ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その6・Love vs love

[クロノ]
ドアが開ききる。
レオが杖を持って向こう側に立っている。
(マズイかな…この状況…)
剣を握る。
正直、魔力が使えないこの状況ではまさに木の棒で魔王城に挑む感じだ。
あの比喩がまさかここまで分かりやすいものだとは思わなかった。
カサンド「無理だとは思うけど一応構えとけ。無理だとは思うけど。」
クロノ「2回も言わなきゃいけないほど大事?」
レオ「お兄ちゃん。」
レオがこっちをじっと見つめる。
クロノ「なにかな?」
レオ「何してるの?」
瞬き一つせずにこちらを見続ける。
ぶっちゃけ目の当たりを潤わせるように魔力をあーだこーだすれば瞬きしなくてもいいので大して変わったことでもないと言えばそうなのだが、この状況だと何しても狂気の表れとしか思えない。
クロノ「何って、ロープがキツかったから解いてもらったんだよ。」
レオ「ダメだよ。そんなことしたら逃げちゃうじゃん。」
クロノ「ダメ?」
レオ「なんで逃げるの?お兄ちゃんは僕とここで一緒に暮らすんだよ?逃げちゃダメだよ?そんなのと一緒にいちゃダメだよ。」
カサンド「そんなの扱いされるとはねぇ。」
レオ「盗賊風情には聞いてないよ。」
クロノ「レオ…」
レオ「お兄ちゃんは僕の物なの。あんたには絶対に渡さないんだから。」
カサンド「ほほ〜う。それならあたしも言わせてもらうけどね。こいつは私の物でもあるんだよ。」
クロノ「はい?」
いきなり告白されてんの俺は?
レオ「はぁ?」
カサンド「こいつはあたしの雇い主なんだ。こいつがいないとあたしがどんだけ仕事しても意味がないんだよ。盗賊に限った話じゃないんだ。」
レオ「それでもお兄ちゃんがあんたなんかの側にいなきゃいけない理由にはなんないよ。」
カサンド「理由は一つだけじゃないさ。あたしはね、こいつには感謝してるのさ。そりゃまああんなやり方で無理やり仲間にされたんだからあんまり好きにはなれないんだけどね、あたしの人生を変えてくれたのさ。物盗って周りから嫌われて腐っていく盗賊から、人を助ける道にね。だからあたしは一生かけて恩返ししなきゃいけないんだ。このワン公だってそうだ。普通なら殺されてもおかしくないのに、クロノに助けられた。あたしなら女体化してようとしてなかろうと魔獣だって分かったら殺す。あたしに限らずそうだろうさ。こいつなりに、クロノに恩返しがしたかったのさ。」
レオ「盗賊のくせに人間らしいこと言うな。」
カサンド「盗賊なんだから人間に決まってるだろ?あんたにもあんたの生き方があるように、あたしにもあたしの生き方があるんだよ。あたしは、もらった恩はきっちり耳を揃えて返す。それがあたしの生き方ってもんさ。」
レオ「無様な盗賊のくせに、僕を知ったような口を聞くな!」
カサンド「あんたみたいな分かりやすい奴なんざ、知りたくなくても分かっちまうね‼︎クロノみたいに勧善懲悪のつもりか⁉︎知りもしないで周りが悪って言ってる奴をひとまとめに悪って言うんじゃないよ‼︎あんたが嫌いなだけだろうが‼︎」
レオが黙り込む。
だがその表情、正論に言い返せないといった顔ではない。
レオ「そう……そうかもね…フフ……僕が嫌いなだけだね…でもそれでもいいや…嫌いなんだから殺したくもなるんだし…」
(殺すって…)
レオ「それに、あなたが悪者だろうと悪者じゃなかろうと、お兄ちゃんを守るためにあなたを殺すつもりだよ?お兄ちゃんを悪いやつに連れてかせるわけにはいかないんだから…お兄ちゃんを連れてく奴はみんな悪いやつだもん、全部殺さなきゃ…」
カサンド「あたしがクロノの為にここまで来た理由をもう一個話してやろう。」
レオ「…?」
カサンド「あたしはね、クロノが好きだ。」
レオ「…」
何言ってんのあんたいきなり⁉︎
カサンド「さっき好きにはなれないとは言ったが、別に嘘を言ったわけじゃない。好きにはなれないが、好きなんだ。」
クロノ「矛盾してるぞ…」
カサンド「あたしは自分の身内はみんな好きだし、自分の身内はみんな守るんだ。それが、カサンドって女の生き方さ。あんたも、その身内の1人だぞ?」
あぁそういう…
でもそういう告白の仕方って
レオ「殺す」
ほら火付けちゃった〜。
カサンド「クロノ、ここはあたしが何とかするからさっさと逃げな。」
クロノ「はぁ⁉︎何言って…」
カサンド「あんた今魔力無いんだろう?なら足手まといだ。あたし1人の方が戦いやすい。」
そりゃそうだが…
クロノ「1人で置いてけるわけないだろ‼︎」
カサンド「リンカでのこと聞いたぞ?ジュリとシリュー先に避難させて自分だけボスと戦ったそうじゃないか。」
クロノ「あれはああするべきだったんだよ!先輩さんの安全確保しないと…」
カサンド「ならこれもそういうもんだ。」
クロノ「だけど…」
レオ「逃がさない…」
レオが扉を結界で囲む。
クロノ「あぁ〜、出れない…」
カサンド「ちっ、なんか方法は…」
何か…
クロノ「そういえば、レオが解毒剤を持ってるって言ってた。」
カサンド「解毒剤?魔力を回復させるってことか?」
クロノ「あぁ。あいつの服のポケットに入ってると思うんだが…」
カサンド「服のね…」
カサンドが剣を出す。
暗器なんだから小さい剣かと思ったら普通に長剣を出しやがる。
クロノ「それどこに入ってたの?」
カサンド「それが暗器使いってもんさ。」
レオがぶつぶつと呟いている。
声が小さくて聞こえないが、それなのに確実に耳の奥まで届いてくる。
そして、この魔力の流れる感覚を、俺は今までに何度も感じてきた。
クロノ「まさか詠唱魔法ぶっぱする気じゃねぇよな…」
カサンド「はっ!面白いね!そんなものであたしの想いを壊せるつもりじゃねぇよな!あたしだってな、本気なんだ!だから、守るなら全力で守るさ‼︎手遅れになる前に守らなきゃ、守れるもんも守れないんだ‼︎その為に、全力で、ぶっ飛ばす‼︎」
レオ「あんたにお兄ちゃんを渡さない‼︎」
レオの足元に魔法陣が完成する。
その魔法陣は真っ黒に染まっている。
(こんなことってあったっけ…)
今まで見た魔法陣を思い返す。
(マキノ…キュリー…)
そういえばマキノの時。
初めてマキノの詠唱魔法を見たときはカサンドのように白い光を放っていたが、この間の闇の事件の時は黒く染まっていた…?
キュリーの時も、闇にかかっていたとなっていたなら黒かった気がしないでもない。
(ってことは…闇が混じってひん曲がった感情での詠唱呪文じゃあ魔法陣は黒くなる…?)
今度他に何かあったとき検証でもしてみるか…
レオ「お兄ちゃんは僕の物だ…笑った顔も、怒った顔も、泣いた顔も苦しそうな顔も切なそうな顔も気持ちよさそうな顔も苦そうな顔も呆れた顔も嬉しそうな顔も死にそうな顔も…全部全部僕だけのものにするんだ‼︎僕だけを見て欲しいんだ‼︎僕を…僕を…」
レオの目が変わる。
これは覚えている。マキノの時と同じ目だ。
明らかに正気ではない、何かを見失った目。
そしてこれは…闇が混じった感情だ。
(ハゼットは闇にかかったら治す術がないとか言っていた。だが俺は、治せはしなくても、マキノを助けることができた。なら今回も、そうしてやらなきゃならんな。)
俺のいつもの基準で話すなら、レオは悪ではない。
俺のことが好きだという感情が、闇に曲解されただけに過ぎない。
つまり善の人間なら、俺は助ける。
その為に…
クロノ「カサンド、できれば解毒剤をうまいこと奪ってくれると助かるんだが…」
カサンド「任せときな。ハナからそのつもりだったけどな。」
レオ「あああああああああああああああ‼︎‼︎」
レオが杖を握り、カサンドに向ける。
レオの目の前には魔力の大きな渦の様な物が見える。
その渦の中心からとてつもない波動を感じる。
レオ「死ねええええええええええええええ‼︎‼︎」
渦の中心から巨大なレーザーが放たれる。
星を象ったレーザーだが、その色は黒い。
カサンドにものすごいスピードで迫ってくる。
カサンド「弾け…『灰の剣ダスター』‼︎‼︎」

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