乙女よ。その扉を開け

雪桃

アイラVS紫

 里奈は知人から借りたモーターボートで紫の気を感じる方向へ急いだ。

(気が急に強くなった……破壊神が目覚めたの!?)

 時計も携帯も今見ている時間は無いがまだ日は出ているから出発してもそう遠くへは行っていないはずだ。
 貨物船なら尚更だろう。

「船が見えたら合図するからしっかりとゆかを取り戻してきなさい」
「……了解」








 重傷を負ったのは果たしてどちら。
 そんな問は愚問に思える程一目瞭然としていた。

「ゼエ……ゼエ……」
「ハア……ハア……」

 アイラは炎で切られ酷い火傷を体中に負い、紫は切っても切っても消えていかない魂に体中を食われていた。

 共に体力も魔力も先の一発に込めて撃ったせいで治癒が正常に働かない。

「死ね……死ねえぇぇぇぇ!!」

 アイラが魂の刃を放つ。

「消えろぉぉぉぉぉ!!」

 紫も負けじと炎の剣で切っていく。

「私は負けない! 死は何よりも強い力だもの!
 全ては私にひれ伏すのよ!」
「死が持ってくるのは恐怖だけ。そんなものは全部私が壊してやる!」

 両者共に限界の中で戦っている。
 先に魔力を切らした方が負けだ。

 火を浴び、体を食われ、火傷で皮膚が爛れ、歯型に肉が落ち、それでも珠が消えることは無く――永遠に戦争が終わることは無いと思われた時だった。

 ピシ……

 アイラの珠に亀裂が走った。
 魔力が残り僅かだという証拠だ。

「な……ん……」
「あああああああ!!」

 勢いの収まった異能を燃やし紫はアイラを思い切り殴り海に落とした。

「わた、し、の……かちよ。アイ……」

 貨物の中から爆発音が響き、ついで船が大きく傾く。

「まさ、か……火薬!?」

 フェリスを肩にかけ脱出しようとするが周りは海である。

 破壊神には羽がある。
 だからと言って飛べるかは分からない。
 それに――

「……っ!」

 足に力が入らない。
 気づかなかったが足の一部は大きく食われ、骨すら見えてしまっている。

「うご、け……動けぇぇぇぇ!!」

 船体は傾いていき半分は海に浸かっている。

(こんな所で死んでたまるか!! フェリスを)

 意志に反して意識は薄れていく。

(せめ、て……フェリスを)
「じっとして」

 何かが紫を包み込みそのまま海へジャンプする。

「?」
「フェリスも紫も無事よ社長」
「……フェリスは死亡。ゆかも瀕死状態。どこが無事よ」

 里奈の声だ。紫は安堵した。
 だがそれはそうとしてこの声は――

「身体を持ってきただけ無事です。てか急に呼び出されたこっちの身にもなってくださいよ」
「それは本当に悪かったわよ。でも助かったわ。
 ありがとね。雛子」

 ――ひなこ?
 紫のぼやけた視界で見えたのは

「また作戦考えないとなぁ」

 新上ひなみだった。

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