ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その7・Take care of next time.

[クロノ] 
構成員に吐かせた情報を頼りに、建物内を進む。
クロノ「こっちだ。」
通路を曲がる。
ジュリ「さすがにもうバレてるでしょうか?」
クロノ「まぁ、異変は感じてるかねぇ。まだ騒いでる感じでないが。」
部下「なら早くしないといけませんね。」
ジュリ「建物の中だからすぐに見つかりますよね。」
クロノ「多分な。ほら。」
廊下の途中に部屋が一つ。
クロノ「他の部屋と違ってこの扉はすごく綺麗だし、ドアノブも他の扉と違う。」
部下「ということは、ここでしょうか?」
クロノ「おそらくな。さぁ、開けるぞ。」
扉を開ける。

クロノ「かなり広いな。」
ジュリ「私たちの部屋の…10倍はありますね…。」
ちなみにキキョウに使わせてもらっている部屋の大きさは普通のワンルーム。ちょっとしたアパートと同じくらいの広さだ。
だが部屋の内装はクラブのような感じだ。
あちこちに長椅子や机。バーカウンター。
これが私室なのかよと言いたくなる。
それはそれとして…
クロノ「ボスの姿が見当たらないな。」
ジュリ「留守…とか?」
クロノ「分からない以上、警戒は怠るなよ。」
部下「あれは…?」
キキョウの部下が見ている方向には扉がある。
金属製の重たそうな扉だ。
クロノ「見てみるか。」
扉を開ける。
少し開けただけで、向こうから異臭がしてくる。
ジュリ「この匂い…‼︎」
クロノ「嫌な空気だ…。」
簡単に言うと、イカ臭い。
扉を開けきる。
中には人が数人転がっていた。
約6人。全員女性。
クロノ「まさか攫われた人らはあちこちに牢屋作って閉じ込めてるってわけか?」
部下「先輩は…?先輩は⁉︎」
キキョウの部下が中に入る。
部下「先輩‼︎先輩⁉︎」
クロノ「おい、1人で突っ込むな。」
部下「先輩…?ここに…」
どうやら探していた先輩とやらを見つけたようだ。
部下「先輩…僕です…分かりますか…?」
先輩「………」
意識はあるようだが、返事は無い。
部下「先輩…僕です…!シリューシカです‼︎」
先輩「シリュー…シ……カ?」
顔を上げる。
その目に光はない。
部下「先輩‼︎そうです‼︎先輩を助けに…」
先輩「たすけて…」
部下「はい‼︎助けます‼︎ですから….」
先輩「もう…ころ、して…」
部下「へっ?」
先輩「もう…むり……おねがい…」
先輩は部下のうでにしがみつく。
必死に力を込めて掴んでいるが、その力はとてもか弱い。
部下「何言ってるんですか先輩?生きてここから出なきゃ…」
先輩「おねがい…おねがい…」
キキョウが、攫われた者はもう壊れてしまっているだろうと言っていた。
これも精神崩壊の一種ということなのだろう。
部下「ダメですよそんな…もう大丈夫ですから…」
先輩「……もういらない………もういい…」
部下「僕は…どうしたら…」
助けを求めるようにこちらを向く。
クロノ「あんたが決めろ。それはあんたの問題だ。」
部下「僕が…」
先輩の方を向く。
先輩「シリュー……シリュー……シリュー……」
部下「僕…」
先輩「シリュー……シリュー……シリュー……」
部下「……先輩、もう少しの辛抱です。必ず僕が助け出します。ですからもう少しだけ我慢していてください。」
先輩「シリュー……たすけて……くれるの…?」
部下「助けますから‼︎」
クロノ「よし。ジュリ、ついてってこい。」
ジュリ「クロノさんは?」
クロノ「もう少しこの部屋を調べる。あんたらはまずこの人の救助が優先だ。」
ジュリ「でも…」
クロノ「人1人抱えてる人間が満足に戦えるとでも?護衛は必要だ、さっさと行ってこい。あぁ、そうそう。袋ちょうだい。小麦粉の。」
あらかじめ渡しておいた小麦粉の袋を2人から受け取る。

3人を部屋から出して自分は部屋に残る。
クロノ「やっぱこの部屋にいるんだよな?」
問いかけるが返事はない。
クロノ「部屋に入った時に椅子が動いてるのを見たぞ?その後こっちの部屋からは物音はしなかった。息潜めてたんだよな?」
返事はない。
クロノ「はいはい。」
小麦粉の袋を上に投げる。
クロノ「じゃあ試してみますか。」
右手から魔力を飛ばし、袋を破裂させる。
中からは大量の小麦粉がばら撒かれ、自分の周りを覆う。
続いて2個目3個目と袋を投げては破裂させる。
やがて、小麦粉まみれの中に、人の形が見える。
クロノ「そこにいるな?」
透明人間は姿を現した。
ボス「驚いた。こんな方法で見つかるものなのか。」
しゃがれ声の初老、といった感じの男だ。
人間かどうかは知らんが、人間換算でおそらく50代だろう。
クロノ「あんたがボスだな?」
ボス「そうだ。私はヤッグ・バーソン。」
クロノ「姿見せても良かったの?あんなに素性隠してたのに。」
キキョウには顔を知られていたが。
ヤッグ「どうせここで死ぬのは君か私のどちらか。私が死ねば顔を隠していた意味がなくなるし、君が死ねば私を知る者はいなくなる。あの女狐以外にはな。」
魔力を飛ばして先制攻撃をする。
しかし持っているナイフで弾かれる。
ヤッグ「そんなに慌てるものじゃない。いくらか君に聞きたいことがあるんだ。」
クロノ「そうか?俺にはないが。」
ヤッグ「なぜ1人で戦うんだ?いくら私の透明化を攻略する方法があるといっても、仲間と共に戦えばいいじゃないか。」
クロノ「あの部下くん…シリューシカだっけ?あいつの知り合いちゃんを助けないといけないからな。確実に救助させる為について行かせたのさ。」
ヤッグ「君はここで負けるかもしれないのに?」
クロノ「あいつらが助かりゃ俺はいい。俺が死ぬにしても、あんただけは殺すがな。」
ヤッグ「なぜ私を殺そうとする?私はただこうやって、不安の芽を摘んでいるだけなのに?」
クロノ「その摘み方に問題があったんだよ。こういうのは、あんまり他人に迷惑をかけるもんじゃない。」
ヤッグ「だがそうしなければ芽は摘めない。」
クロノ「なら摘まなければいいじゃん。もしくは、摘まないとやってらんないようなことをやめるか。」
ヤッグ「そうすればみんな幸せになれると?平和な世界を作ろうとでも?」
クロノ「うん。」
ヤッグ「そんな子供しか見ないような夢物語はさっさと捨てたらどうだ?私を殺しても平和にならん。」
クロノ「あんたを殺しても平和にはならんが、それで救われる人は確実にいる。それにだな。子供しか見ないようか夢物語って言うが、夢物語はまぁそうだろうから別にいいけど、子供しか見ないようなっつー言い方はおかしいぜ?子供はな、純粋なんだ。あんたや俺ら大人と違って、汚れていない。こんな汚れた仕事はしないし、平和を願う気持ちもただただ純粋だ。喧嘩をしている人を見て、なんで喧嘩するんだろう、友達でいた方が幸せなのに、って思える程純粋なんだ。そんな奴らが何百億人といてみろ?平和な世界。」
ヤッグ「イかれているのか?実現するとでも?」
クロノ「これがイかれてるってんなら、俺はもっと狂ってやるよ。それに、夢は実現しないと面白くも何ともない。せっかく夢を見たんだ。現実でも見させてくれよ。」
ヤッグ「子供ならそれで幸せだろうが、大人の男はそんなことをせず、金と女に埋もれていた方が幸せを感じるものだ。」
クロノ「そうかい。あいにく、俺は外で女探ししてるより家でゲームしてる方が好きなタイプの人間でな。金と女に埋もれるのは苦手なんだ。だからこそ、こうやっていつまでも子供みたいにいられるんだぜ?」
ヤッグ「幼稚だな。」
クロノ「子供っぽいって言うんだよ。」
ヤッグ「そうか……」
ヤッグが地面にナイフを突き刺す。
ヤッグ「透明化は意味がない。なら、悪いがこうさせてもらおう。」
隣の部屋からプシューという音がする。
音の方を見ると、先ほど先輩が捕まっていた部屋から緑色の粉のようなものが溢れている。
クロノ「ラパレリャの粉‼︎」
中から5人の女性が出てくる。
ヤッグ「私を助けてくれ。この男を殺してくれた者にはご褒美をあげよう。」
そういって透明な袋を振る。
中には緑色の粉が入っている。
女「ご褒……美……」
薬により理性を失った女達が武器を手に取る。
女「殺…ス……殺スば…もっと…」
クロノ「はぁ…。」
ヤッグ「さて、6対1。数字の上では私が有利だが…」
クロノ「6対1?何を言っているんだお前は?」
女達の方に走り、右手でチェーンソーを作る。
1人の女性に飛びかかり、チェーンソーを上から叩きつけ、体を縦に真っ二つにする。
続いて2人、3人となぎ倒す。
女達全員の死亡を確認する。
クロノ「俺には1対1にしか見えないが?そろそろ老眼か?」
ヤッグ「助けに来たと言っておいてそれか。」
クロノ「俺はあんたを殺すために来たんだ。あの人を助けたのはたまたまあの人を助けたいと思った人がいたからスルーした。それだけだ。さぁ、殺すぞ。」
チェーンソーを持ってヤッグに向かって走る。
ヤッグ「くっ‼︎」
ヤッグが逃げ、チェーンソーを躱す。
クロノ「あんたのようなドゲス野郎は本気で殺してみるとしようか。」
右手がどんどん黒く染まっていく。
それは胸を通り、手足に広がり、顔を埋める。
顔の形は人間のそれではなく、異形と化している。
クロノ「あんたを殺さないと気がすまないんでな。こんなもん使ってられん。」
チェーンソーを捨てる。
ヤッグ「化け物が‼︎」
ヤッグがナイフを何本か投げる。
ナイフの刃が額に当たるが、突き刺さらずに床へと落ちる。
ヤッグへ近寄り、首を掴む。
ヤッグ「ぐぅっ‼︎」
地面は思い切り叩きつけ、マウントを取り、殴る。
クロノ「気に入らないから!邪魔だから!男は!すぐに!殺して!女は!ヤクまみれに!して!犯!して!捨てて!利用する!っざ!けんな!そんなことして!許されるとでも!思ってんのか‼︎あぁ⁉︎」
頭を掴んで床に何度も叩きつける。
クロノ「別に罪を償えって言ってるわけじゃない。あんたがやったことに対して俺の怒りがおさまらんからこうしてるだけだ。だから、もしかしたらあんたは悪くないかもしれない。でも、こうされるくらいの覚悟はできてたんだよなぁ?」
もはやヤッグは返事をできる状態ではない。
鼻は折れ、あごもひしゃげている。
右目は完全に潰れ、前歯ほとんどない。
だがまだ意識は残っている。
女達の所へ行き、1人からナタを取る。
そのナタをヤッグの所まで持ってきて、首に押し付ける。
クロノ「来世があってそいつが不幸な目にあってたら同情くらいはしといてやるよ。」
ナタをゆっくり首に押し付ける。
もはや、声を上げる元気もないようだ。
だんだん首から血が溢れ出てくる。
ゆっくりと。
途中で骨に当たったため、さすがにそこは思い切り力を込めたが、それ以外はなるべく力を入れず、ゆっくりと刃をノコギリのように前後させながら斬る。

やがて首を斬り終える。
そこへ、カノディアの構成員が入ってくる。
構成員「ヤッグ様‼︎ヤッ…‼︎」
構成員「んなっ‼︎」
構成員は顔を真っ青にして震え始めた。
クロノ「おう。わりぃ、殺しちった。」
持っている首を振る。
構成員「ひいいいい‼︎」
構成員達が悲鳴をあげて逃げていく。
クロノ「あーあ。さて、行きますか。」
部屋を出る。
外の廊下には誰もいないが、玄関に近づいていくと、構成員らしき男達が慌てていた。
自分の姿を見て襲いかかろうとしてきたが、ヤッグの首を見てすぐに逃げ出す。
入ってきた屋上から出て、近くの宿の屋上に飛び移る。
欠伸をしたくて空いている方の左手で口の前に持ってくる。
手は返り血で赤く染まってはいるが、いつの間にか肌色に戻っていた。
どうやってキキョウのアジトまで戻ろうかというところで、宿の扉から屋上へ人が来る。
ジュリ「クロノさん‼︎」
クロノ「お、ジュリ。」
ジュリ「それ…」
手に持っている首を指差す。
クロノ「おう。依頼達成。」
ジュリ「大丈夫なんですか⁉︎」
クロノ「大丈夫だって。全部返り血。」
ジュリ「いえ、そうじゃなくて…‼︎」
クロノ「なに?」
ジュリ「クロノさん…どうして笑顔なんですか…?」
笑顔?
クロノ「あれ、俺笑ってた?」
ジュリ「はい…」
クロノ「まぁ、こうやって悪者殺せたわけだし、ちょっと喜んでたし、笑っててもおかしくはないかな。」
ジュリ「悪者だったとしても…人を殺して笑うだなんて…まるで殺人鬼ですよ…」
クロノ「それはまぁそうだろうなぁ。うん。直そうかな、さすがに。頭イかれてるのがここまで来ちゃうとはなぁ。」
あの頃の自分なら。
この世界に来る前の自分がもし同じことをしたら。
きっと泣きながらジュリに抱きついていただろう。
いや、そもそもあの頃の自分ならこの依頼は受けなかっただろうし、受けたとしても本当に首を斬るまでしなかっただろう。
ジュリ「とりあえずこれを被ってください。返り血まみれで町を歩くのはさすがに目立ちます。」
ジュリからフードを被せられる。
クロノ「あぁ、うん。ごめん。本当にごめん。」
ジュリ「いえ…」
ジュリを怖がらせてしまっただろう。
いや、間違いなく怖がらせている。
クロノ「ごめん、本当に。さすがにちょっとやり過ぎた。」
ジュリ「…次からは気をつけましょう。戻れなくなる前に…」
そうだ。
人殺しに快楽を見つけてしまうかもしれない。
そうなってしまったら自分はどうなるのだろうか。
一度、自分を見つめ直すべきだろうか。

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