俺は異世界でブリーフをかぶる

川島晴斗

11話目「魔王眷六らしい」

 その後夜まで寝てたらすっかり回復していた。
 とりあえず生きてるし、レイクの怒りも去ったようでよかったよかった。
 起きてからミスズに羽交い攻めにされたけどな。
 ほんでもって……

「……なにこれ?」
「見てわからないんですか?手錠ですよ。どんなに怪力を持ってようと魔法でしか壊せない物です」
「……俺、戦えなくね?」
「戦うんですか?」
「戦わないけど」

 じゃあいいですねと言い、ミスズはその場を立ち去った。
 廃屋ばかりの街で、俺は1人だけ別の家の中にブチこまれ、腕に手錠をはめられながら横たわっている。
 ちょっとこれはどういうことなんだ、俺の勇者パワー(寝た力)は尽きてるから手錠もほんとに壊せないし、今ならゴブリンにすら負ける用意がある。

「もし俺がここでおっぱいって連呼したら、みんな来てくれるかな?」
「来ないんじゃないかい?」
「誰か来た!?キャアアアアアア!!!」
「…………」

 叫び声を上げると誰かは黙ってしまう。
 誰だお前、暗くて顔が見えんがちっこいな。

「……おにーさん、こんな所で何してるの?」
「女の子をスライムねちょねちょの刑にしたら逮捕された、みたいな感じ」
「……そっか。バカだね」
「バカって言ったらパンツになるよ?」
「ならないよ……。というか君、面白いなぁ。歴代勇者の中でも――」
「中でも?」
「……とんでもなく頭が悪そう」

 とんでもなく失礼な事を言ってくるが、あながち間違ってないのが悔しい。

「つか歴代勇者知ってんの?俺みたいに寝たら強くなったりする?」
「……寝たら強くなるって、ちょっと……わ、笑わせっ!ププ、ひ、酷い能力っ」
「別に酷くねーだろ。足の爪磨いだらビーム出る、とかより遥かにマシだから」
「……それはそれで見てみたいかな、フフッ」

 優しく笑う黒い影。
 声からして女の子っぽいが、背丈が120cmぐらいしかないんじゃないか?
 どーなってんの。

「とりあえず君、俺に出会ったからにはパンツを寄越したまえ」
「嫌だよ。はいどーぞ、って差し出すほど変態じゃないからね」
「じゃあパンツ舐めさせてください」
「……ほんとに勇者なの、君?」

 自分でも勇者じゃないと思えてきたから自重する。

「それより、お前誰?」
「ボク?ボクは【魔王眷六】のヒセイ。君の敵だよ」
「……ん?【魔王眷六】?」

 【魔王眷六】ってどっかで聞いた事あるな。
 なんだっけ、トイレ掃除の人?

「いつもお世話になっております」
「……いや、頭を下げられる意味がわからないんだけど……」
「細かい事は気にすんな!それより、なんか用事?なんもないならこの手錠解いて欲しいんだけど」
「……用事、用事か。ククッ、凄いね、今代の勇者は」
「おう、俺は凄いぞ。主に舌の回り具合が」
「……そうだね。ここまで戦う気が起きない勇者は初めてだ。しかもうわっ、パンツ被ってるし」

 今更俺のブリーフが目に入ったのか、一歩身を引かれる。
 全身から近付いちゃいけないオーラ出てるからな、俺。

「まぁ、それは解いてあげようかな」
「ん?」

 ガチャンと何かが外れた音がする。
 手錠だ!手錠が外れたぞ!

「うっひょひょーい!!これでおっぱい揉み放題だぜー!!」
「揉ませてくれる子も居ないだろうに、何を……」
「ヒセイ、揉ませてくれてもいいんだぜ?」
「ボクぺったんこだし……ああ、向こうで温泉が見えたから、そこに行けば?」
「なんと!!それはけしからん、ただちに行かねば!!じゃあな!ヒセイ!」
「あははは、行ってらっしゃいっ」

 なんだか知らないけど、トイレ掃除のロリっ子(?)に福音を聞いて俺は走り出した。
 ……あれ?ロリっ子がトイレ掃除っておかしくね?

 なんか今更感が強いし、こんどどこで働いてるのか聞くとしよう。



 ――――――――――――――――――



「いやぁ、頭おかしいなぁ……」

 勇者を見たボクの感想はそれだった。
 あんなに頭のおかしい輩は人間でも少ないであろう。
 口を開けば変態発言だし、まともな所がないんじゃないかと疑わしい。

「なるほどね、あれならカエンが泣いて帰ってきたのもわかる」

【魔王眷六】の1人、赤い髪を持つ少女の顔を思い浮かべる。
 魔王様以上ではないが、彼女は特に変態が嫌いだ。
 帰ってくるなりボクに泣きついてきたから何かと思えば、へぇ……勇者ね?

「面白い……戦うのが楽しみだ」

 この先に起こるであろう戦いを思い、ボクは笑みを浮かべた。



 そんなものは無かったと思い知らされるのは、それから数日先の話であった。

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