ILIAD ~幻影の彼方~
019 爆弾泥棒
「あぁ? 盗賊だぁ?」
マインタウンで鍛冶屋を営んでいるカザノヴァという男は、突然そんなことを尋ねてきた赤毛のポニーテールの少女に、琥珀色の目を隠すほど長い前髪を捲り上げてそう返した。
「知っていることがありましたら教えてもらえませんか?」
隣の銀髪の少年は赤毛の少女と違って礼儀正しくそう訊いてきた。
軍の連中でもない奴らが何でそんなことを訊くのか、カザノヴァには謎だったが、彼らがあまりにも真剣そうだったので話すことにした。
「前にあったやつだろ? あれはここいらで一番の富豪――まあ、町長んとこだが、そこで作業用の火霊素爆弾が大量に盗まれたらしい」
「爆弾! 何で?」
《爆弾》という言葉に驚いたのか、赤毛の少女はたじろいだ。
「いや、俺も盗賊の考えなんかわからねぇよ。まさか自分でミスリルを掘るわけでもねぇだろうから、どっかで高く買い取ってくれる奴でもいるんじゃね?」
「その盗賊の特徴とかわかりますか?」
少年が訊くと、カザノヴァは思い出すように顎に指を置いて答えた。
「そうだなぁ、俺は実際見てねぇが、赤毛のポニーテールをした……そうそう、丁度あんたみたいな少女らしい。ま、俺が知ってんのはこのくらいだ」
すると彼女は眉を吊り上げた。
「まさか、あたしが犯人だって言いだすんじゃないわよね?」
「いやいやそんなことは……似てるけど、あんたが犯人じゃないことはわかるさ」
カザノヴァは両掌を顔の前で振った。
「いろいろと教えてくれてありがどうございました。行くよ、サニー」
銀髪の少年は深々と頭を下げると、少女と一緒に店を出て行った。
「……変な奴らだったなぁ、特にあの兄ちゃんの青い目。何だったんだ?」
カザノヴァは一人、首を捻った。
(まてよ、確か軍にそんな目をした奴が居るって聞いたことがあるが……まさかな)
あんな少年が軍にいるわけがない。だがやはり、青い目というのが謎であることは変わりない。
✝ ✝ ✝
「お! どうだったセトル、そっちは?」
乱雑に露店が並ぶ鉄臭い道を歩いて来た二人にアランが気づくと、こちらの存在を気づかせるように手を挙げて大振りに振った。
「うん。特徴とかはやっぱりあの盗賊のようだけど、盗んだ物がわかったぐらいで行方の方はサッパリ……」
「ああ、火霊素爆弾だろ。こっちも似たようなもんだ」
サンデルクから南東へ船ですぐのところ――とは言っても一日ほどかかるが――にこの町はある。セトルたちはとりあえず武器や食材などを調達しつつ、その盗賊の情報を集めた。
このマインタウンは、シルシド鉄山という鉱山の麓にできた町で、決して観光目的で来るようなところではないのだが、ここで採れた鉱石で作った武器や防具は品質が良く、腕のいい鍛冶屋も多いので、その意味では客も多い。
「やっぱもうここには居ねぇだろうから……サニー、帰らねぇか?」
「絶っ対いや! せっかくここまで来たんだから、捕まえるまで帰んない!」
帰ることをまだあきらめてなかったアランに、サニーは腕を組んで怒鳴るように言った。もう何人もの人に尋ねて回ったが、それ以上の情報は得られなかった。盗みがあってから数日が経っている。その盗賊がいつまでも同じ町に居るとは考えられない。それもわかっているはずなのだが、サニーは諦めようとはしなかった。
そしてもう一人も――
「せやな、まだ手掛かりがあるかもしれへんし……町長はんのとこにでも行ってみる?」
しぐれは微笑みを浮かべて、ここからでも見える大きな屋敷を指差した。彼女にとってその盗賊は、探している里の仲間であるかもしれないのだ。その時――
「おや?」
と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「皆さん、このようなところで何をしているのですか?」
そう言って口元に笑みを浮かべていたのは ――
「ウェスターさん!?」
だった。するとウェスターの笑みは皮肉めいたものに変わった。
「自分の名前くらいわかっていますよ?」
それを聞いてムっとしたサニーが訊き返す。
「ウェスターこそ何でここにいるのよ!」
「私は」瞳を隠すようにウェスターは眼鏡のブリッジを押さえた。「この町で起きた盗賊の事件について調べているところです」
セトルたちは顔を見合わせ、サニーとしぐれがニヤっとした笑みを浮かべる。これは好機である。軍との繋がりのある彼なら、自分たちが知らない情報を持っているだろうと思われる。
「なぁ、その話詳しく教えてくれへんか?」
ニヤッとした笑みを隠すようにしてしぐれが言う。
「……なぜです?」
眼鏡のブリッジを押さえたままウェスターは訊き返した。とりあえずセトルが今までの経緯を説明する。
「なるほど……私はてっきりアランが武器マニアだからここにいるのかと思っていました」
「そんなわけねぇだろ!」
ウェスターは本気でそう思っていないことはわかるが、アランは全力で否定した。
「というわけだから、何か知ってたら教えてよ」
サニーは無邪気な笑顔を見せる。しかし――
「……お断りします」
「何でよ!?」
「一般の方に教えるわけにはいきませんからねぇ」
「むぅー、ケチ!」
サニーは頬を膨らました。とその時――
――ドォ――ン!!
凄まじい爆音が町中に轟いた。
「何や!」
しぐれが叫ぶ。
「鉱山の方からだ!」
とアラン。
「――この音は火霊素爆弾……」
呟くようにウェスターは言うと、一人鉱山の方へ急いだ。
マインタウンで鍛冶屋を営んでいるカザノヴァという男は、突然そんなことを尋ねてきた赤毛のポニーテールの少女に、琥珀色の目を隠すほど長い前髪を捲り上げてそう返した。
「知っていることがありましたら教えてもらえませんか?」
隣の銀髪の少年は赤毛の少女と違って礼儀正しくそう訊いてきた。
軍の連中でもない奴らが何でそんなことを訊くのか、カザノヴァには謎だったが、彼らがあまりにも真剣そうだったので話すことにした。
「前にあったやつだろ? あれはここいらで一番の富豪――まあ、町長んとこだが、そこで作業用の火霊素爆弾が大量に盗まれたらしい」
「爆弾! 何で?」
《爆弾》という言葉に驚いたのか、赤毛の少女はたじろいだ。
「いや、俺も盗賊の考えなんかわからねぇよ。まさか自分でミスリルを掘るわけでもねぇだろうから、どっかで高く買い取ってくれる奴でもいるんじゃね?」
「その盗賊の特徴とかわかりますか?」
少年が訊くと、カザノヴァは思い出すように顎に指を置いて答えた。
「そうだなぁ、俺は実際見てねぇが、赤毛のポニーテールをした……そうそう、丁度あんたみたいな少女らしい。ま、俺が知ってんのはこのくらいだ」
すると彼女は眉を吊り上げた。
「まさか、あたしが犯人だって言いだすんじゃないわよね?」
「いやいやそんなことは……似てるけど、あんたが犯人じゃないことはわかるさ」
カザノヴァは両掌を顔の前で振った。
「いろいろと教えてくれてありがどうございました。行くよ、サニー」
銀髪の少年は深々と頭を下げると、少女と一緒に店を出て行った。
「……変な奴らだったなぁ、特にあの兄ちゃんの青い目。何だったんだ?」
カザノヴァは一人、首を捻った。
(まてよ、確か軍にそんな目をした奴が居るって聞いたことがあるが……まさかな)
あんな少年が軍にいるわけがない。だがやはり、青い目というのが謎であることは変わりない。
✝ ✝ ✝
「お! どうだったセトル、そっちは?」
乱雑に露店が並ぶ鉄臭い道を歩いて来た二人にアランが気づくと、こちらの存在を気づかせるように手を挙げて大振りに振った。
「うん。特徴とかはやっぱりあの盗賊のようだけど、盗んだ物がわかったぐらいで行方の方はサッパリ……」
「ああ、火霊素爆弾だろ。こっちも似たようなもんだ」
サンデルクから南東へ船ですぐのところ――とは言っても一日ほどかかるが――にこの町はある。セトルたちはとりあえず武器や食材などを調達しつつ、その盗賊の情報を集めた。
このマインタウンは、シルシド鉄山という鉱山の麓にできた町で、決して観光目的で来るようなところではないのだが、ここで採れた鉱石で作った武器や防具は品質が良く、腕のいい鍛冶屋も多いので、その意味では客も多い。
「やっぱもうここには居ねぇだろうから……サニー、帰らねぇか?」
「絶っ対いや! せっかくここまで来たんだから、捕まえるまで帰んない!」
帰ることをまだあきらめてなかったアランに、サニーは腕を組んで怒鳴るように言った。もう何人もの人に尋ねて回ったが、それ以上の情報は得られなかった。盗みがあってから数日が経っている。その盗賊がいつまでも同じ町に居るとは考えられない。それもわかっているはずなのだが、サニーは諦めようとはしなかった。
そしてもう一人も――
「せやな、まだ手掛かりがあるかもしれへんし……町長はんのとこにでも行ってみる?」
しぐれは微笑みを浮かべて、ここからでも見える大きな屋敷を指差した。彼女にとってその盗賊は、探している里の仲間であるかもしれないのだ。その時――
「おや?」
と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「皆さん、このようなところで何をしているのですか?」
そう言って口元に笑みを浮かべていたのは ――
「ウェスターさん!?」
だった。するとウェスターの笑みは皮肉めいたものに変わった。
「自分の名前くらいわかっていますよ?」
それを聞いてムっとしたサニーが訊き返す。
「ウェスターこそ何でここにいるのよ!」
「私は」瞳を隠すようにウェスターは眼鏡のブリッジを押さえた。「この町で起きた盗賊の事件について調べているところです」
セトルたちは顔を見合わせ、サニーとしぐれがニヤっとした笑みを浮かべる。これは好機である。軍との繋がりのある彼なら、自分たちが知らない情報を持っているだろうと思われる。
「なぁ、その話詳しく教えてくれへんか?」
ニヤッとした笑みを隠すようにしてしぐれが言う。
「……なぜです?」
眼鏡のブリッジを押さえたままウェスターは訊き返した。とりあえずセトルが今までの経緯を説明する。
「なるほど……私はてっきりアランが武器マニアだからここにいるのかと思っていました」
「そんなわけねぇだろ!」
ウェスターは本気でそう思っていないことはわかるが、アランは全力で否定した。
「というわけだから、何か知ってたら教えてよ」
サニーは無邪気な笑顔を見せる。しかし――
「……お断りします」
「何でよ!?」
「一般の方に教えるわけにはいきませんからねぇ」
「むぅー、ケチ!」
サニーは頬を膨らました。とその時――
――ドォ――ン!!
凄まじい爆音が町中に轟いた。
「何や!」
しぐれが叫ぶ。
「鉱山の方からだ!」
とアラン。
「――この音は火霊素爆弾……」
呟くようにウェスターは言うと、一人鉱山の方へ急いだ。
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