一から始める異世界ギルド
23 此処に居る訳
ため息を付く俺にミラは尋ねてくる。
「えーっと、裕也さんが此処に居るって事は、何かお仕事の依頼でもあったんですか?」
「まあな。だからアリスも此処に居る」
「へえ、そうなんですか。ところで聞いていい事なのかは分からないんですけど、一体何があったんですか?」
……本当に何も知らないのか。そっちこそ何をどうしたら何も知らない状態で、関係者以外立ち入り禁止になっているこの敷地内に居るんだよ。
「先にいいか? ……ミラこそなんで此処にいんの?」
「へ? 私ですか? 私はアレです。此処に運ばなくちゃいけない荷物があったのでそれを運びこんで、今帰りです」
「……いや、聞かされてた話によると、そういう業者もこの時間帯には社内に居ない様に配達時間とかを調整したって聞いたんだけど……」
「……」
ミラは言いにくそうに視線をそらした後、それでもゆっくりと呟く。
「……まあ、その……なんですか。ちょっと大丈夫かなーと思ってたけどやっぱり痛んでた……的な」
……成程。お花を積みに行ってらっしゃったのですね。それもかなりの時間。
……って、そうじゃねえだろ!
「なんだおい、万全だと思ってた警備態勢にさっそく穴あんじゃねえかよ……」
これじゃあ事前に忍び込み放題じゃねえか……詰めが甘いってレベルじゃないんですが。
何これ。これだけ色々人雇う手間があったのなら、もっとそういう所にも力入れません?
俺が再びため息を付きそうになっていた時、ミラが言う。
「警備って事は、もしかしで何か犯行予告とかあったんですか?」
「……ロベルトだよ。アイツが此処の社長に誘拐予告を出しやがった」
言ってからミラにロベルトの話題は出さない方が良かったのじゃないかと思ったがそれも後の祭り。言ってしまった以上撤回はできない。
「……またあの人ですか」
「……そうだな」
「……一体、何を考えてるんでしょうね。こんな酷い事ばかりして」
「……本当に、何を考えてんだろうな」
今回の一件で、少しでもそれが分かると良いんだけどな。
そして俺達の間に沈黙が訪れるが、それを破って話をまとめにかかる。
「まあそういう訳だ。だから今此処は一般人は立ち入り禁止になってるし、そんで立ち入り禁止になる位には危険な状態だ。だからとにかく此処を出るぞ。出入り口まで送ってやる」
アリスの元にすぐに向かわなければいけないのは確かだけれど、既にロベルトの仲間が侵入しているこの敷地内にミラを一人で放置する訳にもいかない。
幸い此処は一階だ。出入り口にまで送るのにさほど時間は掛らない。
「あの……すみません、なんかまた迷惑掛けちゃってるみたいで」
「いいよ別に。困った時はお互い様だ」
そんなやり取りをした後、俺達は出入り口に向かって歩きだした。
「そういえば、アレから黒点病の方はどう? 薬効いたか?」
「はい。あの時の薬で完治しました。まだ二回目の服用だったんですけど、治ってくれてよかったです」
出口に向かって歩きながら、俺達はそんな会話を交わす。
「それにしても……結構雇われているギルド、多いんですね」
「そんだけ厳重に警備してんだよ」
歩いているとやはり他のギルドが警備している所を通る事になる。明らかに持ち場を離れている訳だからその都度状況を説明する必要があったけれど、短く説明すれば分かってくれた。
だけどもたった今視界に入った方への説明は、なんだか面倒そうである。
「あぁ? なんでテメェが此処に居るんだよ。お前の警備は三階だろうが」
森のクマさんこと、キースである。
この辺りはキース達が担当だったか。嫌なルートを選んでしまった。
だけど絡まれても無視するわけにはいかない。ちゃんと理由は説明しないと。
「突然現れたロベルトの仲間の奴に転移術式で飛ばされた」
「おいおい、調子乗った事言ってたくせに、なんだよそのザマは」
「……」
コレに関しては、何も反論する事が出来ない。
多分だけども……コイツが同じ状況に立たされたとするならば、俺の様にあっさり飛ばされたりはしなかったのではないだろうか。
目の前の男の力は、きっと俺の様に仮初めの力じゃない。その力を得るまでの過程に経験だって山程詰んでいる筈だから。
だからきっと、キースには俺を罵る権利があると言ってもいいだろう。
「それで、その子は?」
隣に立っていたカルロスが、助け舟を出すように会話を打ち切りつつ、ミラの姿を見てそう尋ねてくる。
「そうだよ、なんなんだよそのガギは」
「簡単に言うと、逃げ遅れて巻き込まれた一般人だよ」
「それで、今あなたが出口に連れて行ってると」
「そういう事です。いくらなんでも放っておけないでしょう?」
「まあ確かにそうだね。キミの判断は正しいと思うよ。こんな所で一般人を一人にしておく訳にはいかないからね。無事に送り届けてあげなよ」
「了解です」
俺がカルロスにそう返した所で、カルロスは思い出したようにキースに視線を向けて口を開く。
「そういえば熊さん小さい女の子とか好きだったろ? 替わりたいとか思ってる? 駄目だよー変な事考えちゃ」
その言葉を聞いた瞬間、ミラが自分の身を守る様に俺の背に身を隠す。
キースはそんな風にやや怯えた視線を向けるミラを一瞥した後、静かにカルロスに視線を向けて呟く。
「なあカルロス……一周回って逆に落ち着いたぞ。後で殺すから」
「あ、これマジでヤバい奴だ……」
と言いつつも笑っているカルロスと、逆に怖い位の真顔のキースを眺める俺の背から、ポツリと声が聞えた。
「隠れておいてなんですけど……私十四ですよ。全然小さく無いですよ……」
そうは言っても、若干子供っぽい容姿な気がするし……何よりキース位の奴の場合、十四が相手でも充分に犯罪のにおいがするからな。
というかキースよりも若干カルロスの方がそういう方面では危ない気がするんだけども……まあそれはさておきだ。
「ところで……お前らの所のボスは?」
俺がそう聞くと、言いたくねえという表情を浮かべてこめかみを押さえながら、キースが答える。
「……目を離したすきに、どっか行きやがった。あのクソガキが……通信繋いでも出ねえし……」
身内の失態を嘆くと同時に、その巨体から滲み出てくるのは、なんか見るからに心配そうな表情と声音。そこから読み通れるのはなんというか……完全に保護者のソレである。
なんとなくこのキースという男に関して分かった事がある。
「全く……もうロベルト一派は内部に入り込んでるっていうのに。クマさんがちゃんと見てないから……」
「クソ……否定はしねえよ、俺が悪かった。後でお前を殺す」
「あれ? セリフ前後で噛み合ってなくない?」
……一番空気読まない脳筋に見えて、多分一番苦労人だコイツ。
俺は妙なシンパシーを感じつつ、二人に言う。
「まあとりあえずこの子を外に連れて行ってから持ち場に戻るけど、その途中で見かけたら何か言っといた方がいいか?」
「転ばない程度に全力疾走で戻ってこいって言っとけ! いいな!」
「……オーケー、分かった」
うん。やっぱり保護者だコイツ。
そんな事を考えながら、俺は話を切り上げに掛る。
「まあとにかくそろそろ行くわ。ウチのリーダーも心配だし」
「心配……そういえばキミは飛ばされたって言ってましたが、もう連絡などは済ませましたか? あっちも心配でしょう」
「いや、連絡はしてねえ」
「何故に?」
「いや、戦闘になってたら連絡なって跳んできたら気、散るだろ。それが命取りになるかもしれねえし……もう少ししたら掛けてみる。いや、あっちが掛けられる状態になったら掛けてくるだろうから、それを待つ」
「まあ確かにそれも良いかもしれないね。ね、クマさん」
「んな事より、さっきからクマさんで固定するのやめろ……マジでやめろ」
……飽きるまで止めねえだろうな、コイツ。
そんな事を考えながら俺達は軽く会釈してその場を後にした。
「えーっと、裕也さんが此処に居るって事は、何かお仕事の依頼でもあったんですか?」
「まあな。だからアリスも此処に居る」
「へえ、そうなんですか。ところで聞いていい事なのかは分からないんですけど、一体何があったんですか?」
……本当に何も知らないのか。そっちこそ何をどうしたら何も知らない状態で、関係者以外立ち入り禁止になっているこの敷地内に居るんだよ。
「先にいいか? ……ミラこそなんで此処にいんの?」
「へ? 私ですか? 私はアレです。此処に運ばなくちゃいけない荷物があったのでそれを運びこんで、今帰りです」
「……いや、聞かされてた話によると、そういう業者もこの時間帯には社内に居ない様に配達時間とかを調整したって聞いたんだけど……」
「……」
ミラは言いにくそうに視線をそらした後、それでもゆっくりと呟く。
「……まあ、その……なんですか。ちょっと大丈夫かなーと思ってたけどやっぱり痛んでた……的な」
……成程。お花を積みに行ってらっしゃったのですね。それもかなりの時間。
……って、そうじゃねえだろ!
「なんだおい、万全だと思ってた警備態勢にさっそく穴あんじゃねえかよ……」
これじゃあ事前に忍び込み放題じゃねえか……詰めが甘いってレベルじゃないんですが。
何これ。これだけ色々人雇う手間があったのなら、もっとそういう所にも力入れません?
俺が再びため息を付きそうになっていた時、ミラが言う。
「警備って事は、もしかしで何か犯行予告とかあったんですか?」
「……ロベルトだよ。アイツが此処の社長に誘拐予告を出しやがった」
言ってからミラにロベルトの話題は出さない方が良かったのじゃないかと思ったがそれも後の祭り。言ってしまった以上撤回はできない。
「……またあの人ですか」
「……そうだな」
「……一体、何を考えてるんでしょうね。こんな酷い事ばかりして」
「……本当に、何を考えてんだろうな」
今回の一件で、少しでもそれが分かると良いんだけどな。
そして俺達の間に沈黙が訪れるが、それを破って話をまとめにかかる。
「まあそういう訳だ。だから今此処は一般人は立ち入り禁止になってるし、そんで立ち入り禁止になる位には危険な状態だ。だからとにかく此処を出るぞ。出入り口まで送ってやる」
アリスの元にすぐに向かわなければいけないのは確かだけれど、既にロベルトの仲間が侵入しているこの敷地内にミラを一人で放置する訳にもいかない。
幸い此処は一階だ。出入り口にまで送るのにさほど時間は掛らない。
「あの……すみません、なんかまた迷惑掛けちゃってるみたいで」
「いいよ別に。困った時はお互い様だ」
そんなやり取りをした後、俺達は出入り口に向かって歩きだした。
「そういえば、アレから黒点病の方はどう? 薬効いたか?」
「はい。あの時の薬で完治しました。まだ二回目の服用だったんですけど、治ってくれてよかったです」
出口に向かって歩きながら、俺達はそんな会話を交わす。
「それにしても……結構雇われているギルド、多いんですね」
「そんだけ厳重に警備してんだよ」
歩いているとやはり他のギルドが警備している所を通る事になる。明らかに持ち場を離れている訳だからその都度状況を説明する必要があったけれど、短く説明すれば分かってくれた。
だけどもたった今視界に入った方への説明は、なんだか面倒そうである。
「あぁ? なんでテメェが此処に居るんだよ。お前の警備は三階だろうが」
森のクマさんこと、キースである。
この辺りはキース達が担当だったか。嫌なルートを選んでしまった。
だけど絡まれても無視するわけにはいかない。ちゃんと理由は説明しないと。
「突然現れたロベルトの仲間の奴に転移術式で飛ばされた」
「おいおい、調子乗った事言ってたくせに、なんだよそのザマは」
「……」
コレに関しては、何も反論する事が出来ない。
多分だけども……コイツが同じ状況に立たされたとするならば、俺の様にあっさり飛ばされたりはしなかったのではないだろうか。
目の前の男の力は、きっと俺の様に仮初めの力じゃない。その力を得るまでの過程に経験だって山程詰んでいる筈だから。
だからきっと、キースには俺を罵る権利があると言ってもいいだろう。
「それで、その子は?」
隣に立っていたカルロスが、助け舟を出すように会話を打ち切りつつ、ミラの姿を見てそう尋ねてくる。
「そうだよ、なんなんだよそのガギは」
「簡単に言うと、逃げ遅れて巻き込まれた一般人だよ」
「それで、今あなたが出口に連れて行ってると」
「そういう事です。いくらなんでも放っておけないでしょう?」
「まあ確かにそうだね。キミの判断は正しいと思うよ。こんな所で一般人を一人にしておく訳にはいかないからね。無事に送り届けてあげなよ」
「了解です」
俺がカルロスにそう返した所で、カルロスは思い出したようにキースに視線を向けて口を開く。
「そういえば熊さん小さい女の子とか好きだったろ? 替わりたいとか思ってる? 駄目だよー変な事考えちゃ」
その言葉を聞いた瞬間、ミラが自分の身を守る様に俺の背に身を隠す。
キースはそんな風にやや怯えた視線を向けるミラを一瞥した後、静かにカルロスに視線を向けて呟く。
「なあカルロス……一周回って逆に落ち着いたぞ。後で殺すから」
「あ、これマジでヤバい奴だ……」
と言いつつも笑っているカルロスと、逆に怖い位の真顔のキースを眺める俺の背から、ポツリと声が聞えた。
「隠れておいてなんですけど……私十四ですよ。全然小さく無いですよ……」
そうは言っても、若干子供っぽい容姿な気がするし……何よりキース位の奴の場合、十四が相手でも充分に犯罪のにおいがするからな。
というかキースよりも若干カルロスの方がそういう方面では危ない気がするんだけども……まあそれはさておきだ。
「ところで……お前らの所のボスは?」
俺がそう聞くと、言いたくねえという表情を浮かべてこめかみを押さえながら、キースが答える。
「……目を離したすきに、どっか行きやがった。あのクソガキが……通信繋いでも出ねえし……」
身内の失態を嘆くと同時に、その巨体から滲み出てくるのは、なんか見るからに心配そうな表情と声音。そこから読み通れるのはなんというか……完全に保護者のソレである。
なんとなくこのキースという男に関して分かった事がある。
「全く……もうロベルト一派は内部に入り込んでるっていうのに。クマさんがちゃんと見てないから……」
「クソ……否定はしねえよ、俺が悪かった。後でお前を殺す」
「あれ? セリフ前後で噛み合ってなくない?」
……一番空気読まない脳筋に見えて、多分一番苦労人だコイツ。
俺は妙なシンパシーを感じつつ、二人に言う。
「まあとりあえずこの子を外に連れて行ってから持ち場に戻るけど、その途中で見かけたら何か言っといた方がいいか?」
「転ばない程度に全力疾走で戻ってこいって言っとけ! いいな!」
「……オーケー、分かった」
うん。やっぱり保護者だコイツ。
そんな事を考えながら、俺は話を切り上げに掛る。
「まあとにかくそろそろ行くわ。ウチのリーダーも心配だし」
「心配……そういえばキミは飛ばされたって言ってましたが、もう連絡などは済ませましたか? あっちも心配でしょう」
「いや、連絡はしてねえ」
「何故に?」
「いや、戦闘になってたら連絡なって跳んできたら気、散るだろ。それが命取りになるかもしれねえし……もう少ししたら掛けてみる。いや、あっちが掛けられる状態になったら掛けてくるだろうから、それを待つ」
「まあ確かにそれも良いかもしれないね。ね、クマさん」
「んな事より、さっきからクマさんで固定するのやめろ……マジでやめろ」
……飽きるまで止めねえだろうな、コイツ。
そんな事を考えながら俺達は軽く会釈してその場を後にした。
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