奴隷でもチートを目指す

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7話 絶望の始まり

「お前ら起きなさぁい!」

「痛っ!」 

 うぅ、最悪な目覚めだ。痛みで目覚めるとか、どんな朝だよ。まだジンジンする。一体なんなんだ?

「お前らが寝てて良いのはワタシが来るまでです! 解りましたかぁ? では明日からそうするように!」

 誰だあの両手に鞭を持ってマッチョ男達を華麗な鞭捌きで起こしている男は。……あぁ、昨日のデブ男か。

「いてて、奴隷でも流石にこれは無いだろう。お前もそう思うだろ?」

 お腹を擦りながらマッチョ1号が話し掛けてくる。お前はそこを打たれたのか。俺は背中だ。

「もちろん。こんな最悪な目覚め有ってたまるか」

 とりあえず、マッチョ1号が俺と同じ考えで良かった。

「さぁて、起きましたか? 起きたのなら仕事です。牛車にツルハシが積んであります。ワタシがお前らのために特別に用意しました。感謝しなさぁい。ま、お前らみたいな奴隷に感謝されたところで、ちっとも嬉しくありませんが。そんな無駄話はさておき、ツルハシを使ってそこの崖から鉱石を集めなさぁい。ノルマは、一人一日魔鉱石一個ですよぉ? 見つけられると良いですねぇ。もしこのワタシの支配から逃れたいのなら、そうですねぇ、次ここに奴隷王が来るまでに魔鉱石を100個集めてみなさぁい。奴隷王が次来るのは30日後。1ヶ月の間に、集まると良いですねぇ。ちなみに、ワタシが今まで見た中で一番集められたのは86個でした。1ヶ月でです。運が良ければ集まるかもしれませんよぉ。ま、一日でもノルマを失敗したら、ワタシの支配からは逃れられませんよ。それにです、ノルマを一日でも失敗するようなことがあったらどうなるか、……解ってますよねぇ? それでは、働きなさぁい!」

 ええと、今の長話をよく理解できない。

『熟練度が一定に達しました。聞き取りを修得しました』

 遅い! 先に手に入ってて欲しかった。

「どうしましたぁ? なぜ動かないのですぅ? はあ、これだから堕ちたては。良いですか? お前らは働くしかないんです。解ります? さあ、その牛車からツルハシは取って、早く仕事を始めなさい!」

 牛車って、あれか? 荷台にツルハシ積んだ軽トラの屋根が無くなって、前に牛が繋がれてるあれか? 牛の角が異様に長いけど。

「はぁ、面倒ですねぇ」

 ――!? デブ男が消えた!?

「「「「「イダア"!?」」」」」

 何これイタイ! え!? 今のあのデブ男がやったの? 面倒な相手トップクラスに確実に入る、勇者ハーレムの奴隷を貰うとか言い出す貴族に見えてしまうあのデブ男が!? マジで!?

『熟練度が一定に達しました。鈍感を修得しました』

 こんな一瞬の内にマッチョ男達を痛みで悶絶させるとか、何者なのあのデブ男?

「ワタシに逆らうからこんなことになるのです。ノルマは必ず。これ、ワタシのモットーですよ? ワタシに支配下にあるお前らがこれを破ったらどうなるか、もちろん、解りますよねぇ?」

 逆らってないから。多分みんな頭が追い付いてなかっただけだからね?

「さ、流石にこれは酷すぎるぞ」

 お、マッチョ男達の一人が立ち上がって抗議した。マッチョ2号と呼ぶことにしよう。

「うるさいですよ」

「ぎゃあッ!」

 えぇ!? デブ男が鞭振るだけでマッチョ2号が吹っ飛んだ!? 間に10mあったよね? なんで当たるの?

「働きなさぁい! ……次は、ありませんよ」

 その声にマッチョ男達が牛車に向かって歩きだした。

「お前も座ってねぇでツルハシ取りに行った方が良さそうだぞ」

「あ、うん」



 このときの俺は、気付いていなかった。これから始まる絶望に。これから始まる、新たな日々に……。

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