僕のとなりは!?(僕とな!?)

峠のシェルパ

消印と消し炭その三!?

 友人との歓談と言うものはいつの時代もつかの間の休息を彼らに与えるものだが今日もまた新たな友情というものが生まれそうである、
木々の暖かな木漏れ日が差し込む部屋で少女は常日頃心に抱いていた何かを払拭するかの様に他の人間の話を熱心に聞き、茶菓子を楽しげに頬張るのであった。
しかし悲しいことに人間は群体でしか生きられぬ生き物であることは長い時間で道具がいくら進歩しようとも変えることが出来なかった、群体の中で使用が許された限られた空間でさえも個々の領域として改変して周囲との摩擦をつくるなどどれだけ…
どれだけ滑稽で無知のやることだろうか、人は所詮独り善がりなもので自分の感情が第一でつくづく救えないというのに…
群体の中でそもそもはっきりなどするわけがない自分の居場所と立ち位置を周囲に認知させようと必死な様よ、他人と繋がりやすくなるということは自分の汚ならしい部分も他人と共有する恐れがあるのだとは考えておらぬのかの…?

少年少女の様子を小枝に止まりながら雀は観察していたが一度小さく鳴いてしまうとそのまま何処か適当な場所へ飛び立ってしまったのである…

「えっと…すみません、なんだかお時間を取らせてしまったようでこのあと予定とか有ったのでしたらまた今度ということにしましょうか!?お茶もすっかり冷めてしまいましたし」 

ふと部屋の奥にある時計を確認すると驚いたことにこの神社到着して早二時間も経っていたんだね、楽しい時間ほど早く過ぎるなんて言うけれどその通りだね、来宮さんが申し訳無さそうにしているけど僕らは午後の予定も特に決まっていなかったしそんなに心配しなくても大丈夫だよ。

「そう…ですねあまり長居してしまうと来宮さんも疲れてしまいますし、入学式の前に体調を崩されても私達が困ってしまいますね」

穏やかにお互いに微笑みかけるレイピアと来宮さんだな一番楽しげに彼女の話を聞いてたのはレイピアだという指摘はしないでおこう、
そう言うのはこのいいムードに冷や水をかけてしまうことになりそうなので僕は余計な事はしないスマートな人を装うのだった。

窓ガラスから侵入する穏やかな日光は今日の陽気が良いことを示している、風もなかったので小春日和の過ごしやすいと言ってた今朝の天気予報は当たりだね。
「それで、レイピアさんが仰っていたのですがこのあとは何か予定でもおありなのでしょうか?」
お盆に湯呑みをまとめながら来宮さんは僕らに聞いてきたけれど別に図書館の場所を微風があんないするっていう大した用事でもないし、時間的余裕はある…よね?流石に公共の図書館が午後三時には閉まるなんてそんなオチは待ってないよね?
少しだけ微風へ視線を向けると壁にかけられた時計と自分の腕にしている時計とを確認して少しだけ顔色が気まずそうに変わるのを僕は確かにそれを無かったことにしようとする彼を見過ごそうか少しだけ考えて、

「レイピア、もう少しここに居たかったらここに居てもいいよ、マスターにもらった地図もあるし会話も弾んでるみたいだし」
微風と僕らの時間は同じようで価値観によって無用か有用か変わって来るんだ別に無理をせずに等しい距離をおくことは大切なことなんだ。
僕だって四六時中レイピアと同じ場所に居て同じことをしているわけにはいかないし、流石にそれは男の子の純粋な部分でこっ恥ずかしいと感じるのである。

「え…う、うん涼くんがそういうなら…でもごめんなさい来宮さんこのまま弾むような午後の時間を過ごしても良いのですけれど」

僅かに僕と来宮さんに視線を交わして出した結論は、レイピアがわざわざ来宮さんにお辞儀をするなどかしこまって挨拶を交わすと僕らの方へ駆け寄って来るということだった。
僕は彼女の一連の動作に少しだけ違和感を感じたがこの場で何だと言うことでは無いと思って言葉をそのまま飲み込んだ、
「是非とも渡したいものがあるんですが、これうちの社務所と家の電話番号です。
お時間の許すときで構いませんのでこちらへ立ち寄る際や火急の用事がございますもしもの時の為に…」
付箋を僕が受けとるとそこには電話番号らしき数字が羅列されていたがそれよりも来宮さんが僕に手渡しするとき僕の手に軽く触れ…
「おう、それならばちょいと待っておけ…」
微風は服の胸ポケットからメモ帳を取り出すとさらさらと何か書いて来宮さんに、手渡しをする。
「我らが寮の電話番号だ、この番号に電話をすれば管理人が先に応対をしてそのあとで各々の部屋に電話が入るように設定されているので気を付けてくれ」
何の躊躇いも恥ずかしがりもせずに気遣いが出来ると言うのは何とも羨ましい限りだよ微風…

 相も変わらず僕ら以外の人一人居ない境内に出ると何処からかつまらないといわんばかりに不満げな北風が僕らに吹き下ろしできたけれどさっきまで暖かい暖房器具の下に居たのと緑茶のお陰でぽっかぽかなのでまるで平気である。

「すみません皆さん、急に来られたので今風のものなど全然出せず…私あの手の和菓子が食べ慣れているのでお出ししましたが何かご要望などありましたら言ってくださいね?」

洋菓子が好きなレイピアはともかく、僕はあまり何かを選り好みして食べる人では無いのでスナックでもくずきりでも食べるので
「いやいや、来宮さんのところへお邪魔する際に毎回御菓子とか戴くわけにもいかないですよね、微風さん?」
とここは微風に話を振っておいたのはレイピアが素に戻るのを防ぐためである。
そんなのことは余計な心配なんだろうけどね?
「それも…そうだな、菓子を持ち寄って菓子パでもするか?」
「えっと…カシパ?牧場ですか?」「それは牧場だな」「火事場の…?」「馬鹿力だな」「かしゅー」「nuts!」「お頭!空から!」「ふっ…我だ」

「夫婦漫才みたいのをするのはいいけれどすごいね即興で出来るもんなんだね…」
言葉の妙な略し方や捉え方をする微風さんとそれに振り回された来宮さんに僕は思わず突っ込みを入れた。

「む…こちらとしては即興というか打ち合わせもしていないのだが、こんな様に二の句を次々に継げる当たりもしかすると我らは案外と馬が合うのかもしれん、今後ともよろしく頼む…ます来宮さん」
最後は尻すぼみな口調になってしまったが頭を下げた微風に来宮さんも「あ…はい、こちらこそ不束者ですが…」と応じた。

何だかもう二人で場の雰囲気を作ってしまったので僕とレイピアは蚊帳の外にされてしまったのでは無いかな?
「レイピアさん、レイピアさん、これはあれだね」
「何かな涼くん藪から棒に」「後は若いもの同士で…って言って僕らはマスターのところにでも寄って図書館の場所を教えてもらおうかな?」「あー、いいねそうしようか」「それじゃあお二人様…」「「ごゆっくりぃ、」」
息の合ったコンビネーションをこちらこそ見せていきながらその場を静かに去っていくのであった…

と物語の終幕の様に言ったもののここで終わってしまうのもあっさりし過ぎているのでもっと話をしていくとしよう、
「さらりと我を置いていくんじゃァ無いぞご両人!!」
いやー、そんなこと言われてもー野暮はやっぱりいかんでしょうからね、馬に念仏唱えて蹴られますよそんな人は

「うんうん、うら若きことは良いことですよ微風さん、少年達よ恋慕を抱け!」「クラークだっかか、それ絶対そんなこと口走ってないぞレイピア嬢!!」
僕らが微風と来宮さんを境内に放置して暫くすると微風が走って追い付いて来たので何事かと思ったら僕らが彼を置いていった事に異を唱えたいらしい…
「いや、あの雰囲気を作ったのはお主らだからな?!」
あの雰囲気も何も僕らに他意はないし、別に走って境内を抜けたりなんかしてませんよ?
「頼むから我に走らせないでくれ、それはあまり得意な部類に入らんのでな…」
確かに微風、ちょっと疲れてない? 熱川神宮で少し休んでいった方がいいんじゃないかな、レイピアもそう思うよね?

「そうそう、それで来宮さんとお茶のんでもう一度ここまで…ってそれ無限ループで我…もしかしなくても寮に戻れないのでは…?」

いやー、それにしてもまるで小学生がイタズラで通学路脇に隠れるみたいな童心に帰ったような気持ちで微風を待っていたよ?
「それ初歩的だがすこぶる質の悪いやつなのでこれからはやめてくれよな?」
僕は別に悪戯とかそーいうのは得意じゃないし思い付きで動くこともあるから今回が上手く行ったからってこの先何回も出来る訳ないじゃないか、大丈夫だよ。
「涼くん、あまり人をからかうものじゃないです」
レイピア、顔をあげて言わないと言葉には説得力無いからね、
申し訳なさそうな口振りとは裏腹に彼女はとても楽しそうな表情をしているのを見るとなんとも僕らは気が合うのではと僕は思いたかった。
しかし、僕らの日常のなり損ないが今の時間であって僕らには解決しなければいけない問題がある。
三叉路に広がっている石畳の参道の手前で僕は立ち止まりふと考えた
このまま今日の様な安寧な日々が当たり前になっていくのか、
それとも僕はレイピアの親に有り体に言って消されたりしてしまうのだろうか、僕はほしいのは気の休まる日々なんだけれど
隣人は狂人で同居人は家出少女だし…なんだかなぁ…

「さてと…ここからは巻いていくぞご両人悪いがここからは本気で行かせてもらう…」
微風は静かにスタンディングスタートのポーズを取って…まさかさっきの意趣返しで僕らを置いていくつもりかい?!
それとも図書館に早く行かなければならない用事が出来たのかな?
「リミッター解除ォ!」
微風は勢いよく駆け出すと先ほど僕が中央でくぐり抜けようとして弾き飛ばされた鳥居まで走ったところで停止した。
僕らが微風を追いかけようとして走り始めようとすると
「いや…ご両人は走り出さんでいい、我の調子が今日は良くないことがこの数十Mではっきりした。
ここで(熱川神宮)で思い他時間を潰してしまった事に少し焦っただけのこと、実は昨日の待ち合わせは上手く行かずにおじゃんとなったので今日午後図書館へ向かえとの連絡が入っている、
互いに時間を合わせるのが苦手な質でなこの時間で図書館に向かうとなるともしかすると彼方が先にいるかもしれん…」

急がなきゃいけないのなら来宮さんとの会話に花を咲かせたのは失敗だったんじゃないか…
「まぁ、お互いに時間を守らないのは何時もの事だし、一回目でもないからな」 
そんな楽観的で大丈夫なのだろかと悲観的な僕からしたら思うのだけれど微風さんは歩みを少し早めた程度である、
「微風さん、時間を守らないというは後々で習慣になってしまうのはまずいと思いますよ?」
僕とレイピアの二人の心配を気にせず微風は小さく呟いた。
「我に約束などして馬鹿をみるなど当たり前ではないか、それを守れるほどの人間性と甲斐性を持とうとした末路が今の我なのだから…」
深入りするべきではない事を一人ひとつ位は誰しも持っているものだけどいきなりそれが露呈するだなんて誰しも予想していなかったことだよ。
「何にしても我とあやつとでは時間の制約など無くてもなんとかなるものなのだ! 要らぬ心配を掛けてしまうのは忍びないのでな、我が一人でそわそわしても季にしなことだぞ?」
わははと笑う微風をに困惑しながらも僕らはもと来た道から市営の図書館に少し早足で向かうことにした。

 それからしばらくして駅と神社の中間点から少し外れたところに大きな窓に覆われた白い三階建ての建物が姿を表した。
バス乗り場や数十台自家用車が止めたあり
「一階と二階が図書館で三階が市営の保育施設、一部コーナーは周防業施設と化しているがまぁ気にすることもなかろう、二階には自習室とパソコン室があるが今日は人探しをしなくてはならないので一旦別行動を取ろうと思うが…」
吹き抜けの明るいエントランスに自動ドアの近代的なお出迎えをしてもらったところで微風は別行動の提案を僕らに切り出した。
「えっと三人で手分けをした探したほうが早いと思うから自習室から隅々をみんなで探してみない?
微風さんの探している人がどんな人か特徴とか言ってくれれば僕らも当たりをつけて微風に報告してみようと思うんだけどその人ってどんな人なの?」

微風は深い溜め息を吐いて仕方無いと言いたげに僕らに
「あぁ、あやつはな…感情のある鉄仮面だ」
と謎の名称を提示してきた、
「なんというかな…なにも考えて無さそうで何か虚無の彼方を見ているような…そんな顔をしている、何時も得意げな顔をこちらに向けているが決して「相手を小馬鹿にする」や「自分の力を誇示したい」といった感情は奴は持ち合わせていないのだ。
端的に言うのであればこう…なんというか…」
「あれ?そーよーかーぜーさん?」「そうそう、こんな感じのせいたかあわだちそうの様な長身にたれ目のでこの広い満面のどや顔を広げたろりこ」
「どうしたんだい微風さん続けてくれて構わないんだぜ、お前が甲高い断末魔を俺に聞かせてくれるなら…ね?」
微風は数m先にいる男を見なかった事しにて僕の肩を穏やかな顔をして軽く叩くと
「電報 我、火急ノ知ラセ有リ。御両人へ戦線ノ離脱を勧告ス」
僕らに以上の事を告げて館内を足早に早歩きで、もと来た道を踵を返したのを同じように微風さんに話しかけて来た少年がそれを追いかけてこちらもちゃんと早歩きで追いかけていったのだった…。
えーっと、突然の事で流石に僕も状況が把握できていないのだけれど、要するに今から図書館の中に居るはずの微風さんの知り合いを探しに行こうとしたら目標の人間が入口近くで待ち構えていて、
微風の話すところによると集合時間を過ぎているので待ち人さんは大層ご立腹と…そういうことで合っているのかな?
「レイピア…僕らこれからどうなっていくんだろうね?」
階段飛ばさずに早歩きで下っていく微風さんと追いかける男の人を横目にこれまで素の自分を隠してきたレイピアに話し掛ける

「うん…未来を予測出来たら世界は予定調和で出来ていることになるし、そんなの全然楽しめないよ。
想定外の事が起こっちゃうから大変だけどやりがいが有るんじゃないかなって私は思うのです、結果だけじゃなくて道筋を考えなくちゃ」

レイピアの言う通り、僕らがやるべき事をやりたいこと一緒にやれば良いんだ、根を回して気揉みして杞憂に終わるならそれでいい、自分への見返りとかの為に他人に気を回し過ぎて自分の首を絞めてしまっては意味がないからね。

「おら、微風さん待つんだよさっさと止まって楽になれぃ~」
「それあれだろ、息の根止めるって意味だろ! 貴様の二の句などたかが知れてるのだよ!」「違うぜ微風さん…俺が止めたいのはこ・ど・うなんだぜ?」
「だからほぼ同意でしょうが辞典引け旅人、広辞苑とかおすすめだぞ?」
他の人を避けつつ本の棚で見え隠れする二人にはTPOと言うものを第三者の視点からお灸を据えなくてはなるまい…あくまで微風さんが待ち人に捕まった後でだけど
「ここ結構広そうだけどねえ涼くん、あっち見に行かない?」
こっちは微風より図書館に興味を持ったレイピアの相手をしなければいけないので悪いけど微風…僕らは散策に出掛けようと思うので一旦別れることにしよう?

「あー、ちょっと待つんだぜお二人様」
回れ右をして二階への階段の方向に向かおうとしたとき微風を捕らえたのっぽの少年が僕らを制止する、
「これ(微風さん)少し借りてくよー別に微風さんに用事があると言うわけでも無さそう…そうだよね? 因みに俺は旅人さんって言うんで以後お見知りおきをお願いするぜ☆」

微風さんが卍固めを決められているのをレイピアは心配そうにするのを見て純粋だなーと思いつつ、TVでプロレスの放送があった後の中学生男子のごとく軽いノリで固めたり投げたり、絞めたりするあの謎のテンションを思い出し少し懐かしく思ったりしたが、口出しはせずに僕らはまたキャラクターの濃い人と知り合ってしまったこれからが少し心配になったような…ならないような
一先ずこちらに害意はないようだし微風さんとの話し合い()が終わるまでレイピアの興味のある本でも探しに行くとしよう。
インクと紙の独特な匂いを鼻の奥で感じながら知識と空想の世界へ埋もれに行くのであった。

次回へ続くんだぜ☆

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