ILIAD ~幻影の彼方~

夙多史

070 終戦

 アスハラ平原の海岸線付近に一行は転移したようだった。早朝といったところだろう。もうだいぶ明るくなっている。
 セトルたちはすぐに蒼霊砲がある方角を見て愕然とした。
 蒼霊砲は上部からではなく、いたるところから崩壊していた。その光景は凄まじく、近くに居るだけでも生きてはいられないだろう、というほどだった。
 固唾を呑み、彼らはそれを見続けた。
 そして遂に蒼霊砲は跡形もなく崩れ去った。三人は無事なのか、セトルはそのことばかり考えていた。信じてはいた。でも、心配だった。
 すると、少し離れた所に三つの霊陣が出現するのをセトルは見た。
「あれってまさか……」
 そのまさかだった。三つの陣から現れたのは間違いなくワース、アイヴィ、スラッファの三人である。彼らはこちらに気がつくと、手を振った。遠くてよく見えないが、ワースの手にはスピリチュアキーと思われる物が握られている。どうやらすぐに見つかったようだ。
 ウェスターは無事な彼らを見て微笑み、それを隠すように眼鏡を押さえる。シャルンもホッとしたように胸に手をあてた。
「まだ転移のやつ持ってたのかよ。言ってくれりゃ、ここまで心配しなかったのによ」
「ホンマや。うちめっちゃひやひやしたわ」
 ハハハ、とアランは笑い。つられたようにしぐれも満面の笑顔で笑った。
「無事でよかったわね、セトル」
 サニーがセトルの顔を覗き込むようにして微笑む。うん、とセトルは微笑みを返し、ワースたちに手を振った。
「本当に……よかった」

        ✝ ✝ ✝

 ノックスたちと合流したのはそのすぐあとだった。
 まず驚いたのは、半分海に沈んだ状態で完全に動かなくなっているコロサスを見た時だった。その説明をノックスに――ではなくザインに求めた。
 聞くと、海岸までコロサスを誘導したあと、セイルクラフトを使って空からノックスが銃を撃ち、コロサスが自分で海に落ちるようにしたそうだ。すぐには動きは止まらなかったが、しばらくするとあの通り、完全に停止したようだ。
 そのあと、自由騎士団の人から連絡が来た。蒼霊砲が崩れた途端、守護ガー機械ディアンの動きは止まり、アルヴァレスの部下たちはどこかに逃走していったとのことだ。
 精霊を回収したあと、セトルたちはげんくうに招待されてアキナへと赴いた。この中央大陸セントラルに残っているまともな村はそこしかなかった。サンデルクは炎上し、ソルダイがあった場所は隕石が落ちたようなクレーターができていた。
 アキナの温泉に入ったあと、セトルは倒れるように眠った。げんくうに、しばらくここで戦いの疲れを癒すとええ、と言われ、お言葉に甘えることにした。
 ――旅は終わったのだ。

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