ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その7・Drug,Drug,Drug

[クロノ]
カサンドが背中から灰色に光る剣を振り下ろす。
剣から放出された巨大なエネルギーがレオの星型のレーザーを打ち消す。
(詠唱魔法同士の衝突ってこんなヤバイのかよ…)
ってかこの木造建築はよく耐えたな。
カサンド「う〜ん、相殺させるだけだったか。」
クロノ「いや、十分すげぇとは思うよ。」
レオが息切れを起こしながらも杖を構える。
クロノ「かなり疲れる魔法だったってことかね?」
カサンド「それだったらあたしだって疲れてるっての。」
クロノ「いや、頼むよ?マジでさ?」
カサンド「あぁ、だからさっさと解毒剤奪ってあんたにバトンタッチさせてもらうさ。」
カサンドがレオに向かって走る。
レオが氷の柱を撃って迎撃しようとするが、疲れているからかそのスピードと威力は高くはない。
(あの詠唱魔法はそんだけの威力だったのか?ってかそれに対抗するカサンドもどうなんだよ…)
カサンド「捕まえた‼︎」
レオの攻撃を避け、レオに掴みかかる。
しかし、レオがカサンドの腹を杖で突いて抵抗する。
カサンド「がっ⁉︎」
レオ「あああああ‼︎」
怯んだカサンドをレオが投げとばす。
(疲れてるっての嘘じゃなかったのか。あの状態のレオに攻撃されて怯むとは…)
投げ飛ばされた方向は台所だった。
すぐ横には、まだ蒸気が出まくっている鍋が置いてある。
カサンドが壁にぶつかった衝撃で鍋がカサンドの方へと落ちる。
クロノ「カサンド、鍋が‼︎」
鍋がひっくり返り、中の緑色の液体がカサンドの腹へかかる。
カサンド「あづあああああああ‼︎」
(くそっ、魔力さえ戻ってれば右手の魔力飛ばして助けられたのに‼︎)
腹を抑えながら地面にうずくまる。
レオが魔力を集中させ、大きな氷柱を作る。
クロノ「立て‼︎来るぞ‼︎」
カサンドが顔を上げ、レオの方を見る。
すると、レオがこちらを向き、氷柱を自分の顔めがけて飛ばす。
クロノ「うおあっ⁉︎」
ギリギリでかわす。
(魔力無しでかわすってのがこんなに難しいものだったとは…小学校の体育のドッジボールどうやって避けてたんだよ…)
レオ「お兄ちゃん邪魔しないで‼︎殺せないよ‼︎」
どうやら怒られてたらしい。
クロノ「バカか‼︎殺すな‼︎」
レオ「お兄ちゃんなんだから僕のお兄ちゃんの邪魔しないでよ‼︎」
クロノ「『僕のお兄ちゃんの邪魔』?俺が?」
マキノやエリーの時と同じように、文がメチャクチャになっている。
闇と本心が暴走している証拠だ。
自分が本当に思っていることを闇に変な解釈されている。
自分の時はそんなことはなかった。
多分、俺の時は闇が芽生えてからはっきりと現れるまでが長かった。
その間に少しずつ自分を受け入れていたから本番で落ち着けたのだろう。
レオがこちらに向かって叫んでいる間にカサンドがいつの間にかレオのすぐ後ろに立っている。
レオ「あっ⁉︎」
カサンド「捕まえたぞ坊や!ちょいと熱くなりすぎだ!」
レオの体を抑えながら、ポケットをまさぐる。
カサンド「あった、これか‼︎クロノ‼︎」
カサンドが小瓶を3つこちらに投げる。
睡眠薬と魔力無効薬とその解毒剤。
緑の小瓶を取る。
解毒剤が入っているという緑の小瓶。
蓋を開ける。
カサンド「待て、クロノ‼︎飲むな‼︎」
瓶の口を口に付けた所でカサンドから制止が入る。
クロノ「なんだよ?」
カサンド「それ…本当に解毒剤なんだよな…?中身ちゃんと知ってるのか…?」
どういう意味だ?
クロノ「どういうことだよ?」
カサンド「さっきからレオが抵抗しないんだよ…それどころか笑ってる…おかしくないか…?」
クロノ「だからそれがなんの…」
待て、この状況でそれは…
この状況で自分が不利になるって筈なのに笑って抵抗しない?
カサンド「それ、本当に解毒剤なのか…?」
クロノ「毒薬とでも言うのかよ?」
レオ「ちがうよ〜それは解毒剤だよ〜飲んでも大丈夫だよ〜」
ヘラヘラと笑いながらレオが言う。
カサンド「絶対違う…飲むな‼︎」
クロノ「悪いが、飲むぞ。」
カサンド「はぁ⁉︎」
レオ「?」
クロノ「レオが解毒剤って言ってんだろ?ならそれを信じてみようと思う。」
カサンド「何言ってんだよ⁉︎絶対違うって‼︎」
レオ「お兄ちゃん…?」
クロノ「俺を思う気持ちが本物なんだ、なら俺はレオを信用する。」
(もしかしたら……)
レオ「僕を…」
カサンド「信用ってあんた…」
(レオのこの暴走は俺に対する思いからだろうが、俺を傷つけることは目的でもなく手段でもない。むしろ望まないことの筈だ。俺の見たことない顔を見たいと言った。苦しそうな表情を見たことないから苦しめようとした。でもレオがそういうことを望む奴ではない。レギオンの時、正気を失いかけたブランを心配していた。そんな奴が心の底から俺を傷つけるつもりの筈がない。ならこれはレオじゃなく、レオの闇の意志が用意させた、俺を傷つける為のものだ。麻薬…いや、違うな。最終的にどうなるかはともかく、俺を傷つけるものではない。やっぱり劇薬の類か。しかし、それをレオ本人が望む筈がない。)
レオ「ダメ…飲まないで…‼︎」
(予想通りか。)
レオがカサンドの拘束を解こうともがく。
(このタイミングで飲むなと抵抗する…ならこれは間違いなく解毒剤じゃない。最悪、毒薬だ。)
小瓶を口に付ける。
体が震える。
今の自分には魔力がない。
つまり、防衛手段がない。
レオがこの中に人が死ぬ類の毒薬を入れはしないだろう。
俺に飲ませるつもりだったんなら、おそらく、いつか俺が推測した硫酸かなんかの、喉を溶かして喋れなくさせる類の薬だ。
その痛みに、魔力無しで耐えられるだろうか…
(やらなきゃレオの本心が闇に覆われたままになっちまうもんな…)
薬を飲む。
口に含んだ瞬間、舌やら喉やらからヤバイ感覚が伝わってくる。
喉が焼ける、という表現がそのまま分かりやすく喉を走る。
おそらく、マッチを近づけられた方がマシに思えるだろう。
喉の辺りから何かが失われていく感覚に覆われ、しかし息をしようとそこに空気が通るたびに、激しいなんて言葉では言い表せない程の激しい痛みが体を包む。
ゴホゴホと大量の吐血をする。
吐血の量じゃない。
息もできない。しかし息をしないと死ぬ。かといって息をしても痛すぎて死にそう。じゃあ死ねるかと言ったら死にたくないに決まってる。
結果、やりたくもないのに息がしたくなる。
死に物狂いで1番痛くない呼吸の仕方を探りつつ、ゆっくり立ち上がる。
飲む直前は立っていた筈なのにいつの間にうずくまっていたのだろう。
レオ「お兄ちゃん…」
カサンド「クロノ…」
見た感じ、2人ともこの状況に驚き、何もできないでいる。
カサンドはレオを拘束することを忘れ、レオはカサンドから離れることを忘れている。
(喋るのは当然無理…んで結局魔力は…)
右手に集中する。
試しに剣を創ろうと思ったが、できなかった。
(まぁ、予想はできたかな…)
カサンド「クロノ…お前…」
カサンドがこちらを怒るような心配するような微妙な表情をする。
レオ「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」
レオが頭を抑える。
レオ「違う…違うよ……こんなの望んデない……お兄ちャんノ嫌な顔は見タい…ミたくない…」
レオの方へと歩く。
足が言うことを聞かない。
ゆっくり少しずつ前に進むが、喉と口の中の痛みが、歩むことを止めて何か癒しを与えてくれと足の動きを止めようとする。
それらを振り切ってレオの目の前に来る。
レオ「お兄ちゃん…僕…」
何か声をかけたい。
しかし、言葉を発することができない。
発しようとしても、それは言葉にはならないだろう。
レオを抱きしめる。
優しくではなく、できるだけ強く抱きしめる。
レオ「お兄ちゃん…」
レオの体がずっしりと重くなる。
どうやら気絶したようだ。
カサンド「この馬鹿野郎共が…」
カサンドが自分たち2人に向けて言う。
返事のつもりでカサンドに笑いかける。
しかし、そこで自分の脳がプツンとスイッチを切った音を残して、一瞬で目の前が真っ暗になり、何も聞こえなくなる。

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