俺は異世界でブリーフをかぶる

川島晴斗

7話目「初めての外出」

 半日爆睡して、俺はいろいろみなぎった体でルンルンお買い物に行こうとした。

「……ちょっと待って」

 しかし、通路でミカレーに捕まる。
 ちんちくりん魔法少女が何の用じゃ。

「どうした?胸が大きくなったからブラ買ってとな?ブラを着けた姿と着替えシーン見せてくれるなら買ってやらんでもないが」
「……これ」
「ん?」

 俺の軽口は無視され、ミカレーは布袋を渡してきた。
 中には銀貨が10枚ある。
 これで5000円相当だなぁ。

「なに?くれるの?それともお使い?」
「……綺麗な景色見れたのと……あの箱を使わせてくれてるお礼」

 そう言って、いつも無表情な彼女はニコリと笑った。
 ……ははぁん。

「ついにミカレーにフラグが立ったようです」
「……それは死んでもあり得ない」

 俺の妄想はあっさり打ち砕かれるのだった。
 くそう……みんな美少女なのに、なぜフラグが立たないんだ……。

「……変態が、何を悩んでるの?」
「モテない理由だな」
「……変態だからじゃないの? ……変態じゃなくてもモテなさそうだけど」
「…………」

 都合の悪いことは、聞かないのが一番だな。
 俺は現実逃避して、悲しさとみなぎる力を全開にして外に走るのであった。



 ――――――――――――――――――



 おかしい。
 もう30分は走ったぞ。
 半日寝たから体力はあるが、おい、なぜ着かない。

「……バカなの?」

 ほうきで空飛んでるミカレーにツッコまれた。
 履いてたのはスカートだったのか、パンツ見えてるぞ。
 疲れててあまり嬉しくない……。

「つかなんでお前いんの……」
「休日……今日はみんな休み……」
「へ?ああ、そうなん?」

 俺は昨日管理室に行ったが、この世界の文字なんて読めないから休日なんて知らんのだった。

「……ミカレー様ミカレー様。後ろ乗せてください」
「……後ろから触られそうだから、やだ」
「後ろから髪の匂い嗅ぐだけだから!!スゥハァスゥハァいうだけだから!」
「……絶対乗せてあげない」
「ぐぬぅうう!!!」

 本当は後ろからあんなところやこんなところを触りたいの我慢して匂いだけで妥協したのに、ダメだったらしい。
 くそぅ!どうしよう!?

「……ちなみに、ここからだと、歩いて1日は掛かる。村までね……」
「……お前ら、どうやってそんなところまで行ってるんだ」
「……私の転移魔法」

 あっけらかんと解決策を言ってくれるミカレー。
 そうだ、それだよ!
 転移魔法があるなら言ってくれればいいのに!

「ミカレーちゃーん!転移魔法つーかわーせてーっ♪」
「……1回金貨1枚」
「…………」

 金貨1枚で5万、俺の財産は円で換算しても2万にしかならない。
 こっ、コイツ……!
 俺をバカにしに来ただけだろ!?

「くっそぉぉおおおおおお!!!!覚えてやがれぇぇええええ!!!」
「……がんばれー」

 俺が全力疾走する姿を、ミカレーはずっと後ろから付いてきていた。
 コイツもコイツで暇なんだなぁと思いつつ、俺は草原を走る。
 もはやマッハと言ってもいい速度で走る。
 ひーはー!チート最高ー!
 音速より速いぜー!!
 …………。
 ……。

「…………寝た力が切れるとか、もう人生終わった……」

 そうして走ること数十分、ついに寝て溜めた分の力が尽きた。
 そんなばかな、これではチート勇者ではない、ただの変態だ。
 頭に被ったブリーフが髪に粘つく汗に蒸してしまっている。

「……やべーよー。ミカレーたん乗せてよー」
「……ふふ。……やだ」
「今の「ふふ」はすげー可愛いかった。俺のハーレム入りませんか?」
「……1人も居ないのは、ハーレムって言わない……」
「現実を突いてくるなぁぁあああ!!!」

 人の弱みばかり突いてくる魔女っ子に対し、俺は寝るという対抗手段しか取れないのだった。

「ミカレーたん、一緒に寝ない?」
「……死にたい?」
「おやすみ!」

 1人で草原で寝た。



 ――――――――――――――――――



「ミカレーが付いて行ってしまいました。これはフラグが立ったということでしょうか……?」
「無いな」
「あり得ませんよ」
「その確率は2%ですね」

 オリオンにて。
 水の巫女と呼ばれる少女のもとに3人部下が集まっていた。
 1人は水色の龍人、セスタ。
 2人目は非番で私服のレイク。
 3人目は人魚なのに眼鏡インテリな巻き髪の少女、クラムだった。
 今日は暇だから座談会でも、ということなのである。
 ミカレーがあの変態に付いて行ったからフラグでも立ったかと審議するも、3秒であり得ないという結論に至る。

「というかミスズ様、なんであの変態をここに置いとくのですか?百害あって一利なしですよ」

 レイクが呆れ半分に主君に問う。
 毎日のように誰かからパンツを盗むあの男を置いておく必要性はまるでないのだ。
 しかし、ミスズは笑ってこう返した。

「楽しいからよいのです。それに、私に対して対等な友達というのは久しぶりですからね」
「むしろアイツは奴隷にすべきでは?」
「奴隷にしてもずっと寝てそうだが……」
「彼の1日の睡眠時間は15時間です。明らかに奴隷としては使えませんね」
「……みなさん、トモツキの悪口言い過ぎですよ」
『貴方がそう言いますか?』
「はい、人の事言えませんでした。ごめんなさい」

 なぜか謝罪するミスズ。
 ミカレーの事はさて置き、それから先もブリーフ被った変態の話で盛り上がるのだった。



 ――――――――――――――――――



「……で、なんで何も買ってこなかったんですか?」
「迷子になって結局帰ってきた。すまんな、ミスズにとんでもなくエロいパンツ買う予定だったんだが、ちょっと無理だ」
「ふんっ!!」

 バチコーンと思いっきりビンタを食らった。
 オリオンに帰ってきたというのに、扱いが不当でならぬ。

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