女神と契約した俺と悪魔と契約した七人の女の子

片山樹

2

 俺としたことが今日は授業中に意味もなくニヤけてしまった。

 本当に気持ち悪い。自分でもそう思うさ。突然、授業中にニヤニヤする奴が居たら誰でもそう思うだろうさ。
 でも仕方ないじゃないか。

 あの花園ハナゾノ先輩が俺の事を好きだと言うことが判明したんだぞ。

 あの、あの、花園先輩だぞ。

現生徒会長であり、容姿端麗で運動神経も抜群にいい。非の打ち所も無いような女性。おまけに金持ちだそうだし。

 そ、そんな人から体育館の裏に来てって、どう考えてもこれはあれでしょ、あれ。

 ――告白。
これしか考えられないだろ。どう考えても。

ここで、あえて先に言わせて貰おう。

『リア充は辛いぜ』

 この言葉は言ってみたい言葉ランキング第三位の言葉だったので、結構清々しいぜ。

 勿論、ここは相手の告白を受け入れたいが本当にそれでいいのか?

 いや、ダメだろう。

めちゃくちゃ嬉しい話だがどう考えても俺とはレベルが違い過ぎる。


 だが何より彼女がそれを求めているのなら、それはそれでいいのではないのか?

いや、それでも……俺には……違いすぎる。

生きている世界が違う。

俺はそんな風に悩み続けた。

 そして答えが生まれた。

『よし!断ろう。』

これなら彼女は傷つけるかもしれないが、彼女も俺に気持ちを伝えてスッキリするだろう。うんうん、これなら大丈夫だよ。

 いや、きっと大丈夫のはずだ。

そして、時間が刻一刻と過ぎていった。

『キーンコーンカーンコーン……』

やけに脳に響く音が放課後になったことを知らせてくれた。

 いつもはその音を聞いて、家にダッシュで帰っていたが、今日は違う。ゆっくりゆっくりと足を前に動かし、体育館裏に向かった。

そこには美少女がいた。
 なんか簡単な表し方になったけど、これは俺の感想だ。

 ただただ、美しかった。

俺は彼女の元へ小走りで駆け寄った。
 そんな近くに居るわけじゃ無いのに良い匂いがするんだけど。
 これが女の子の匂いですかね?
 教室にこんな女の子が居たら、毎日が楽しくて楽しくて皆勤賞間違い無い。

大人っぽい雰囲気だが、子供らしい笑顔、ふっくらとした胸に少し丸みをおび、ぷりっとしたお尻、そしてスカートから見える生足は色白だった。
 鼻を少しだけ高くして、彼女に喋りかける。

「すいません。遅れました。あの、待ちました?」

 紳士っぽい感じで応える俺に彼女が微笑を漏らし
「全然待っていないわ。私の方こそごめんなさい。迷惑じゃなかったかしら?」
 と謝られた。

「いやいや、迷惑だなんて無いですよ!」

 俺は手をブンブン振りながら釈明する。

「それなら良かったわ」
 彼女の安堵した顔を見て、少しニヤけてしまう。色香にハマりそうで怖い。
それよりも俺は早く答えなければならないよね。
「君とは付き合えない」ってね。
 こんな可愛い女の子を振るなんて俺も偉くなったもんだよ。

 と思っていたら彼女が続けるように口を開く。
 ふむふむ。告白なわけですな。
 待ってました。
 そして生徒会長さん。
 俺にデレデレしながら言ってください。

 ほら、早く早く。


「貴方はいつも一人よね。どうして?」

彼女が真顔でその言葉を発した。


……? ん……? ん……?

「あのもう一回だけ言ってもらっていいですか?」

「貴方はどうしていつも一人なのかしら?
 どうして?」
 首を曲げられ、本当に不思議と言わんばかりに直視された。

 ん? あれ?

「あの……それって何か話して意味があるんですかね?」

「あるわよ」

「そうですけど……なぜ知ってるんですか?」
 まぁー好きな人が何故一人なのかは気になるよね。そりゃー分かる分かる。
 俺もゲームとかで美少女が一人でぽつんと居ると気になるもん。

「観察したんです」
 好きってある意味怖いね。
いつ見られているのか分からないし。
 というか観察するほど好きって……。

「か、観察? もしかしてストーカーとかそういう類の人?」

「ち、ちっ、違うわよ」

 彼女が顔を真っ赤にして手をブンブン振って違うことを証明する。

その姿を見て、不意にも可愛いと思った。
 いや、不意にも故意にも、いつも可愛いけどね。

「なら、どうして観察してたんですか?」

「そ、それは……」


「それはどうしたんですか?」
 もう一度聞き直す。

「いい人材になると思って……」
 彼女が長い髪の毛を人差し指でクルクルしながら、恥ずかしそうに言った。

「いい人材?」
 全く意味が分からなかった。
彼女は何か部活のマネージャーでもしてるのだろうか。生憎、俺はスポーツがそこまで得意じゃないから無理だ。

「そう。良い人材よ」
 目を見つめられ、ドキッと鳴った。

「そう言われても……」
 得意じゃないですしね。

「あぁ、いい忘れてたわ。
今日からは貴方は私の偽彼氏ニセカレになって貰うから」
 脳の中でお花畑ができ、一気に散った。

「ちょっと待ってください!
 今なんていいました?」

偽彼氏ニセカレになって欲しいと言ったけど……何か問題が?」

「何か問題が……じゃないでしょ? どうして、偽彼氏なんですか!」
 確かに俺はここに来たのは振りに来たつもりだった。どこかでこんな可愛い子を振る俺、かっけーとか思ってた。
 だけど、だけどさ。
 元々告白も何も偽彼氏だなんて……そんなのねぇーよ。

「だって別に好きではありませんから」
 はっきり言ったね。
はっきり言われたね。何故俺が振られたみたいになってんだよ。寧ろ、逆だろ。それなのに……。

「あの無理です。俺、忙しいんで!」
 俺は断った。当たり前だ、告白されると思ったら偽彼氏になってほしいなんて馬鹿げている。
 それに馬鹿馬鹿しい。こんなの。

「いつも一人じゃない」

 その言葉が俺の心をグサッと刺す。

「い、いや、結構です! 偽彼氏の役なら他の人を探してください!」

 俺は強く断った。これで解放されるはずだ。
 それにしても生徒会長がこんなにも非常識な人だったなんて……あまりにも酷すぎる。

「そ、そうですか……なら仕方ないですね、諦めます」
 やれやれ、困った人だ。
 どうやらこれで一件落着と言った所かな。
 それより……早く桜の元へ行かねぇーと。

「それはありがとうございます、じゃあ偽彼氏探し頑張って下さいね」

 俺は苦笑いしながらこの場を立ち去る。

まぁ、俺以外にもすぐに偽彼氏を引き受けてくれる人がいるだろう……彼女なら大丈夫のはずだ。
 というか偽彼氏の目的は何だろうか。
 少しだけ気になるが、まぁーいい。俺には関係の無いことだからな。

「あの、何か勘違いしてませんか? 私が諦めるって言ったのは強引な手段を使わないようにしようとするのを諦めるって事ですよ」

「えっ?」

「あの、逃げ出すのはやめてくださいね!
もし逃げ出すなら、私が榊原さんに頼んだ例のブツを放送室で流してもいいんですか?」

 さ、榊原? そんな奴いたっけ?
 って、あいつか!
 俺に手紙を渡してくれた……だけで何故あいつが?
 そ、それよりも……。
 ゴクリと口の中に溜まった唾液を飲み込む。

「例のブツってなんだよ……」

「それはですね。ウフフ……あれですよ。あれ……」

 な、なんだ……この薄気味悪い笑い声は。
 も、もしや。アレなのか。

「そっ……それは………封印したはずだ。それにもうそんな物はないはずだ」

「いえいえ、ならこれを見てください」
 彼女がそう言いながら取り出したのは俺が昔書いていた黒歴史ダークレコードである『絶対妹契約アブシスター』だった。

 あれには……色々とやばい事が書いている。

あれは【新妹○王の契○者】をテレビで見ていた時に書き始めたノートだ。

 あのノートには……確か……妹の血を舐めると覚醒するとかそんな設定を作っていた記憶がある。
 ま、まずい。本気でまずい。これがバレるとぼっち生活から引きこもり生活に変わっちまう。
 ど、どうにかしねぇーと。
そ、それよりも……こいつが今、絶対妹契約を持っているのなら放送室に原稿は無いのではないか?
 ははん、なるほど。俺を騙そうという魂胆か。
 この悪め。成敗してくれるわ!

『ピンポンパンポンピンポンパン』

 えっ? は、始まった?

『……………………』

 何も言わねぇーのかよ!

 それよりも早くこいつから取り返さないとやばい。
彼女を張り倒して、絶対妹契約アブシスターを奪い取る事ができるな?
 もう、それしかねぇー。

「あの、もしこの書物を奪おうとしたら、貴方が私をセクハラしたと言いふらしますよ。ウフフ」
 彼女が薄く笑いながら言った。

「生徒会長さん……貴方性格悪いですね」

「いえ、そんな悪い訳では……だってこんな都合の良い人がいるならどんな手でも使って使いたいでしょ?」
 彼女が続けるようにこう言った。

「早く決断して下さい。早くしないと、榊原さんに連絡しますよ」

「クッソ……確かにあれは……封印したつもりだったんだが……」

「この書物を書いているこの俺の名は篠山ササヤマ陸空リクだ……しかし、真名は違う。
本当の名は、誰も知らん。俺もわからない……俺はもう本当の名も忘れてしまった人間だ。もう失う物は何もない。だってもう俺は……」

「もうやめてくれ……やめてください……」

「それはどういうことですか?
 付き合ってくれるということですか?」

「そうだ。だがしかし、一時的なモノだという事を忘れるなよ。わかったか?」

「一時的なモノになればいいですね……私は諦めませんから……」

「そうだな……ではじゃあな!帰る!」

「いやいや、待ってください。」

「ん?どうした?」

「付き合ったら、一緒に帰るというのが当たり前らしいです。だから……その一緒に帰って欲しいんですけど……」

「無理だ、俺は約束をしている」

「ならば、仕方ありませんね」
 そう言って彼女がスマートフォンを取り出した。

「あ、すいません。帰らせて下さい。一緒に帰らせてください!」
 俺が彼女に手を差し出す。

桜に対する罪悪感がありつつも俺は明日謝ればいいかと思った。

「うん!」

彼女が俺の手を握りしめる。

こうして、俺に彼女ができた。

そんな嬉しい事と裏腹に

『俺と生徒会長が付き合っている』
という事が校内放送によって広まり、俺は男子生徒全員を敵にまわす事になる。

これにより俺は日常生活に戻る事はできなくなったが……最高であり最悪の偽彼女ニセカノが手に入ったのであった。

 榊原の野郎、絶対許さん。

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