僕のとなりは!?(僕とな!?)

峠のシェルパ

番外の1!

さっきは色々あったわけだけど夜はゆっくりしようと思った、確かにもう緊張の糸はほどいたはずだったのだけれど…まさかあんなことになるとは僕もまさか予想できなかったなんて不吉な始まりかたは勘弁してほしいものだけど、

「だれが見ても貧乏クジを引いてる様にしか思えないんだよな…」
肩をうなだれながら深い溜め息混じりに僕はすっかり暗くなった夜道を一人でぶらぶらしている。
何か嫌なことがあってこんな時間に散歩に出たのかって聞かれたらそんなのないよと答えるし、そもそも散歩は目的意識をもってするものじゃないしね… 
「はぁ、どうしてこうなったんだろう…」

話は遡ること三十分位前のことだ
以下回想…

「あっ…涼くん!!」

ホカホカと湯上がり姿の少女が寝巻き姿でドライヤーをかけながらそれに負けないような大声で突然僕に声をかけた

「…え、いきなりどうしたのレイピア」
全く状況がいまいち掴めないし
ドライヤーの駆動音であんまりレイピアの声は僕の耳には聞き取れない…あれかな音楽家によくある耳が聞こえなくなるあれかな?

「り……き……もの!!」
ごめん、本当によく分からないからもう一度大声で言って欲しいんだけども?

「…ず…わ……もし……!」
「ズワイガニ」って言っているのかな?
僕はあんまり食べた事無いけど高そうだよねあの甲殻類一匹どれくらいするんだろう

「あぁ、もう! 涼くん忘れ物をしたかもしれないからとってきて!!」
そうだよレイピア、ドライヤーを切ればちゃんと君の声は聞こえるからね、
って何だいレイピア忘れ物をしたかもしれないからとってきてだなんて急に言われたって困るし君が取ってくれば良いじゃないか。

「寮の談話室とかならまぁこんな格好でも大丈夫だと思うけどほら、忘れ物をしたのはゆずのきさんなんだよ!」

なんだってー? それはたいへんだー
「また一体何を忘れてきたの?」
「えっとねー筆記用具!ふでぼっくす!」
なんでまた中途半端に英語にするのさレイピア、某芸能人かな?

「それはいいんだけどさレイピア、洗面所に多分コンセントの差し込み口はあったと思うからわざわざ居間に来なくともいい気がするのだけれど?」
僕からすると流しっぱなしのラジオの音が阻害されるし僕にとってはあんまりいいこともないんだよね…
「えー、ゆっくりしたいじゃん~折角お風呂入ったんだよ?」

ゆっくり、ゆったりするのは確かに良いことなんだけどさなんかこう…
色々落ち着かないのである。
本当のことを言うのであれば…色々と目の毒な感じがするのでお風呂とか入ったらそのまま寝てほしいまである… 
部屋着とか野暮ったいジャージなんだけどさ、ちゃんと女の子してるので困る。
具体的に言うと僕がやらしい人に思われそうなので言わないけどさ、僕年頃なのだ。

「えー、それでもうお風呂に入ってしまったからまた外に出るわけにもいかないので僕に白羽の矢が突き刺さったって訳ね…
というかあそこに行った時はレイピアなんにも持って無かったじゃないか」

「あー、てへ?」「僕に誤魔化しが効くと思っているなら随分と僕を過小評価してるねレイピア?」「違う違うよ!」「ふーん?」
「実はというとゆずのきのマスターにお世話になったときにまだ御礼してないの、
あの人そういうことはやんわりと断ってる人だから私から何かしようとしても受け取らないんだけど…
涼くんがそれを知らないままマスタに 「レイピアから贈り物でーす」ってすれば流石のあの人も受け取ってくれるからね?」

それならそうと最初から言ってくれれば別に断ることは無いのに…
僕も外へ出る用事が無いわけでもないのでそれくらいはいいんだけどここら辺にコンビ二ってあるのかな? 

以上回想でした。

「まさかレイピアが花束買っていたなんて…そういう気の使い方出来るんならこっちにもちょっとは…」

恨み節をしても仕方ないので僕は夜道を花束を持って歩いている少し不審な人になっているのである。

少しだけ曇りがちで都市部の明かりが雲にうっすらと浮かんでいる、そんな夜だった。
それほど昼間から気温はさがっていないのでコートの一枚も羽織っていないがその勘は当たったようで風もなく穏やかで温かい夜だ。

「頼まれたのはいいんだけど…」

思い返すと大変なことに巻き込まれてしまった気はするけれど一度しかない高校生活なのだから何にも無いってよりかはいいのかもしれないけれどまさか寮室の同居人となったのが家出した少女なんて…
僕の普通の生活は一体何処へ行ったしまったんだろうか、
挙げ句のはてには隣の部屋から強襲をかけられて殆んど一方的に殴られるという展開に発展するなんて… 
溜め息ばかりついても仕方ない、

僕がいる場所は午前中にレイピアと少し藍斬という刀の力の一端を見たところだった。
トンネルのこもって少し肌にまとわりつく様な空気と強い朱色の水銀灯が僕の薄ぼけた影を異様に長く背伸びをさせていた。
しかし、背伸びをしているのは正しく自分で人を助けるなんて門外漢なことをしている自覚は僕にはある。

あの子を匿う事で僕は利益を得るのか…No

むしろレイピアの家の人から目の敵にされるのが見えているので不安が残る。

僕はレイピアを助けたいと思ったのか…No

そもそもレイピアを助けたわけじゃなくてD51が気に食わなかっただけであってレイピアのことはその結果にすぎない。
それも彼女の話を鵜呑みにするのが前提条件で…

頭の中の正義感はしきりに頷いて僕のしたことを肯定するがもともと正義感なんて僕のなかでごくごく小さいもので
彼に従うとあんまりろくな目に会わない、
他人の理解を得ない正義感とその言動はお節介とありがた迷惑、そして独り善がりの自己陶酔にまでなったらそこからは
周囲への人間関係の再構築や修復に時間をかけなくてはならなくなる。

どこからかテンポよく何かが走ってくるのが聞こえるのだが何だか既視感があるんだがこれは…昼間のときも聞いた気がする、
自分の回りの環境はこれから先どうなってしまうのだろうか、僕の溜め息の種なんて夜の闇に溶けてしまえばいいのに…
ふと自傷的になりため息すらつきたくなくなる、
目線を上げても眩しくて目が眩み自分の位置が分からなくなるし僻み嫉みは人並みに持っている、そして下を向けば影に引きずり込む河童が手招きして足へ引きずりこもうと画策しているのである。
そんな考えを持ってそういえばここでいても仕方がない話かもしれないな…
「うーん、僕は一体どう生きればいいんだろうな…神様っていう人はこうも残酷なんだ」

「人間なんて罪深く欲深い生き物だ。
都合のいいときと悪いときになんでもかんでも手前のせいだなんて言われたらたまったもんじゃねぇからなー。
お互いが依存しない程度の関係が良いってこった、
神様なんかより人間様の方がよっぽど有益だぜ?」

振り向き様に僕は背後でそのふざけたツラをしている男に後ろ廻し蹴りを仕掛けてみたのだが難なく身を反らせるだけで避けられてしまい、なんとも格好が悪くばつが悪いことになってしまったのだが奴の顔には不意を突かれた驚きは無く想定内だとでも言いたげに笑っていた、

正直勘弁してほしいのと花束が若干崩れたのは内緒でお願いしたいところだが…

「なんだい、ストーカーしてきたっていうのであれば本当に質の悪い野郎だなって君を侮辱してあげるけど、なんであんたここにいんのさ」 
僕は苛立ちを隠さずに正直に言った。

 水銀燈の真下で僕は三日月の獰猛な笑みを浮かべる少年と再び出会う、
僕にとっては一番出会いたくないタイミングなのだが彼はそんなことは知ったことではないんだろう、数時間前の今でよく気さくに話しかけたよねコイツは…

「昼間は捜索、夜間は特訓…というか自主練やな、部活はまだ何処入るか決めてないが少なくとも体力があって損をするような部活はほぼ無いだろ、んん?」

僕に歯牙もかけてないのかそれともそれは気持ちの切り替えが簡単にできる質なのか…
話す調子は変わらずにあまりにそれとなく明るく気を使わない話し方…嫌だな

「はぁ、それで訓練中の君はそのまま銀河の彼方までさぁ行ってきて下さーい、そう
徒歩でね、そして帰ってこないでどうぞ」

気の利いた台詞でも言ってあげれば良いのかもしれないが残念な事に僕はこの人に対して警戒心と敵対心無しには出来ない。
さっきのある意味一方的な死闘の果てに僕が得たものはただの猶予だけと言うのは何だかタダ働きな気がしてきた…
人を助けるなんてことはやはり見返りは求めず適当な感じでやるのがいいなってそう思う事にしよう。

「銀河の彼方かー、ブラックユーモアにしてはぶっ飛んでるなぁ」

立ち止まる必要はお互いに無いのだが不思議なことに僕と奴のにらみ合いが続く、
この人の余裕綽々の笑みは、自信は一体どこから来るのだろうという疑問を抱いていきながら僕は花束を投げ捨てる事も出来無かったがこの沈黙を破ったのはもちろん僕ではない、

「妬むってのは人にとって一番の希望であると思うぜ北村くんよ、そうは思わないかい?」

いきなり何をいうかと思えば…君はそういう詭弁みたいなことを言うのが得意なんだったね、基本的に目の前の少年とは僕は相容れないと僕は感じているのだがお相手はそうは思っていないらしい…
あの時もう一発多く彼に攻撃をしていればこんなにも絡んでは来なかったと僕は今さら後悔した。
本音を言うと…こいつは不気味だ、話していると人間が得体のしれない怪物の様な面を被っている

「何を言っているんだこいつはって顔をしているね」
読心術か心理学でもやっているかの様に僕の様子を観察しているんだろうと予測する。
恐らく僕は自分の表情が過剰に出てたりすると仮定し眠る様に自分を作り替える、レイピアと一緒にいたせいで感情が表へ出過ぎていたのかと少し反省する。

本来の僕はもっと無色の空気の絵の具があったらこんな感じなんだろうと何処にでも溶け込めて味気ない奴だったのだから…
それを思い出させてくれたD51には感謝することにしよう。

「ありがとうD51、君のお陰で少しだけ元へ戻れた気がするよ」
僕は再び歩き始めて数歩彼の前に出ると無味乾燥ににこやかに言ってやった、
空っぽな笑顔というやつで目の前の狂人を強烈に驚愕させてやる。
歩みを止めるつもりは無い、自分の足で自分の意思で僕はここにいるのだ、
逆上せた思考を冷すように
冷めた目を少しだけ暖めて。
断じてあの少女の駒使いや露払いになるつもりは毛頭無い、
あの子の周囲の人間には上か下の人間しか居なかった事で…内向的になるはずなのだが…
今からしたらあの明るさというのもかなり不自然な気がするんだけども
「演技なのか、計算なのか、それとも?」 
「おーい、もしもーし?」
気づいたことなのだが時間的なこともあるだろうが昼間は自動車がひっきりなしに通っていたこの場所は人通りも車通りも殆んど無くなっている、
二車線あるので市道位の規模なのだろうが不自然な位に静かだ。
背後から声がするが別に僕は興味がないので反応してやる必要もないだろう、僕には関係の無い些末なことだ。

「はぁー、無視決め込むのは別に良いけどよ、吾が輩が…吾が輩が君の匿っている少女を追っている奴だってことを忘れてるとは言わせないかんな?」

僕の靴の音の直後に背後で狂人の声とが反響するがもうそろそろガード下のトンネルも終わりが見えてきた、
僕らの寮からこのトンネルは町の中心部と半分くらいの距離にある、
マスターのお店はかなり奥まった場所にあるので昼間と違う雰囲気を放つ今の時間位に見つかるかはちょっと分からないけど…

「ゆずのきってそもそもこの時間にやっているんだろうか?」
ふと不安が頭をよぎるが、レイピアがあそこで少しだけお世話になっていたところを考えると多分大丈夫だろう、
無駄足になるなんて事があるなら僕もとことんツキが無かったじゃないかと思う他無い。

「え~、ガン無視かよー吾が輩さん傷ついちゃうぞー?」
僕は君に興味ないんだよ、この場からさっさと去ってしまおう。
書類を出す用事も僕もあるので僕はマスターに郵便局の場所を聞かなくてはいけない、
ゆずのきの空いている内にマスターに花束を渡しに行かなくちゃいけないんだから邪魔はしないでね
そのまま振り返ることもなく僕は雲をもぼおっと照らすネオンライトが色とりどりに輝く眠らない街に…それは流石に怪しい場所に行くみたいで嫌だな、
「よし聞いてみよう…そうだな、君はこの明るい夜をどう思う?」


ふと考えたどうでもいいことを僕は独り言のように彼に投げかけた、
暗夜行路という作品が文学だったか絵画であった気がするけれど電気で作られた現在において灯りが完全になくなることなんてそれこそ停電の時くらいだ。

さっきあんな大事な喧嘩をしておいて今更仲良くとかしたくないしレイピアはきっとキッと敵対心を露わにしそうだけど僕はそこまでこの人に関心ないし…
と視線を向けることなく僕はD51の意見を聞いてみることにした。
僕と意見が合うからどうという話だがせっかくの同級生だしこんな質問をして変な反応をされたらここを早急に去ることにしようと思う、

「こんな明るい世界嫌いだね、年がら年中ピカピカして何がしたいのか良く分からないしさ、世界のすべてをを自分の意のままにしたいというのはずいぶんとまた傲慢だよ。
宇宙飛行士がよく見る風景だね、明るい地球は北半球の半分くらいに集中している
日本なんて特にそうさ、明るくて敵わない。」

いかにもそれはひねくれものの回答に聞こえた。
立ち止まって立ち聞きする気は無いのでそのまま目線も合わない。
振り向くこともせずその中身を分析する、一先ずお得意の嫌味を含んでないな

「それは良かったねー」 
夜の並木を眩しく照らしているLEDを見上げて僕らは憂いを帯びた溜め息を漏らす…

人は未知を恐れる生き物だから闇は克服すべきものとしての明かりの進化は目覚ましいものだが、それに呼応するように科学は進化して人びとは自然に畏敬を示すことを
夜を恐れることを忘れてしまったのでは無いだろうか…
しかし、人類の叡知で作られた人工の光を僕らは享受している。

「それでー、したい質問はそんなもんじゃないんだろ?」 

僕を追い越したD51がこちらを向いて僕へ今度は質問を投げ掛ける
今渡ろうとしていた信号機が赤へ変わったのだがD51の奥でぼおっと妙に鮮明に見えていた。
確かに僕は月が綺麗ですねみたいな事を言いたい訳では無かったと言うことだよ。 
色々とこの人には見透かされてばかりでなんだか開き直ってしまった方が早い気がしてきたよ。
道化に見える滑稽な身ぶりと言動に未だに信用度はゼロだけれど、そんなに形振り構ってもいられないのだと僕は危機感を感じている。
それは僕がレイピアを連れ帰る依頼を受けた彼をある経緯があるものの撃退いるからである。
レイピアは気にせずにいるが彼女の家がどの様な行動をを講じるかと言う点で…
D51はその家の人と繋がりを持っていた…なら…

「正直に言うなら君は僕に情報を売ってくれるのか?」

悪魔と取引するには魂をかけなくてはいけないが、この世の中は情報は金よりも重く価値があるものだから…
僕はどんな要求が来たとしてもそれに従う気だ。

目の前の狂人的な悪魔の眼鏡の奥で眼光が強く光りさも楽しそうな顔をする…
横断歩道の信号は既に色を変えているので歩行者の僕らは渡って構わないのだが、 僕はその場で金縛りでも起こしたかのように指の一本を動かせないではないか!?

「あッはァ! 吾が輩にそんな要求をしちゃっていいのか~い?」

人間は時に悪魔より恐ろしいと言うが確かにその通りだと僕は街の中心部の外れで後悔するのだった…。
というより横断歩道渡ったところに郵便局あったし少しだけ帰りたくなった。

「うーん、君にそんな覚悟があるなんて到底思えないのだけれどいいのか?
言っておくと吾が輩は嘘八百並べる人間は分かりやすくてぶっ転がしたくなるからなー無事に帰れるといいな」

冗談に聞こえない調子で言うD51、両手に炎が一瞬見えたのは気のせいであると信じたい…
…季節外れの寒気で全身の毛がピリッと張り詰めたのもね
人の感情を全て把握することなんて不可能だと思うけど僕はD51の地雷か何かを踏み抜いてしまったのではないかと予測して
彼の鬼気迫るそれに正直にびびってる、
何だってこんなに怒って…
狼狽えながらも虎穴に入らずんばなんとやらで

「なんでもと言ったって僕にだってできることとできないことがあるんだ、
君の金銭感覚が良心的なものならまだ対応できるけど…!!」

予防線を張るあたりなんとも格好悪いことは僕も同感だけど、この場でドンパチに突入したらそれこそこの人に殺させるんじゃないかなんて思ってみたりしたから仕方ないと後から僕は自己肯定をしよう。 

「なぁ、なぁなぁなぁなぁ!!
いいんだな、吾が輩の要求を飲むってことで異存ないんだよなぁ!?」

わざわざ身ぶり手振りを使わなくても良いだろ、端から見れば僕がカツアゲされてるみたいじゃないか、何それ嫌すぎません?
始めましてで喧嘩にまで発展されてそれから何時間も経っていないのにこんどは路上で絡まれてるとか…
この物語の登場人物ぶっ飛びすぎじゃない?
もし僕の人生を綴る物語があったとしたら著者の神経を疑うよね、不幸すぎるよ。
一体この人はどんな要求をこちらへ突き付けるつもりなんだろうか、その場で考え込んだ為にまたもや横断歩道を渡れなかったのは内緒である。
D51は勿体つけて深呼吸をした後で下衆の極みにか見えない顔で僕に対しての要求を吐いたんだ…

「今日はボスの気分だからそうだな、ボスでいこう」

ボスと言われてもな…僕の辞書を調べてみてもピンと来ない、首を傾げることはしないけれどD51の要求はあまりに主語とか述語が無いので此方も反応に困る、

ボスととは一体なんだろう…? 何かの隠語とか僕に仕掛けるプロレス技の通称とか…
日本語(外来語)としての意味は勿論分かるのだが荒唐無稽な要求に頭の理解があんまり追い付いていないが分かったふりをそれとなくしておこう…バレそうだけど

「ボスかグルジア…それともファイア?」

いや、よく分かんないから!
と突っ込みを素直に言えれば楽なんだけど
あまりこの人を刺激しない方が身のためなことは僕にも分かることだ。
情緒不安定でいきなり殴りかかってくることが無いとは言いきれないからね。
ここは彼に言わせるだけ言わせてしまおう

「どれが好みなのか正直に言ったらどうなんだい?」
一回見逃し信号がやっと変わったことで僕らは横断歩道をわたりながら話を続ける、
話がよく見えてこないのは内緒の話  
聞いてみたは良いけど辻褄を合わせて会話にするのは果たして正解だっただろうか…
気にせずにD51は歩いて行くのをどこへ向かうのか僕は気が気でなかったが
「君あれやろ、ゆずのき行くんやろ?」
D51はイントネーションのおかしな関西弁でそのままゆずのきへ連れていかれた訳なんだけれど…これ本当に大丈夫なのだろうかと不安を抱えながら怯える事は無いけど少し反省するもしもの時を考えていたのは内緒である。


 はてさて、結果からすると僕としてはレイピアからぱしられもとい任された花束を無事に届けることができたし、
殴打や罵倒などの果たし合いの後も無しに無事に自分の寮室へと戻ってこれた。
レイピアが少しお腹が空いたと夜食にカレーライスを食べていたところに出くわしてしまって、
彼女的には乙女として見られたくなかったらしく恥ずかしいからとまたもやシーツを被って拗ねてしまったのは話しておくとしよう。
そして話はD51の要求の謎をレイピアにのんびりと説明するところだ。

「えーーーーー 
 涼くんまたあんな不良みたいのと一緒に夜の町をあるいてたの!?
危ないよ、路地裏に連れ込まれて殴られたりとか根性焼き入れられたりとか美味しい儲け話とか吹っ掛けられてない?!
騙されちゃダメだよ、あーいう類いの人の「心配ないって大丈夫だから」が一番信用ならないんだから!」
因みにレイピアの家の情報を第三者(D51)から知りたいと言うと波風が立つので彼女には喧嘩した仲直りと小さな嘘をついている。

シーツを被り座敷わらしモードのレイピアが真面目な話をしても可愛らしく思えるというか…ものすごくシュールなんだよなぁ

シーツの中にいても体の動きとか口調で騒がしく元気が良いのが分かるし何より発言の裏を考えなくて素直に話せるからいいな…

「それで、グルジアとかファイアとかボスとか何の話だったの?
私にはさっぱりD51の要求したことが分からないよ」  
首を傾げている❬←様に見える❭レイピアに少しだけ考えさせてそろそろ答えをレイピアに教えてこの話を終わらせるとしよう、

「レイピアでも答えが導き出せないのは分からないでも無いよ」
僕はシーツを被った座敷わらしの頭であろう場所に手を置いて話を続ける、

「D51はなんというかひねくれものだっていうのは薄々気づいてはいたんだけど、この謎はなんというか意図的に弄っているのが彼らしいと言えばらしいんだ。」
レイピアはふーん、と言うだけで頭に手を置いても気にしない様で僕は構わず謎を説明する。
D51が夜の町で僕に行った要求とは…?!

「グルジアって中央アジアにある国だったと言うのはレイピア知ってるかな?」
「え?」「やっぱりかー、」「やっぱりってどーいうこと?」
「グルジア共和国は数年前に英語読みのジョージア共和国に改名しているんだけど、それをD51の発言に当てはめると
ジョージア、ファイア、ボスってなるんだ」
つまりはさっき僕がD51に連れていかれたのはまめのきの後で文明の産物とも言える場所に連れていかれたのだ。
何処に連れていかれたかと言うと、24時間営業で何時までも明かりが絶えない場所。
つまりはコンビニエンスストアである。
明かりが眩しすぎてこんな世の中は嫌だと言っていた人からは想像できない回答だった。

「知ってないと分かんないんだけどさっきレイピアに言ったジョージア、ファイア、ボスっていうのは全部缶コーヒーの商品名なんだ、つまりはコーヒーおごってと言いたかったみたいなんだ。
全く、ひねくれてるよなぁ…」 

D51の要求は自身が持っている情報を缶コーヒー一杯で売り渡すと言ったのだ。
それについては僕に対して

「ばか野郎お前、人に金をやるってことはそれだけの価値をそいつが持ってるってことだ。
吾が輩の情報はせいぜい参考程度にしておけよ北村、情報なんてのはそいつの印象付けされた着色料満載のかき氷シロップみたいなもんだ、あれ全部違うものに見えておんなじだぞ?」

缶コーヒーを片手に僕がした質問にさらっと答えた。
その後は「Gute nucht」と謎の挨拶をしてコンビニのゴミ箱へ投げ入れたあとで軽くストレッチなのか軽く体を動かして走りだすと
夜の闇にゆらりと溶け込んでしまって、
彼の走る足音だけが取り残されたかに思えた…



忙しなく帰路に着く夜の帳がすっかり降りた町並みを、
月明かりに照らされた薄明かりの静かな夜を、
しっとりとして心を落ち着かせる雨音のノクターンを、
貴方は最後に何時気にかけましたか?




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