一から始める異世界ギルド

山外大河

25 強襲

「いくぞ!」

 開口一番にシドが先陣を切った。
 戦闘スタイルは俺と同じく近接戦闘タイプらしい。ただシンプルに、迫ってくるBランクの内の一人が肉体強化以外の何かしらの魔術を放つ前に、跳び膝蹴りを顔面に喰らわせる。
 だがそれで止められるのは一人。鞭を手にしたその男の標的は、どうやら俺かミラだ。

「下がってろ、ミラ」

「はい!」

 流石に戦闘中にミラを一人で放置する訳にもいかない。
 ……守り切るぞ。
 男は接近しながら鞭を放つ。
 その動きに一切の無駄は無く、隙の少ない構えで放たれた鞭その速度は高速と言ってもいい。
 だけど動体視力が上がっている今の俺には、確かにその攻撃を視認できる。
 そしてミラがいて躱せないとなれば、おのずと取れる選択肢は一つ。

「今だッ!」

 ガシリと確かに……放たれた鞭を右手で掴み取った。右手に鞭を掴んだ痛みが走るがそれでも止めた。

 だけどこの時、やはり俺には経験が足りていないのだと痛感した。

「グ……ッ」

 鞭を掴んだ右手から強力な電流が流れ出す。
 しかも鞭から手が離れない。
 ……掴まれる事を想定して、術式を組んでやがるッ!

 だけど……だからどうした!

 そんな経験豊富な相手に俺が対抗できる手段は唯一つ。それは力を無茶苦茶に振るう、力のごり押し! この位耐え忍んで、無理矢理攻撃に繋げろ!

「っ、らあああああああああああああああああッ!」

 俺は右手を勢いよく引いて鞭を持った男を引きよせ、力強いヘットバットを喰らわせる。
 男はのけ反るが、電撃を感電させる事は出来ない。俺が発火術式を使用して燃えないのと同じ原理で、使用者にはその攻撃魔術の効果が及ばない物が多い。
 そもそもそれ以前にヘットバットで電撃が止まっていた。
 俺は右手の鞭を離し、同時に左手でのけ反った男の襟首を掴んで再び引きよせる。

「……悪い!」

 そして右拳を握りしめ、その顔面に勢いよく叩き込んだ。
 そしてアリスから言われた事を思い出す。
 勝てる確信が無い限り、手は抜かない。
 相手はこういう場に呼び出される強者だ。だったら確実に勝てるかどうかなんてのは解らない。だったらまだたりねえ!
 もう一発。

 左手で男を引きもどし、再び拳を叩きこむ。
 そしてその勢いで襟首から手が離れ、自然と俺との距離が開いた男の腹部に、全力の蹴りを叩きこんだ。
 勢いよく吹き飛んだ男の体は近くの壁へと叩きつけられ、一瞬のその体を動かして、そのまま意識を失う。

「ハァ……ハァ……」

 荒い息を整えながら、自分が蹴り飛ばした男に改めて視線を向ける。
 蹴りを喰らってまだ意識があった……つまり途中で躊躇っていれば、そこから反撃されていたかもしれない。
 アリスの言う通りだ。手なんて抜けやしない。
 そして次の瞬間、俺が倒した魔術師の近くにもう一人の魔術師が転がる。
 特に危なげもなく戦闘を繰り広げていたシドの、何かしらの魔術を要いた掌低を受けて吹き飛んだのだ。
 そして俺の相手と同じ様に撃沈。
 シドは倒れている二人に近づいてそれぞれの指輪を抜き取る。

「これでコイツらも元に戻るだろ」

「俺の時と同じ状態ってんならそうだろうな……で、俺やコイツらみたいに指輪を付けていた連中はみんなこうなってる可能性が高いって事か」

「だろうな」

 ハインズ製薬に雇われたギルドの人間は皆指輪を付けている。俺も……そしアリスも。

 あの会議室に居た猛者達が全員暴走している。考えただけで嫌になる。

「……とにかく、アリスを元に戻さねえと」

「お前の連れか?」

「ああ。ウチのギルドのボスだ。とにかく最優先事項はそこだ……いや、ちょっと待て」

 本当にそうか?
 多分先にするべき事がある。

「……先にミラを外に出すのが先決か」

 はっきり言ってこの状況にミラを立たせていたら命がいくつあっても足りやしない。
 多分地球に居たころの俺がこの場にいたら、速攻で殺されてただろう。
 ……そしてそれをやるなら、動くのは俺だ。
 なんにしても動くなら早くした方が良い。
 いつ奇襲を受けたって分からないんだから……と、そう思った時だった。

「だったらアレか。此処は俺に任せて先に行けとでも言ったほうがいいか?」

 シドがとつぜんそんな事を言って戦闘態勢を取る。
 そして次の瞬間には俺もその意味を理解して拳を構える。

「キース……それにカルロスもか」

「Sランクギルドか。それだけでもキツいのに、カルロスに森のクマさんまでいやがる」

 ……本当に広まってやがる。
 一瞬そう思って気を抜きかけたが、再びそれを引き締める。

「……その言い草だとアイツらが特別強いみたいだな」

「知らねえか? アイツら二人組ませたらヤバいって話。単体でも相当なのに二人そろうと化物だとアイツら」

「一人でどうにかできるか?」

「俺に任せてとか言いてえけど、厳しいな」

「……となれば俺も戦わねえとマズイか。俺も戦う」

「ミラを守りながら戦えるんだったらな」

「……やるしかねえだろ」

 もうそれしか無いだろう。此処をシド一人に任せたら、最終的に突破されてこの先に居る他のギルドの連中と挟まれる。
 同じくミラを守って戦わなければならないのなら、まだこちらの方が幾分もマシだ。

「絶対なんとかする。だから下がってろ」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ」

 その言葉に信憑性があるのかどうかは分からない。だけど俺はそんな言葉を残してミラの盾となるように拳を握る。
 ここから先は本当にどうなるか分からない。
 まさしく死線がそこに広がっていた。

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