乙女よ。その扉を開け
狂気に勝ち、怒りに負ける
ある程度旻が追いつけない所まで行き、時を戻す。あまり長時間時を止めていると時空が歪んでしまうのだ。
幸いなことに先程の爆発のおかげで研究員に見つからない道がある。里奈は懐中時計を手にする。
(まだ日本圏内にはいる。武田警部に発信して)
するとまた轟音が鳴り響き機体が傾く。
「う……あっつ」
高熱に晒された体からは汗がとめどなく溢れる。軽く目眩を覚えたがそれを振り切って里奈は気が強くなっている方へ走る。
どうやら機体はあまり高くなく、奥行きが長いらしい。螺旋階段を上った所で里奈は信じられない光景を目にした。
「ゆかとあやが、殺し合い?」
恐らくそこがこの研究所の総集部屋なのだろう。
二人の炎で辺り一面が火の海になったその大部屋が何故未だ崩れないのか不思議で仕方がない。
「な、にして」
容赦など無い紫とサヤの殺し合いに里奈は狼狽えることしかできなかった。
「何してるのあなた達! 仲間同士で殺し合うなんて」
「……社長?」
紫が里奈の存在に気付いて驚いた後、すぐに安堵の表情を浮かべた。
「良かった。社長、生きてた」
「え、ええ。恐らくだけど探偵社の人間全員生きてるわ。だから」
「それなら心置き無くこいつらを殺せる」
「え?」
里奈は違和感に気づいた。
紫はもう異能も操れて会話できて本当に“普通”なのだ。
「な、何言ってるの。人殺しなんて駄目よ」
「だってこいつらは私の家族を殺そうとした。それが神が作った運命だって破壊神が言ってた。ならそんなもの私が壊してやるの。だって私は破壊の神様。狂気のお姫様なんだもの」
彼女が狂っていないことは里奈にもよく理解出来た。
紫は家族を――探偵社を愛するばかり狂気に勝ちながら怒りに負けたのだ。
「待ってて。もう誰も苦しませない。全員殺してあげるから」
まるで母のような言い方に里奈は身震いする。
紫はたったの十五歳だが破壊神は神という存在が生じてから誕生し、その力を憑依した昔の者も狂気と戦いながら異能者を守ってきたに違いない。その記憶が全て流れ込んできたのだろう。
「ゆ、か。駄目よ。私達は平気なの。確かに運命は残酷よ。でも誰も自分達の幸せの為にゆかを殺人鬼にしたいなんて思ってないの」
サヤを守っている黒炎を纏った竜が紫を見て臨戦態勢に入る。
「異能」
「ゆか、やめて!」
里奈の願いを打ち消し、紫はその珠に炎を溜める。
「破壊神」
炎で出来た無数の刃がサヤの竜を倒し、サヤ自身に襲いかかろうとした。
「あや!」
「…………」
後数ミリでサヤの心臓に突き刺さろうとした所で、その間に影が下から炎を消し去った。
「セーフ」
影になって逸早く追いついた雛子がいくらか息を弾ませて異能を繰り出していた。
「ひな、皆は?」
「平気。一番危ない日和も真由美がいるから」
「それなら」
こちらに集中できる。紫が狂ったのは分かった。それとあやがサヤに成り代わったことも里奈は大体理解していた。
「……黒炎の魂」
「させない」
異能を回復させて紫とサヤが再度殺し合おうとするとサヤの首を白い塊――魂が絡みついた。
「紫は私の玩具よ。それ以上争うなら殺す」
「ア、イラ?」
サヤの背後に立ち、その首を魂で絞める。
「っ」
「や、やめなさいアイラ! あやを殺さないで」
アイラは里奈を見て軽く舌打ちする。
「社長なのに甘過ぎない? どうせこいつが戻ってくる可能性なんて少ないのに」
「いいえ。必ずあやを戻すわ。だから離しなさい」
「なんでこんなに能天気なのよ」
アイラはそう吐き捨てる。
「紫がどうしてもって言ったから助けてやってるのにどうして私が家族ごっこしなきゃならないのよ」
「そうね。悪いわ。だからお願い、今だけでも」
いくら敵と言えどアイラはこちらに協力してくれたのだ。里奈もそのことだけは念頭に置いている。
「アイラ。今日だけは私のいうことを聞いて」
だからこそこれは賭けなのである。もしアイラが嫌と言えば生きて帰れる可能性が随分と低くなる。
だがそうすれば今どれだけ強かろうが死のリスクが高まる紫を手放すことになる。
果たしてそれをアイラが選ぶだろうか。
「…………」
「どうするアイラ」
里奈の意図が掴めたアイラはサヤの鎖を手放さずに無言で一点を見つめた。
「ウザ」
「何とでも言いなさい」
アイラの暴言にも里奈は屈しない。
「面倒くさい」
「それが大人というものよ」
アイラがピクリと眉を寄せる。
「細かく支持したら聞かない」
「ええ」
アイラの魂は魔力を幾らか消す力を持っている為、サヤは異能を繰り出せないでいた。
「早くしてよ」
「分かってるわ」
里奈は雛子とアイラを順々に見てから口を開いた。
「アイラ、ひな、ゆかを足止めしなさい!」
幸いなことに先程の爆発のおかげで研究員に見つからない道がある。里奈は懐中時計を手にする。
(まだ日本圏内にはいる。武田警部に発信して)
するとまた轟音が鳴り響き機体が傾く。
「う……あっつ」
高熱に晒された体からは汗がとめどなく溢れる。軽く目眩を覚えたがそれを振り切って里奈は気が強くなっている方へ走る。
どうやら機体はあまり高くなく、奥行きが長いらしい。螺旋階段を上った所で里奈は信じられない光景を目にした。
「ゆかとあやが、殺し合い?」
恐らくそこがこの研究所の総集部屋なのだろう。
二人の炎で辺り一面が火の海になったその大部屋が何故未だ崩れないのか不思議で仕方がない。
「な、にして」
容赦など無い紫とサヤの殺し合いに里奈は狼狽えることしかできなかった。
「何してるのあなた達! 仲間同士で殺し合うなんて」
「……社長?」
紫が里奈の存在に気付いて驚いた後、すぐに安堵の表情を浮かべた。
「良かった。社長、生きてた」
「え、ええ。恐らくだけど探偵社の人間全員生きてるわ。だから」
「それなら心置き無くこいつらを殺せる」
「え?」
里奈は違和感に気づいた。
紫はもう異能も操れて会話できて本当に“普通”なのだ。
「な、何言ってるの。人殺しなんて駄目よ」
「だってこいつらは私の家族を殺そうとした。それが神が作った運命だって破壊神が言ってた。ならそんなもの私が壊してやるの。だって私は破壊の神様。狂気のお姫様なんだもの」
彼女が狂っていないことは里奈にもよく理解出来た。
紫は家族を――探偵社を愛するばかり狂気に勝ちながら怒りに負けたのだ。
「待ってて。もう誰も苦しませない。全員殺してあげるから」
まるで母のような言い方に里奈は身震いする。
紫はたったの十五歳だが破壊神は神という存在が生じてから誕生し、その力を憑依した昔の者も狂気と戦いながら異能者を守ってきたに違いない。その記憶が全て流れ込んできたのだろう。
「ゆ、か。駄目よ。私達は平気なの。確かに運命は残酷よ。でも誰も自分達の幸せの為にゆかを殺人鬼にしたいなんて思ってないの」
サヤを守っている黒炎を纏った竜が紫を見て臨戦態勢に入る。
「異能」
「ゆか、やめて!」
里奈の願いを打ち消し、紫はその珠に炎を溜める。
「破壊神」
炎で出来た無数の刃がサヤの竜を倒し、サヤ自身に襲いかかろうとした。
「あや!」
「…………」
後数ミリでサヤの心臓に突き刺さろうとした所で、その間に影が下から炎を消し去った。
「セーフ」
影になって逸早く追いついた雛子がいくらか息を弾ませて異能を繰り出していた。
「ひな、皆は?」
「平気。一番危ない日和も真由美がいるから」
「それなら」
こちらに集中できる。紫が狂ったのは分かった。それとあやがサヤに成り代わったことも里奈は大体理解していた。
「……黒炎の魂」
「させない」
異能を回復させて紫とサヤが再度殺し合おうとするとサヤの首を白い塊――魂が絡みついた。
「紫は私の玩具よ。それ以上争うなら殺す」
「ア、イラ?」
サヤの背後に立ち、その首を魂で絞める。
「っ」
「や、やめなさいアイラ! あやを殺さないで」
アイラは里奈を見て軽く舌打ちする。
「社長なのに甘過ぎない? どうせこいつが戻ってくる可能性なんて少ないのに」
「いいえ。必ずあやを戻すわ。だから離しなさい」
「なんでこんなに能天気なのよ」
アイラはそう吐き捨てる。
「紫がどうしてもって言ったから助けてやってるのにどうして私が家族ごっこしなきゃならないのよ」
「そうね。悪いわ。だからお願い、今だけでも」
いくら敵と言えどアイラはこちらに協力してくれたのだ。里奈もそのことだけは念頭に置いている。
「アイラ。今日だけは私のいうことを聞いて」
だからこそこれは賭けなのである。もしアイラが嫌と言えば生きて帰れる可能性が随分と低くなる。
だがそうすれば今どれだけ強かろうが死のリスクが高まる紫を手放すことになる。
果たしてそれをアイラが選ぶだろうか。
「…………」
「どうするアイラ」
里奈の意図が掴めたアイラはサヤの鎖を手放さずに無言で一点を見つめた。
「ウザ」
「何とでも言いなさい」
アイラの暴言にも里奈は屈しない。
「面倒くさい」
「それが大人というものよ」
アイラがピクリと眉を寄せる。
「細かく支持したら聞かない」
「ええ」
アイラの魂は魔力を幾らか消す力を持っている為、サヤは異能を繰り出せないでいた。
「早くしてよ」
「分かってるわ」
里奈は雛子とアイラを順々に見てから口を開いた。
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