乙女よ。その扉を開け
少し休憩してバレンタインデー
ある日の休み。
紫と雛子は遠出をして買い物に来た。
「ここ本当に何でも揃ってるね。まさに聞いておいて良かった」
「紫はスポーツ用品店ならどこでも良いんじゃない」
運動中毒の紫はさっきから何時間も店中を回っている。どれだけ忍耐が強い雛子でもそろそろ飽きてきていた。
「ひなみは楽しくないの?」
「そりゃあ運動が好きな人にとっては靴とか魅力的なんだろうけど何時間も見てるのはやり過ぎ」
「そうかな? ならプロテイン見てきたら違う所行こっか」
紫は筋肉も脂肪も付きにくい体質の為、中学から毎日飲み続けても殆ど変わっていないことを理解しているのだろうか。
(いや、理解したとしてもあの子なら諦めずにやるな)
無駄なところで融通が効かないのである。
「相変わらずプロテインだけ味が豊富だな〜。いちごにミルク、バナナ……ん? 」
紫はプロテインが並んでいる所のポップを覗いてみた。
「あら紫。早かったね」
「ひなみ、ちょっと」
雛子は促されて紫に付いていく。
「何? 奢って欲しいの?」
「違う。これ見てみて」
「何なに? バレンタインデー直前。チョコ味プロテイン五個で三百円……これがどうしたの」
「凄くない?」
「いやだから何が」
「プロテインが五個で三百円だよ!? しかも皆大好きチョコ! これを買わない人はいないよ」
「は、い?」
目をキラキラ輝かせて箱詰めされているチョコ味プロテインを紫はうっとり眺めている。
「お給料も社長が少しあげてくれたし〜。いつもは二個で我慢してるけどチョコなら全然飽きないし〜。今日の予算は五千円だし〜」
「紫。落ち着いて」
流石に何かを察知した雛子は紫の手から箱を奪おうとする。しかも今五千円がどうだとか言ってたし。
「紫。五千円も何に使うつもり」
「決めた! 店員さぁん五千円で買える分だけのプロテインください!」
言ってしまった。
「紫が初めて無駄使いを……」
「バレンタインデー最高!」
雛子は頬を引きつらせながらスキップしてしまっている紫を追いかけた。
「まじでそれ全部プロテインなの?」
「はい! あ、あやにもお裾分けしましょうか」
「いらないっす」
五千円分のプロテイン=三百円×十七箱。
十七箱=十七×五個。
つまり八十五個のチョコ味プロテインを紫は袋を抱えながらうっとりと眺めていた。
「いらないんですか」
「別に筋肉ムキムキになりたくないし」
「でも運動する人には大切ですよ?」
「いや、あのね、本当にいらないから。あ、あさなら欲しがるかもよ?」
「こっちに飛ばすなぁ!!」
紫から無理矢理持たされたプロテインをあやはあさに投げ飛ばす。
「優しく扱ってくださいよ。勿体ないんですから」
「「いらんわこんなもの!!」」
二人から同時にプロテインを押し返されたせいで紫は軽くいじけた。
「むー」
「ゆかは相変わらず面白い趣味持ってるわね。そう思わない里奈?」
「そうかしら。後これ趣味じゃないわよ多分」
呆れて溜息を吐く里奈は書類整理をしながらある一つの封筒に目が行った。
「ん? スポーツ用品店からも依頼があるわ」
「なんだって?」
「最近売り上げが良くないから手伝ってくれって。うちは探偵で何でも屋じゃないのに」
「じゃあ万部の子達に」
「やめなさい真由美」
ピシリと里奈は真由美の頭を叩く。
「報酬とかは?」
「バレンタインも近づいて来ておりますのでチョコに因んだ商品をお送りしますって」
「社長私が行きます!」
盗み聞きしていた紫が里奈に詰め寄った。
「え、えっとあなたまさか」
「ああ。タダでプロテインもらえるなんてバレンタイン最高」
事務所内で話さなければ良かったと里奈は後々後悔したのであった。
「はあ。でも危ないからあやを連れて行きなさい」
「今私のこと売ったよね社長!」
「別に他の誰でも良いけど」
あやが振り向いて目があった者を選ぼうとするが
「さぁて仕事仕事」
「まだこんなにありますからね」
「もうすぐ新年度になるって言うのに減らないな」
「あんたらさっきそんなに真面目にやってなかったでしょうが! ねえから姉ぇ」
「その日はひよにずっとくっついてる日だからだぁめ」
「何その日!」
かくしてあやは強引に紫の運動中毒に付き合うことになったのだった。
「全く。スポーツ用品なんてあんまり興味無いのに」
「楽しいですよ。新商品とか出てるとテンション上がりますし」
「なんじゃそりゃ」
だが仕事は仕事なのであやも真面目に取り組むことにはした。
「そういや何宣伝するの?」
「決まってるじゃないですか」
そう言って紫はプロテインの缶をあやに差し出す。
「聞いた私が馬鹿でした」
「さ、たっくさん売っちゃいましょう!」
あやは思い切り溜息を吐いて紫の後をついて行った。
可愛らしい二人が宣伝すると――大体はボディービルダーとかに――二時間もかからず予定の量を売り上げることができた。
「お疲れ様。これが報酬金です」
「プロテインはもらえますか?」
「え? あ、はい」
店長に渡された袋一杯のプロテインを大事そうに持つ紫を見てあやは何度目になるか分からない溜息を吐いた。
「バレンタインに逆チョコはあるとしても逆プロテインは初めて聞いたよ」
「そんなにプロテイン嫌いですか?」
「嫌いでは無いけど好きでも無い」
紫はしばし何かを考える素振りをしてからあやをその場に待たせた。
数分後。新たに違うビニール袋を持ってあやの元へやってきた。
「どしたの」
「はいこれ。バレンタインチョコですよ」
あやがチョコを食べたいと紫は考えたが今からチョコは作れないので市販のものを急いで買ってきたらしい。
「またいつか作りますけど今年はこれで我慢してください」
「ゆ、ゆか」
あやは何とも言えない表情を向けた後、勢いをつけて紫を抱きしめた。
「いたたたたた!」
「も〜可愛いなぁお前は〜」
バレンタインの日。
緋色髪を持つ娘が小さな娘を路上で撫で回しているという光景が映し出されたのであった。
紫と雛子は遠出をして買い物に来た。
「ここ本当に何でも揃ってるね。まさに聞いておいて良かった」
「紫はスポーツ用品店ならどこでも良いんじゃない」
運動中毒の紫はさっきから何時間も店中を回っている。どれだけ忍耐が強い雛子でもそろそろ飽きてきていた。
「ひなみは楽しくないの?」
「そりゃあ運動が好きな人にとっては靴とか魅力的なんだろうけど何時間も見てるのはやり過ぎ」
「そうかな? ならプロテイン見てきたら違う所行こっか」
紫は筋肉も脂肪も付きにくい体質の為、中学から毎日飲み続けても殆ど変わっていないことを理解しているのだろうか。
(いや、理解したとしてもあの子なら諦めずにやるな)
無駄なところで融通が効かないのである。
「相変わらずプロテインだけ味が豊富だな〜。いちごにミルク、バナナ……ん? 」
紫はプロテインが並んでいる所のポップを覗いてみた。
「あら紫。早かったね」
「ひなみ、ちょっと」
雛子は促されて紫に付いていく。
「何? 奢って欲しいの?」
「違う。これ見てみて」
「何なに? バレンタインデー直前。チョコ味プロテイン五個で三百円……これがどうしたの」
「凄くない?」
「いやだから何が」
「プロテインが五個で三百円だよ!? しかも皆大好きチョコ! これを買わない人はいないよ」
「は、い?」
目をキラキラ輝かせて箱詰めされているチョコ味プロテインを紫はうっとり眺めている。
「お給料も社長が少しあげてくれたし〜。いつもは二個で我慢してるけどチョコなら全然飽きないし〜。今日の予算は五千円だし〜」
「紫。落ち着いて」
流石に何かを察知した雛子は紫の手から箱を奪おうとする。しかも今五千円がどうだとか言ってたし。
「紫。五千円も何に使うつもり」
「決めた! 店員さぁん五千円で買える分だけのプロテインください!」
言ってしまった。
「紫が初めて無駄使いを……」
「バレンタインデー最高!」
雛子は頬を引きつらせながらスキップしてしまっている紫を追いかけた。
「まじでそれ全部プロテインなの?」
「はい! あ、あやにもお裾分けしましょうか」
「いらないっす」
五千円分のプロテイン=三百円×十七箱。
十七箱=十七×五個。
つまり八十五個のチョコ味プロテインを紫は袋を抱えながらうっとりと眺めていた。
「いらないんですか」
「別に筋肉ムキムキになりたくないし」
「でも運動する人には大切ですよ?」
「いや、あのね、本当にいらないから。あ、あさなら欲しがるかもよ?」
「こっちに飛ばすなぁ!!」
紫から無理矢理持たされたプロテインをあやはあさに投げ飛ばす。
「優しく扱ってくださいよ。勿体ないんですから」
「「いらんわこんなもの!!」」
二人から同時にプロテインを押し返されたせいで紫は軽くいじけた。
「むー」
「ゆかは相変わらず面白い趣味持ってるわね。そう思わない里奈?」
「そうかしら。後これ趣味じゃないわよ多分」
呆れて溜息を吐く里奈は書類整理をしながらある一つの封筒に目が行った。
「ん? スポーツ用品店からも依頼があるわ」
「なんだって?」
「最近売り上げが良くないから手伝ってくれって。うちは探偵で何でも屋じゃないのに」
「じゃあ万部の子達に」
「やめなさい真由美」
ピシリと里奈は真由美の頭を叩く。
「報酬とかは?」
「バレンタインも近づいて来ておりますのでチョコに因んだ商品をお送りしますって」
「社長私が行きます!」
盗み聞きしていた紫が里奈に詰め寄った。
「え、えっとあなたまさか」
「ああ。タダでプロテインもらえるなんてバレンタイン最高」
事務所内で話さなければ良かったと里奈は後々後悔したのであった。
「はあ。でも危ないからあやを連れて行きなさい」
「今私のこと売ったよね社長!」
「別に他の誰でも良いけど」
あやが振り向いて目があった者を選ぼうとするが
「さぁて仕事仕事」
「まだこんなにありますからね」
「もうすぐ新年度になるって言うのに減らないな」
「あんたらさっきそんなに真面目にやってなかったでしょうが! ねえから姉ぇ」
「その日はひよにずっとくっついてる日だからだぁめ」
「何その日!」
かくしてあやは強引に紫の運動中毒に付き合うことになったのだった。
「全く。スポーツ用品なんてあんまり興味無いのに」
「楽しいですよ。新商品とか出てるとテンション上がりますし」
「なんじゃそりゃ」
だが仕事は仕事なのであやも真面目に取り組むことにはした。
「そういや何宣伝するの?」
「決まってるじゃないですか」
そう言って紫はプロテインの缶をあやに差し出す。
「聞いた私が馬鹿でした」
「さ、たっくさん売っちゃいましょう!」
あやは思い切り溜息を吐いて紫の後をついて行った。
可愛らしい二人が宣伝すると――大体はボディービルダーとかに――二時間もかからず予定の量を売り上げることができた。
「お疲れ様。これが報酬金です」
「プロテインはもらえますか?」
「え? あ、はい」
店長に渡された袋一杯のプロテインを大事そうに持つ紫を見てあやは何度目になるか分からない溜息を吐いた。
「バレンタインに逆チョコはあるとしても逆プロテインは初めて聞いたよ」
「そんなにプロテイン嫌いですか?」
「嫌いでは無いけど好きでも無い」
紫はしばし何かを考える素振りをしてからあやをその場に待たせた。
数分後。新たに違うビニール袋を持ってあやの元へやってきた。
「どしたの」
「はいこれ。バレンタインチョコですよ」
あやがチョコを食べたいと紫は考えたが今からチョコは作れないので市販のものを急いで買ってきたらしい。
「またいつか作りますけど今年はこれで我慢してください」
「ゆ、ゆか」
あやは何とも言えない表情を向けた後、勢いをつけて紫を抱きしめた。
「いたたたたた!」
「も〜可愛いなぁお前は〜」
バレンタインの日。
緋色髪を持つ娘が小さな娘を路上で撫で回しているという光景が映し出されたのであった。
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