
 そして、目を瞑り、先程の話を振り返ろうとしたが……突然、腹に衝撃を受け、あまりの痛みにもんどりうった。

 ぐおおお!? 油断したとは言え、強化した状態でこのダメージ!? 何だ!? 敵襲か!?

 そうして見ると、何故か膨れっ面のルナさんが腰に手を当て仁王立ちしていた。
 その姿を見て、俺は瞬時に己のミスに気がつく。

 はっ!? しまった……そう言えば、約束してたじゃないの。
 俺は慌てて起き上がると、膨れっ面のルナに声をかける。

「あー、ごめん。けど、忘れてないよ?」

 《 嘘。あのままだと、きっと寝てた。 》

 う……確かに、その可能性を、否定できない……。
 俺が虚空に浮かぶ文字を見て、汗を垂らしていると、

「今のは、ツバサさんが悪いです。ルナちゃん、楽しみにしてたんですから。」

 と言うリリーの声。そして、それに賛同する他の皆が頷いていた。
 我が子達まで頷いている所を見て、俺は完全なる敗北を自覚した。

「すいませんでした……。以後、気をつけます。」

 俺は、潔くルナに頭を下げる。
 そんな俺を見て、ルナは表情を緩めると、仁王立ちで腰に当てていた両手をこちらに広げるように突き出してきた。
 ちょっと怒ったままの顔だが、それでも、その意図は直ぐに判る。
 俺はそれを拒むことなく、そのまま、反省の気持ちを表すように、柔らかくルナを抱きしめた。
 そうなのだ。先程、砂漠で約束したのだった。寝る前は必ずハグすると。
 危なく初日で約束を破る所だった……。
 いくら、今日が内容の濃い一日で、大変だったとしても、言い訳にもならない。
 ルナ、本当にごめん……。早く、習慣にできるように、頑張るからな。
 俺は、そんな思いを込めながら、ルナをもう一度、優しく抱きしめたのだった。

 例のごとく、それからかなり長い間、ルナは俺の胸に、自分の顔を埋めていたが、満足したのだろう。
 満面の笑みで、今日はこれぐらいで許してあげる! とでも言うように、離れて……何故かリリーの肩を軽く叩く。

 あれ? 何か嫌な予感が……。

 リリーはルナに押されるように、俺の前におずおずと来ると、恥ずかしそうに顔を赤らめながら、

「えっと……も、もし、よ、宜しければ、わ、私も、つ、ツバサさんに……ギュッて……欲しいなぁ……とか。」

 そう言いつつ、俺を迎え入れるように両手を広げる。
 相変わらず、恐ろしいまでの破壊力である。これを素でやってるから、この子は恐ろしい。
 そして、例のごとく、リリーの耳と尻尾が大変な事になっている向こう側には、満面の笑みのルナが静かに見守っていた。

 勿論、断らないよね?

 俺はそんなルナの笑みを見て、幻聴とは思え無い声を聞くと、真っ先に全面降伏する。
 はい。喜んで……ハグさせて頂きます……。
 そうして、リリーを抱きしめ、その後結局、ヒビキも含めた全員をハグして回った訳で……。
 おや? もしかして、俺もボーデさんの事、笑えるような立場じゃないのでは? と気がついてしまったのは、皆が俺の体に纏わりつくように眠った後だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


「なぁ……起きてるか?」

「寝てる。」

 ため息が漏れ、暫く静寂が場を支配した。

「……全く……。あんな事があったのに、お前は変わらないんだな……。」

「私はいつも私。」

「ああ、確かにな。けど、どうしてあいつらにあそこまで肩入れする。あれは、いつものお前じゃない。」

 しかし、その声に答えはない。しばしの静寂。そして、やはりため息。
 そして、暫くの間、無言が場を支配したが、それを苛立った様な声が破る。

「……一応、判ってると思うが、言っておく。俺は別に、やつ等の事が気に食わないわけじゃない。いや、多分、いい奴らだ。纏っている雰囲気が擦れてないからな。ただ……。」

 そうして、尻すぼみになった声は、そのまま消えた。
 その後には、殆ど聞こえる事のないか細い息遣いと、身じろぎの音が続く。

「……桃源郷。」

「あん?」

「私の目的。」

「……お前が、ずっと捜し求めてるって言う……あれか?」

 しかし、その声に答えは無い。
 そして、暫しの静寂の後、何度か口を開くような気配を感じさせながら、それは声になる事は無かった。
 それは、五分だろうか? 十分だろうか? それとも一時間だろうか?
 かなり長い時間のようにも、短い時間のようにも感じられる間延びした時の先で、突然、静寂は破られた。

「なぁ。」

「なに?」

「俺は、お前に着いて行くからな? お前が必要としなくても、俺は勝手に着いて行くからな?」

 そう一気にまくし立てると、乱暴に姿勢を変えたのだろう。振動音と共に、衣擦れの音が響く。
 暫しの静寂の後、それを破ったのは、透き通る声だった。

「ねぇ。」

「……なんだ?」

「なんで?」

 暫しの沈黙。

「……何がだよ。」

「着いて来るの。」

「そりゃ、お前ぇ……。……何でも良いだろ。」

 ため息と共に、吐き出された言葉。

「聞きたいの。なんで?」

 暫し、沈黙が続いた後、最大級のため息の後、呟くようにその言葉は吐き出された。

「お前が……大切だからだ。」

「40点。」

「お前ぇなぁ……。」

「……けど、ボーデにしては頑張った。これからも精進すると良い。」

「へぃへぃ。」

 ため息と共に、諦めも混じった声が、吐き出された。
 と同時に、何かくぐもった音が響く。

「んぉ!?」

 そして、何かがぶつかる音が響いた。

「~~~~……。ボーデは馬鹿。」

「っつーぅ……。いきなり何するんだよ!?」

「ちょっと頑張ったからご褒美。」

「あのなぁ……いきなり乗るな。んで、いきなり唇奪われれば動揺もす……うご!?」

 そうして……暫し、湿った音が響く。

「……ボーデは馬鹿。」

「ええ、ええ。馬鹿だよ。もう、馬鹿でもアホでも良いよ。」

「こんな女に簡単に引っかかる。これはもう、哀れみが必要。」

「……そうか。じゃあ、俺、一生、馬鹿でいいわ。」

「……けど、そんな馬鹿でも、結構、良い所もある。」

「そりゃどうも。」

 暫し、静寂が続き、直ぐに、透き通る声がそれを塗りつぶす。

「これから少し大変。」

「少し……か? かなりじゃないのか?」

 その問いに答えはない。
 その様子に、ため息が響くと、投げやりな感じに声が響く。

「まぁ、なんとかなるだろ。いや、なんとかする。今までだって、そうだったんだ。」

「期待してる。」

「お前ぇなぁ……。元はと言えば、全部……。はぁ……まぁいいや……。」

「ボーデは心配性。」

「あのなぁ。勇者ぶっ殺しちまった奴らの身柄を保証しないといけねぇんだぞ? しかも、勇者と同じ異邦人と来たもんだ。こんなの教団にばれたら、俺達の身が危ういだろう!」

「大丈夫。ボーデが上手くやる。」

「お前ぇ……うごぉ。」

 そして、暫くの間、湿った音と、更に、息遣いが激しくなり、衣の擦れる音が聞こえ始めた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 流石にこれ以上はまずいと判断し、俺は、そっとリンクを切る。

 二人に着けておいたファミリアは、気付かれる事も無く、こうして音を伝えてくれた訳だ。
 なるほどね。盗聴は趣味じゃなかったけど……あの様子なら、まぁ、何とかなりそうかな?
 最悪、寝込みを襲われる事も想定していたのだが……思いの外、二人は俺達のことを評価してくれているようだ。
 会話の中に、いくつか気になる発言もあったが……とりあえずは、放置で問題ないだろう。

 しっかし……仲良いな……あの二人。

 表面上、反目しているように見えて、深い信頼で繋がっているように見えた。
 俺達とは全く違う形だが、ああ言うのも悪くないな。

 相変わらず、視界を完全にルナの体に遮られながら、俺はそんな事を思いながら眠りに落ちたのだった。

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