乙女よ。その扉を開け
元凶と元凶
縁はすぐに火を消す。何の前触れもなく突然発火しだした手に驚きはしたものの、襲撃に慣れている縁は落ち着きを払って数回手を振って消火した。 
「でもなんで急に。舞姫じゃあるまいし」
自らが気絶させた舞姫は目の前で横たわっている。だが縁は聞き逃さなかった。舞姫が意識を失う少し前に放った言葉を。
「破壊神って……まさか」
縁が気づくも時すでに遅し。いや、始めから知っていたとしてもどうしようもないだろう。神の攻撃を防ぐなど。
「そんな……紫はもう」
『咎の女を殺さなかったお前の落ち度だ』
金縛りを受けたように身動きが取れなくなる。何とか解こうと縁は抗うが突然内臓を混ぜられたような吐き気と激痛に襲われる。
「かはっ!」
『魂を元に戻す。還れ』
死にそうな程の攻撃には流石の縁も耐えきれず、神の言いなりになってしまう。そもそも声は頭の中で響くだけで実体が明らかになっていないのだから攻撃もできない。
「や、めろ……」
『失せろ、守護神』
一際強い衝撃に当たり、縁の体は地に倒れた。
数分後、一人の少女が目を覚ました。光が差し込んで目を細める。
「こ、こ……うっ」
声を出そうとするも喉が張りついて激しく咳き込んでしまう。
「ゲホッ……あれ……私、生きて?」
少女は自分の手を見て首に手を添える。心拍数は速いものの鼓動は感じ取れる。
ふと人影が見えて顔を上げれば倒れている魔姫の体があった。
「ひっ!」
少女は咄嗟に魔姫から自分を遠ざける。自分を殺した者と同じ部屋になど誰が好んでそこにいるか。
(……殺した?)
少女は――紫は疑問に思う。確かに紫は一度死んだ。吐き気のするような激痛の後に糸が切れたような脱力感がやってきたのだ。しかし紫は今生きている。物に触れられるのだから幽霊ではないだろう。
考えている内に魔姫が目を覚まし頭を押さえながら上半身を起こす。紫はわけも分からぬまま臨戦態勢に入ってしまう。
魔姫がこちらに気づいて目が合う。そこでやっと二人は違和感に気づく。
「魔姫?」
「縁?」
ほぼ同時に二人の口から言葉が出る。そして一様に首を傾げる。
魔姫のように殺気を感じない。縁のように全てを理解しているような聡明さを感じない。
「縁……よね?」
「紫……です。あなたは魔姫で」
「ええ舞姫よ」
話が一向に進まない。紫も舞姫も相手とは一度も面識がないのだ。同名であるせいでより複雑になる。
(何でこんなに隙だらけなの? 魔姫はもっと視線だけで相手を殺せそうな力があるのに)
(縁にしては幼い気がする。それに私に敬語なんて使わないのに)
舞姫は目の前にいる少女の体を隈なく観察した。縁よりも小柄で少し日焼けをしていて健康そうな、だが細い手足を持っている。
「……あなた名前は?」
「だから紫」
「そうじゃなくて字。漢字? 仮名?」
『紫』と答えようとして紫も気づいた。
「あなたは魔の姫ですか」
「い、いいえ。舞の姫となら言われたことがあるけど」
ここでようやく二人は事態を飲み込むこと。できた。細かいことはさておき、今目の前にいる相手は自分が見知った者ではない。
だが二人は一つの疑問を抱く。では魔姫は。縁はどこへ行ったのか。気配は一向に感じ取れない。彼女が百年も追い求めていたこの二人を簡単に見放すとは思えないのだが。
紫がそう考えていると舞姫が不意に手を掴んできた。
「こんなことしてる場合じゃないわ。逃げましょう、一刻も早く」
「え?」
「あんなの私の知ってる縁じゃない。あなたも殺されたんでしょ?」
紫の静止も聞かずに舞姫はドアノブを掴む。
「……これ何?」
引き戸しか知らない明治生まれの舞姫は力任せにドアノブを引っ張る。慌てて紫が代わってドアを開ける。
外は機械の赤い光以外灯っておらず暗い。二人して出口を探しながら慎重に歩いていると倒れている白髪の女を見つけた。
「社長!?」
紫はなりふり構わず里奈の元へ駆け寄る。
「社長! ねえ起きて! 里奈さん!」
紫が体を強く揺すっても、既に冷たくなっている里奈は目を開けない。
「……銀?」
舞姫が二人の元に歩み寄って心底驚いたような声を出す。その目に映っているのは他でもない里奈の姿。
「何で銀がここにいるの? ここは百年後の世界なんでしょ? 普通の人間は死んでるはずじゃ」
「あ、それは……」
どう説明しようか。紫が迷っていると急に強い殺気を感じる。
「危ない!」
舞姫を突き飛ばすと同時に自身もその場に伏せる。直後、頭上を掠めながら光線が空を貫いた。
「よくもやってくれたわね。破壊神」
舞姫と紫の目の前には半身が闇に包まれ憎悪を表す紅い目でこちらを見据えた縁がいた。
「でもなんで急に。舞姫じゃあるまいし」
自らが気絶させた舞姫は目の前で横たわっている。だが縁は聞き逃さなかった。舞姫が意識を失う少し前に放った言葉を。
「破壊神って……まさか」
縁が気づくも時すでに遅し。いや、始めから知っていたとしてもどうしようもないだろう。神の攻撃を防ぐなど。
「そんな……紫はもう」
『咎の女を殺さなかったお前の落ち度だ』
金縛りを受けたように身動きが取れなくなる。何とか解こうと縁は抗うが突然内臓を混ぜられたような吐き気と激痛に襲われる。
「かはっ!」
『魂を元に戻す。還れ』
死にそうな程の攻撃には流石の縁も耐えきれず、神の言いなりになってしまう。そもそも声は頭の中で響くだけで実体が明らかになっていないのだから攻撃もできない。
「や、めろ……」
『失せろ、守護神』
一際強い衝撃に当たり、縁の体は地に倒れた。
数分後、一人の少女が目を覚ました。光が差し込んで目を細める。
「こ、こ……うっ」
声を出そうとするも喉が張りついて激しく咳き込んでしまう。
「ゲホッ……あれ……私、生きて?」
少女は自分の手を見て首に手を添える。心拍数は速いものの鼓動は感じ取れる。
ふと人影が見えて顔を上げれば倒れている魔姫の体があった。
「ひっ!」
少女は咄嗟に魔姫から自分を遠ざける。自分を殺した者と同じ部屋になど誰が好んでそこにいるか。
(……殺した?)
少女は――紫は疑問に思う。確かに紫は一度死んだ。吐き気のするような激痛の後に糸が切れたような脱力感がやってきたのだ。しかし紫は今生きている。物に触れられるのだから幽霊ではないだろう。
考えている内に魔姫が目を覚まし頭を押さえながら上半身を起こす。紫はわけも分からぬまま臨戦態勢に入ってしまう。
魔姫がこちらに気づいて目が合う。そこでやっと二人は違和感に気づく。
「魔姫?」
「縁?」
ほぼ同時に二人の口から言葉が出る。そして一様に首を傾げる。
魔姫のように殺気を感じない。縁のように全てを理解しているような聡明さを感じない。
「縁……よね?」
「紫……です。あなたは魔姫で」
「ええ舞姫よ」
話が一向に進まない。紫も舞姫も相手とは一度も面識がないのだ。同名であるせいでより複雑になる。
(何でこんなに隙だらけなの? 魔姫はもっと視線だけで相手を殺せそうな力があるのに)
(縁にしては幼い気がする。それに私に敬語なんて使わないのに)
舞姫は目の前にいる少女の体を隈なく観察した。縁よりも小柄で少し日焼けをしていて健康そうな、だが細い手足を持っている。
「……あなた名前は?」
「だから紫」
「そうじゃなくて字。漢字? 仮名?」
『紫』と答えようとして紫も気づいた。
「あなたは魔の姫ですか」
「い、いいえ。舞の姫となら言われたことがあるけど」
ここでようやく二人は事態を飲み込むこと。できた。細かいことはさておき、今目の前にいる相手は自分が見知った者ではない。
だが二人は一つの疑問を抱く。では魔姫は。縁はどこへ行ったのか。気配は一向に感じ取れない。彼女が百年も追い求めていたこの二人を簡単に見放すとは思えないのだが。
紫がそう考えていると舞姫が不意に手を掴んできた。
「こんなことしてる場合じゃないわ。逃げましょう、一刻も早く」
「え?」
「あんなの私の知ってる縁じゃない。あなたも殺されたんでしょ?」
紫の静止も聞かずに舞姫はドアノブを掴む。
「……これ何?」
引き戸しか知らない明治生まれの舞姫は力任せにドアノブを引っ張る。慌てて紫が代わってドアを開ける。
外は機械の赤い光以外灯っておらず暗い。二人して出口を探しながら慎重に歩いていると倒れている白髪の女を見つけた。
「社長!?」
紫はなりふり構わず里奈の元へ駆け寄る。
「社長! ねえ起きて! 里奈さん!」
紫が体を強く揺すっても、既に冷たくなっている里奈は目を開けない。
「……銀?」
舞姫が二人の元に歩み寄って心底驚いたような声を出す。その目に映っているのは他でもない里奈の姿。
「何で銀がここにいるの? ここは百年後の世界なんでしょ? 普通の人間は死んでるはずじゃ」
「あ、それは……」
どう説明しようか。紫が迷っていると急に強い殺気を感じる。
「危ない!」
舞姫を突き飛ばすと同時に自身もその場に伏せる。直後、頭上を掠めながら光線が空を貫いた。
「よくもやってくれたわね。破壊神」
舞姫と紫の目の前には半身が闇に包まれ憎悪を表す紅い目でこちらを見据えた縁がいた。
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