ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その4・Past

[クロノ]
車を召喚し、シーラの案内に従う。
クロノ「この方角さ。」
シーラ「はい。」
クロノ「何となく覚えがあるんだけど。」
シーラ「でしょうね。」
何度か行ったことがある館の方角に進んでいる気がする。
クロノ「ミランダの館?」
シーラ「ご名答です。」
クロノ「まさか、情報持ってる奴ってミランダのことか?」
シーラ「そうなんですよ。この間、ちょっとミランダさんとお話ししてた時に魔界のことを少し教えてもらってですね、魔界のとある貴族がすごい機関を開発したみたいな話を聞きまして。何となく覚えてたんですよ。」
クロノ「それで、たまたま俺に会ったと。」
シーラ「はい。まさか活かせる時が来るとは思ってもみませんでした。」


ミランダ「そんな用事で来るとは思ってもなかったわ。」
館に着き、入り口で待ち構えていたミランダと話す。
なぜ入り口で待ち構えていたかというと、館の窓から普通に見えていたそうだ。
クロノ「っつーわけでよ。教えてくんない?」
ミランダ「いいわよ。シーラちゃんは…」
ミランダがシーラの方を見る。
シーラ「あっ、私用事あるんでちょっと失礼しますね!」
クロノ「え?」
シーラ「いや〜ちょっと大事な用事っていうか…」
ミランダ「あら、それならウチのに馬車を用意させるわ。」
シーラ「ありがとうございます。」
ミランダが例の1つ目メイドに指示を出し、シーラがそのメイドに着いて行く。
クロノ「なぁ。」
ミランダ「ん〜?」
クロノ「ちょっと無理矢理過ぎないか?」
ミランダ「何が?」
クロノ「シーラがいたって問題ないだろう?結構わざとらしい人払いの仕方に思えたが?」
ミランダがシーラの方を見たのが何かの合図に見えた。
ミランダ「ふふっ、そうね。でもとりあえず、中でお話しましょうか。」


館の中、ミランダの私室。
ミランダ「さすがにギルドのリーダーやってるくらいだし、それぐらいの鋭さはあるのかしらね。」
メイドが運んできたお茶を飲みつつ、話の続きをする。
見たことのないメイドだったが、また新たにしもべにしたらしい。
クロノ「どういうこったよ?」
ミランダ「いえね、これからする話をシーラちゃんが聞いたら絶対着いて行きたがるから、聞かせたくないのよね。」
クロノ「聞かせたくない?」
ミランダ「そう。だからこういう時のために、あらかじめシーラちゃんに仕込んでおいたのよ。『席を外して欲しいときは合図する』ってね。」
クロノ「直接言えば良かったんじゃないか?」
ミランダ「でも練習しておかなきゃいざという時にアレじゃない?」
今回が初めての合図だったらしい。
クロノ「ほーん。それで、話ってのは?」
ミランダ「えぇ。魔界の凄い機関の話ね。」
クロノ「どんくらい凄いの?大陸渡れるくらい?」
ミランダ「大陸と大陸の間がどれほど広いか分からないから、渡れるかどうか分からないわよ。それに、私だってそういう凄いのがあるくらいにしか聞いてないの。」
クロノ「なるほどねぇ。つまり、行ってみないと分からないわけか。」
またもや魔界旅行ということになる。
ミランダ「あ、でもどの町でどういう奴が作ったかは知ってるわよ。」
クロノ「なになに?」
ミランダ「ローベリスプという町のファカナって名前の首狩り族の町長さんよ。町長なんだけど、マキノとかみたいな研究者としての一面も持ってるの。最近まで魔界では無名の人だったけど、今回のことで一躍有名人。」
クロノ「首狩り族って何よ。」
ミランダ「名前の通りね。大昔に族長が、犯罪者は全員首を斬る刑に処すってスタイルでね。それから首狩り族と言われるようになったのよ。」
クロノ「こっわ。」
ミランダ「それで面白いのがね、そんな時代から現代に至るまでの途中で、首を斬るっていうのが処刑から娯楽に変わってしまったのよ。」
クロノ「え、何それは…」
ミランダ「他人の首を斬るだけじゃ飽き足らず、自らの首を斬り落とすほどのイカれぶりよ。その過程で進化していって、今では生まれつき首がない人まで現れる始末よ。」
クロノ「なんだその集団は…」
町を歩けば挨拶代わりに首を斬る、ということも日常だったという噂もあるらしい。
ミランダ「愛情表現も首斬り。夜の営みなんかにも、ロマンチックに首を斬るそうよ。」
クロノ「うさんくせぇ。っていうかロマンチックに首斬りってなんだよ。」
ミランダ「そんなの私が知るわけないでしょう?とにかく、首狩り族っていうのはそういう種族。その1人が、ローベリスプで町長をやってるの。」
クロノ「まさかとは思うけど、その町…」
ミランダ「安心して。町は普通よ。流石の首狩り族も、他所に文化を押し付けることはしないわ。ただ、良くない町であるのは確かね。」
クロノ「良くないってのは?」
ミランダ「ふふっ、目の色が変わったわね。ファカナはね、いわゆる悪い町長さんよ。自分の開発した兵器やら何やらで町民を苦しめるサディストってね。」
いつものパターン。
クロノ「まさか、シーラに聞かせたくないってのは…」
ミランダ「こんな話聞いてあなたが魔界に行くって言ったら、あの子もついていこうとするでしょ?どうせあなた向こうで色々やらかすんだから、そんなとこ見せたくないじゃない?」
クロノ「まぁそうだな。」
間違いなく、町長の身の安全を保障できない。
ミランダ「ねぇ…なんでそんなに悪い奴が嫌いなの?そりゃあ誰だって悪い人は嫌いだけど、あなたのはちょっと異常よ?」
クロノ「そりゃ俺がイカれてるからだろ。いわゆるキチガイって奴さ。」
ミランダ「誤魔化さないで。そうなる理由があったんじゃなくて?」
ミランダがいつになく真面目な顔で言う。
クロノ「理由が無いことはないさ。ただ、俺は嫌なことされたら全力で殴り返すってだけ。悪党が死刑になるのは当然だって考えてるだけ。ガキの頃俺いじめられっ子でさ。ちょくちょくクラスの…あぁ、村の力のあるガキ大将達にいじめられてたのよ。物隠されたり、自分の物ラクガキされたり、からかわれたりな。みんな見て見ぬフリだ。一応友達はいたけど、俺がそいつらに絡まれてる時にあんまり関わらなかったし、そもそも、俺はいつも一緒にいるっていうような親友はいなかったんだ。ある日、さすがの俺も我慢の限界で、ちょっとやり返したんだ。あいつらの上靴に土入れてやった。それを知らずに履いて奴らの靴下が台無しになったの見て愉快になっちゃってさ。悪い奴が制裁受けてるの見てるとちょっとテンション上がっちゃうっていうか?与えたの俺だけど。周りは誰も、何もやらない。報復が怖いからか、自分には関係ないからか。それは正しいさ。俺だって、自分がいじめられてなきゃ何もしないだろうし。でも自分のことだからやり返してやった。たったこれだけだ。」
ミランダ「これだけって、それで人を殺すのに躊躇なくすことができるの?」
クロノ「言ったろ?イカれてるって。最近のガキは怒らすと何するか分からんぞ?取り返しのつかないことを平気でできるわけだからな。さすがに当時の俺は人を殺すまではいかなかったが、何度も死ね死ね思ってたな。あいつが死なないんなら俺が死んでやろうかとも思ったか。」
ミランダ「そこに闇が加わっちゃって、エスカレートしたわけね。」
クロノ「闇に飲まれる前の俺なら絶対殺しはしなかったろうな。いや、闇の前から既に何十人も殺してるか。ってことは、多分この世界に来たのが原因だな。」
ミランダ「この世界に?」
クロノ「人を殺しても、人に嫌われるだけで済む世界。そんなんだから、人に嫌われるのに慣れた俺は、平気で人を殺せるんだ。あっちの世界は、人殺しも含めて、何かしら犯罪を犯すと法律ってのがあって罰せられるんだよ。」
ミランダ「その法律がなかったら良かった?」
クロノ「いや?むしろ、法律があった方が良い。でもないと、悪人の巣になるからな。俺と同じ考えした奴の。」
ミランダ「自分が悪だって言いたいんだ。」
クロノ「どんな理由があろうと、人を殺した奴に善人はいない。悪人しかいない。情状酌量の余地がどれだけあっても、悪人ということからは逃れられない。いくら、仕方ない理由があってもだ。俺は、いわゆる悪人を許す気はない。当然自分もだ。」
ミランダ「じゃあどうするの?自分も殺す?」
クロノ「あぁ。最後の最後にはそうしようかな。俺以外の悪人を殺しまくって、最後に俺を殺せば、この世に悪人はいなくなるだろ。」
ミランダ「やっぱり異常者ね。あなたみたいなのが居るから、この世に争いが消えないんじゃなくて?」
クロノ「当たり前だろ。俺のは、他人を不幸にして、自分を幸福にするスタイルだ。そんなことで平和が訪れるもんか。」
ミランダ「魔法の無い世界から来たあなたがそこまで強いのも、そういう所が理由なのかもね。何がしたいの?あなた。」
クロノ「…殺したいだけかな。人を殺す行為を正当化できる理由を見つけて、その理由で殺せる理由が無くなったら、何かしでかす前に自分で死ぬ。ってだけかもしれん。」
ミランダ「もしかしたら、今ここであなたを殺した方が、世界の為になるかもね。」
クロノ「やるか?一応抵抗するぞ?」
ミランダ「冗談よ。あなたの仲間に殺されるわ。」
クロノ「ハッ。」
残った紅茶を飲み干して立つ。
クロノ「無駄話はこれくらいにして、さっさと案内してくれるかな?」
ミランダ「無駄話のつもりはなかったんだけどねぇ。」

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