乙女よ。その扉を開け

雪桃

Aからの通告

 それから何の変わりも無く――フェリスは相変わらず紫にくっついていたが――重要な手がかりも無いまま文化祭前日となってしまった。

「ひいちゃんこれ持ってってー!」
「はーい!」

 謎が解けていない今、本来は付きっきりで探偵部にいなければいけないが紫の場合はそうも言っていられない。

 飲み込みの早い紫は説明を聞けば理解できる質のためにクラスでも重宝されているのだ。

「柊さーんこれってどうすれば良いの?」
「後でパネルが届くからそれに貼っつけて。
 その前に壁にゾンビの写真とか貼っちゃって」
「柊さんこれ何センチで切れば良い?」
「縦十五の横二十」
「柊さーん」

 一応文化祭係はいるのだがずっとこの調子だ。
 お陰でフェリスにも会えない。

(さっさと終わらせてあやの所に行って……フェリスに捕まらないようにしないと)
「……紫」
「何……って」

 隣を見るとひなみが無表情に立っていて腕を掴まれていなければ後ろから転ぶ所だった。

「な、何でここに」
「……一応クラスがここだからいるんだけど」

 何でもかんでもマフィアとして見てしまう紫にひなみは少なからず嫌悪を見せた。

「あ……ごめん」
「別に。先輩がお呼びよ」

 先輩――?

「あや」

 あやが邪魔にならない程度にドアの前に立っていた。

 その目には紫だけでなくひなみの姿も映っていて幾分何とも言えない表情になっていた。

「行ってくれば? 大変なんでしょネックレス」
「……」

 何故ひなみは知っている?
 やはりその“A”はマフィア?

 そうだとしてもひなみはどうしてこんなに分かりやすいヒントを出しているのだろうか。

「早く行きなよ」
「……っ。ちょっと遅くなるって言っといて」

 早足であやの方に向かう。

「……無事?」
「え? あ、はい大丈夫だと思います」

 現にひなみとは少し話しただけだ。
 一度腕を掴まれたがあれは紫が不注意だっただけだ。

「どうしたんですか?」
「Aから手紙が来た」

 メールを送ったらしいが忙し過ぎて気づかなかった。
 二人は急いで部室へ行く。

 拝啓 探偵部様
 調査は進んでおりますか。
 あなた方は私の正体を勘ぐっておりますでしようが私はここの者ではございません。
 あなた方の狙っている者は他にいます。
 どうぞご健闘を。
 A

「どうぞご健闘を……って舐めてんのこいつ?」
「あさ。見えない相手に喧嘩売らない」
「私はここの者では無いって桜高の生徒じゃないってことだよな」
「じゃあどうして俺達のことを知っているんだろう」
「内通者がいるってことだろうけど」

 何故そんなことをする必要がある?
 弱点を知るためならともかく、宝石を狙う犯人を捕らえろなんて双方共に何の得があるというのだ。

「明後日だって言うのに何で更に謎が増えるのかなぁ」
「最悪演劇部につきっきり?」
「シフトとかで無理でしょ」

 深雪に教えてもらった演劇部の公演時間にはシフトを入れないようにしたがつきっきりは流石に無理だ。
 本来の仕事も残っている。

「とにかく明日までは時間が空けば部室に集合。
 二日目は徹底的に犯人探しとネックレスの監視」
「了解」











 パチパチと火が燃えているのを少女は何時間も見つめていた――否、その上に吊るされた人間を見つめていたのだ。

「も、申し訳ございません当主様。どうかご慈悲を」
「慈悲ぃ?
 脱走を企てたくせに何言ってんのかしら」

 少女は火の強さを増して人間の足をその火につけたまま固定した。

「あああ!! 熱いあづいぃぃ!!」

 人間の皮膚がどんどん爛れていき、もがけばもがくほど火の強さは増していく。

「うふふ。もっと啼きなさいな。
 私の玩具おもちゃは今違う所に行ってて遊べないから代わりになってくれてるのだけれど……全然エロくないわ。
 奴隷のくせに生意気」

 少女は火をそのままに鞭を持ってきて人間の体をベシベシ叩いた。

「ああああ!! いだいぃぃぃ!!」
「私の好みだったら玩具にしてあげたのに。
 可哀想な奴隷」

 数分後には人間は動かなくなった。
 少女は見下ろして鞭に付いた血を舐めとる。

「ああ。早く破壊神を捕えなきゃ。
 でないと玩具が帰ってこない」

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